12月17日付の共同通信のニュース記事です。
「日本の信任状提出は不愉快」ベラルーシ反政権
【ブリュッセル共同】ベラルーシ反政権派の象徴的存在、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏は16日、ブリュッセルで記者会見し、大統領選は不正だとして退陣を求めているルカシェンコ大統領に対する徳永博基駐ベラルーシ日本大使による信任状提出について「愉快な行動ではない」と述べた上で「ベラルーシの人々を助けるために最善を尽くす」ことを求めた。
徳永氏は昨年9月に大使に任命された。今年11月3日、北朝鮮、イラン、シリア、ベネズエラ、トルコ、バチカンの大使とともに信任状を提出。日本と宗教国家バチカンを除き、強権的な国々が並んだ。
・・・・・
以上が記事です。
信任状提出何それ?と思われた方は、12月13日付の毎日新聞の記事をご覧ください。
いろんな意見があるとは思います。
結局ベラルーシの野党からすると、日本政府の態度が曖昧でよく理解できないのだろうなと思います。
上記の記事だけ読むと、日本が北朝鮮といっしょにルカシェンコ大統領に信任状を渡して握手した・・・という光景が日本人からすると違和感を感じるでしょう。
ベラルーシ人からすると、信任状を渡した相手をベラルーシの国家元首として認めている、つまり独裁政治や軍事政権を日本政府は支持している・・・と思われます。
一方で、在ベラルーシ日本大使は、反政府デモに参加していて治安部隊に殺害されたとされる最初の死者、タライコフスキーさんが亡くなった現場にEU各国の大使といっしょに献花しています。ベラルーシのニュースでは「EU各国の大使が献花した。」と報道されましたが、そこに日本大使も合流していたことは報道されていませんでした。(この点、ベラルーシ野党のメンバーは把握していないのでは?)
次にEU各国大使が自国の言葉で「暴力反対」と書いたプラカードを手にして一堂に会し、写真撮影するベラルーシ政府への抗議活動を行ったときも日本大使が日本語で「暴力反対」という紙を持って参加しています。
実際にベラルーシでアナーキズム活動をしていた日本人男性が身柄拘束され、今も刑務所内で留置されている状態ですが取り調べの際に罪を認めるよう強要され、殴られているのですから、日本が「暴力反対」キャンペーンに合流しなかったらおかしいでしょう。
という経緯があったので、日本は完全に欧米寄りの態度であることを示していたのです。だからてっきり日本はベラルーシ政府に反対姿勢を打ち出していると思っていました。
(一方でEU諸国大使がノーベル賞受賞作家アレクシエーヴィチ氏の自宅を連日訪問したときには日本大使は合流せず・・・。アレクシエーヴィチ氏の作品は日本語にも翻訳されているし、来日講演したこともあるんですが。)
さらにEU諸国のほとんどの国が大使を自国へ一時的に召還して、今後の対応を協議していました。信任状の内容を考え直すという協議内容もあったと思いますよ。
ところが、EU諸国が全く出席しなかった場で、北朝鮮などと並んで、日本大使がルカシェンコ大統領に信任状(1年前に安倍総理が宛名をルカシェンコ大統領にしたもの。今はベラルーシも日本も状況が変わってしまったので、これを作り直すほうがよかったですね。)を渡したので、ベラルーシ野党からすると「え? ヨーロッパ諸国といっしょに『暴力反対』とかベラルーシ現政権を批判していた日本が?」と不思議に思ったのでしょう。
だからブリュッセル(EU)にいる野党メンバーのチハノフスカヤ氏から日本の行動は「愉快な行動ではない。」という発言が出てくるのですよ。
そして野党メンバーのラトゥシコ氏からは「日本政府はもっと明確で、一貫した立場を取るべきだ」と言われ、日本政府は来年の東京五輪にルカシェンコ大統領など招待しなくていい、とまで言っているわけです。
このようなどっちつかずの曖昧な態度(外交)を国が取ることについては一長一短があります。
Yahoo!ニュースのコメント欄、つまり日本人の意見の中には「ベラルーシなんか知らん。日本とあまり関係ない国だしどうでもいい。日本が外国の政治に口出ししたら内政干渉になるしね。」と言う人もいます。
そういう人たちへ今日のベラルーシのニュースです。日本政府はベラルーシの複数の病院に合計10万米ドルの助成金を出しました。主に医療機器購入費用に充てられます。
ベラルーシに人からしたら、「ありがとう、日本! 今はコロナは大変なので助かります。」と喜ばれ、この医療機器購入により、人生が変わるベラルーシ人患者(運悪く死んでいたところが助かった)も出てくるわけです。私は、日本とベラルーシの友好関係継続の後押しになるのですから素晴らしいことだと思います。
しかし、日本人によっては「え? 今は日本もコロナで大変なのに、日本人の税金からなんで外国人のためにお金を出すの? それより日本政府は日本人を助けることを優先すべき。」と考える人もいるでしょう。
ベラルーシなんて遠い国で日本と関係ない、と思っていたら、日本人が払った税金がベラルーシ人の健康のために使われているのだから、全く無関係というのはありえないのです。
「その10万ドル、日本の困っている人の救済に充てろ!」と思った人へ。
この日本政府からベラルーシの病院への助成金はもう15年も続いています。ちなみに去年は22万ドルでした。今年は10万ドルだから1年前と比べると半分以下です。日本政府も今年はコロナ対策のせいでこれでもベラルーシへの助成金をほぼ半額にまで減らして、節約しているほうなのです。
次に「ベラルーシ野党が外国からの協力を取り付けたいのなら、日本に頼むんじゃなくて、近いドイツに頼めば?」という日本の方へ。
ベラルーシ野党が支持をドイツから取り付けるなんてとうにやってます。他のヨーロッパの国にも頼んでいます。そしてヨーロッパ諸国は支持を表明し、ルカシェンコ大統領をベラルーシの大統領とは認めていません。だから信任状も提出していないのです。
それらの国と、言わばベラルーシ政府に殺された一般市民に献花していた日本が、急にルカシェンコ大統領を大統領として認める行動を見せたので、野党は「よく分からない。」という心境になっています。これはもうすぐ日本政府への不信感へと変わるでしょう。ベラルーシ野党は日本政府を、どうもよく分からない、味方だと思っていたけど敵なのか? と今判断に迷っていると思います。
日本政府がベラルーシの病院に(そもそも政治とは関係なく、毎年していることなのですが)このタイミングで助成金10万ドルを発表して、ベラルーシのマスコミも取り上げていると言う状況は、日本政府としてはうまくやった感がありますね。
一方でこの日本政府からベラルーシへの助成金のニュースは日本語で報道されていますか?
お金をもらったほうのベラルーシ人は知っているのに、お金をあげたほうの日本人は知らないのではないでしょうか。
次に8月に身柄拘束されて留置されている日本人男性について。日本政府は個人特定を防ぐため、本名など公表しませんでした。しかしドイツの議員が、ベラルーシの政治思想犯の即時解放をベラルーシ大統領に求める運動を始めました。なんでもドイツ人議員がベラルーシ人政治犯の「ゴッドファーザー」や「ゴッドマザー」になってもらい、ベラルーシ大統領に、早く解放せよと後押ししてもらう支援運動です。
その中の一人に拘束された日本人男性も入っており、ゴッドマザーになったドイツ人議員が「彼は犯罪を犯したわけでもないのに、思想が無政府主義だというだけで逮捕、起訴するのは人権侵害だ。早急に解放するようベラルーシ政府に要求する。」と発言しています。
このようにドイツ人議員に支持を頼んだぐらいなので、本名を伏せ続けるわけにもいかず、こちらのメディアでは本名も公開されています。
しかしドイツ人議員が要求していることを、ベラルーシの政府(大統領)が耳を傾けるでしょうか? それこそ内政干渉だ、ベラルーシの法律を尊重してほしいと返されるだけだと思います。
そしてこのドイツ人議員さんは、このような支持運動をやってみましたよ、ということで「私は人権派の議員」とよいイメージを作り上げることができ、次の選挙のときに票が取れる・・・と思っているだけかもしれません。ドイツ人でもない日本人男性のためにそんなに熱心に取り組むとも思えません。結局、実名まで晒して、ドイツに支援を求めているのに、効果はなく、今も留置所にいる日本人男性の名前が一人のドイツ人議員のイメージアップに利用されているだけではないでしょうか。
私が思うのは、もう四ヶ月以上も留置所に入れられている日本人男性について、ドイツの議員が一応支援の声を上げて、ベラルーシ政府に早急に解放せよと強い口調で求めているのに、日本人の議員さんで、この日本人男性の解放のためにベラルーシ政府に強く訴えている人が一人もいないのはなぜなのでしょうか・・・ということです。
どうしてドイツ人議員は頼るのに、日本人議員は頼らないのでしょうか。水面下で日本人男性解放に向けて、日本人の政治家が努力しているのかもしれません。報道されないから知らないだけで。でも日本人男性の解放を日本人政治家ではなくドイツ人政治家に依頼しているというこの状況は、とても変に感じます。
そしてこの日本人男性の親は日本大使館員なのに、大使がルカシェンコ大統領に信任状を持って行って、日本人男性の拘束・留置を続けている大統領に向かって、ベラルーシ大統領として認めます、というポーズを取ったのは、日本政府としては矛盾していないでしょうか。日本も日本人の人権に重きを置いて考えない国なのでしょうか。