__この歳になって、YouTube には深く感謝している
若い頃、耳で覚えているばかりで、曲名が判らない楽曲を何度も YouTube で芋づる式に聴いて探しては見つけることが出来た
高校生の頃、片思いの美少女と出くわした書店のBGMで流れていた、ブレッド&バター(当時はル・ミストラル)の「青い地平線」(1978)……
この曲はあらかた35年近く探した、筒美京平の作曲で詩はなかにし礼と知って「むべなるかな」と唸ったものだ
なるほど、恋とは男と女ふたりっきりで斎行される「祭り」だったのかと……
また、ヘンリー・マンシーニの映画音楽で、題名が判らないでいたものは、『幾たびか美しく燃え』のサントラ盤だった
原題は『Once Is Not Enough』であった、これは40年間も探したことになる
わたしは、荒井由実からバリー・マニロウ「コパカバーナ」にいって、一気にEW&F(「黒いビートルズ」と云われたものだ)までいった
マイケル・ジャクソンやジョージ・ベンソンを産んだ、クインシー・ジョーンズのプロデュース……
そして、クインシーお抱えの天才作曲家ロッド・テンパートンの楽曲に痺れて、その美しすぎる展開のオーケストレーションに釘付けになったものだ
ジャズは、『仮面ライダー』や『ルパン三世』などはジャズだったから自然に馴染んで、ハーブ・アルパート「ライズ」で、クロスオーバー(=フュージョン)にドはまりした
ディスコ音楽にもカブレて、そのまま80年代に突入した、映画『サタディナイト・フィーバー』と『ロッキー』の印象を引きずったまま、キラキラとミラーボールが煌めいて蠱惑された
メロディーラインの美しい曲が目白押しだった憶えがある、80年代(前半)に露われた楽曲をすべて漏れなく聴きたいと当時心から思ったものだ
そのつつましやかでいて贅沢な夢は、現在、YouTube で実現する
音楽的には「不毛」に感じた90年代(TKのせいでもある)を経て、2000年代ますます酷くて、なにやら情緒に欠けて非道いのだった
いまにいたるも、メロディーラインの美しい曲はなかなか見つからない(オリジナルラブ・田島貴男「接吻」(1995)は、最近になって聴いていたく感動したんだけどね)
ミュージックビデオが出現した80年代は特別な音楽時間だったのかも知れん
仕事のストレスを発散させるためにも、永らく「No Music No Life」を地でいっていたものだった
居酒屋でも公園でも、ビールやコーヒー片手に、心を揺さぶる音楽をかけて、煙草を吹かす……
これが三位一体の快楽であった、ほんとうに仕合せだったと今にして思う
仕事も歳とともに慣れ、安定した心持ちで、音楽にも頼らなくなった
伊勢白山道とともに、タバコの紫煙ともおサラバして、認知症の母と共に、酒の量もガタ減りした
こーして、わたしの幸福のトライアングルは気づかぬうちに霧散していたのである
ようするに、気分を高める道具をつかうのを意図的に止めたのだ
そして、なにも特に面白いこともないままに、丁寧にその日一日を過ごすことを心掛けて、つつましく生きている
なにか、覚ったのではないかと勘違いするほど、落ち着いて、落ち込むこともほとんど無くなった(以前は、間欠的に半年に一週間とか酷く気が塞がる周期があったものだ、伊勢白山道の先祖供養のおかげなのか、迷いが吹っ切れて、やっとフツーの人間に戻った思いがした)
で、目の前のことに精一杯自分を忘れて打ち込み、職人の端くれとして励んでいた、いまはそれも辞めてしまったが……
神型567で、生活が一変して、鬱々と生き延びている今日この頃…… 心を晴らす音楽とてなかなか見つからないのだが……
なぜか、ヒジョーな懐かしさに襲われる一曲がある
むかし、よく聴いていたし耳新しい楽曲ではないのだが…… いまあらためて音を追いかけて聴いてみると、じんわりと吾が心を柔らかく解(ほぐ)してくれる
若い頃から素朴ないい風貌で歳をかさね、老いてなお慈しみ深く、情味のあるご隠居さん風で、地道で地味、無骨で骨太な実力派シンガーであった……
[※ RIP, Bill 2020, 瞑目合掌]
グローバー・ワシントンJr.の大流行りした「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」や、クルセイダーズの「ソウル・シャドウズ」のヴォーカルを陰ながらつとめた
なにやら黒子のよーな印象であったが、自ら歌もつくる
その哀調を帯びた深い声音はさすがである、「ラブリー・デイ」(この曲はシャカタクがカバーしている)などにも作曲の才がうかがえる
彼、ビル・ウィザーズがこの楽曲のオリジナル・シンガーである

Jon Lucien - Hello Like Before
From Allmusic.com: "This cover of a 1975 Bill Withers classic also hap...
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このYouTubeを観ると、画面に「cowritten by Bill Withers, 1976」とあって、ホンマかいな?と疑っちゃうのだが(確かに同じレーベルに所属してはいたが…… )、それはさておき、ジョン・ルシアンのアナリーゼ(楽曲の解釈)は独創的で洒落ていて脱帽せざるを得ない
こんなに寂しげな曲も、彼にかかるとハッピーソングに聞こえるから不思議な妙味がある
ビル・ウィザーズが佳いのは勿論で言うまでもなく素晴らしいのだが、ジョン・ルシアンも陰陽相拮抗して匹敵するほどに佳い
ビルの歌いはじわじわと涙腺がゆるんでくるが、ジョンの歌いはむしろ明るく入ってたんたんと歩んでゆき、ある瞬間堰を切ったかのよーに泪があふれてくる
なんでもないよーに、たんたんと生きている沈黙から来るのだろー
ひっそりと人知れずでも、着実にあゆんだ人生が感じられる、途中の間奏(ギター爪弾き)も泣かせる
どこか、祝福する雰囲気が伝わる曲調である
ーさいごに、Cathy Rocco とゆーおばさんなのだが、はじめて白人の歌う「ハロー・ライク・ビフォア」である
昔モテたであろー、この妙齢(間違えた、年増の艶したたる熟女)の姐さんが割とサバサバと人生を謳い綴る
この乾いた感じもわるくない、彼女の大母性にすっぽりと包み込まれる、やさしく温かく……(ちょうど映画『マトリックス』シリーズの初代オラクルがこんな感じだった、二作目撮影時には亡くなっていたので別人の二代目に引き継がれた)
マザー・テレサが、路上の不可触賎民が亡くなる直前に抱きしめて、情味ある好意のこもったコトバを此の世の最期に浴びせてくれるよーに、
おんなのお節介は、ある種の神の御業である

Cathy Rocco - Hello Like Before
Cathy Rocco performs live at the Rising Jazz Stars studio. Featuring K...
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ー三人三様に、懐かしき姿をうたう、エデンの楽園を離れたことは悲しい思い出ではないのだ
「地上とは思ひ出ならずや」(稲垣足穂)
このあたたかな心持ちにひたる瞬間に、生きている実感がある、そー仕合せがそこにあったのだから、そしてあの限りなき温もりにいつか回帰してゆく
_________玉の海草