新潟久紀ブログ版retrospective

農政企画課7「地域農業担い手公社で財団設立に関与」編

◆◆番外エピソード短編集◆◆
●地域農業担い手公社で財団設立に関与

 農政企画課在職中に、農業の担い手育成対策として、新潟県単独の予算事業である「地域農業担い手公社設立支援事業」というものを担当した。
 零細な農家では跡を継いでもジリ貧だし、単身でいきなり先進的な大規模経営等を展開するのも難しい…。そんな農村において、市町村が公益法人を設立し、その信用度や組織体制の元で地域の高齢者等から農作業を集中的に受託し、公社の従業員として意欲のある若者に比較的規模の大きな作業の経験を積ませ、地域農業の支えてとして公社を卒業させていこうという制度設計だ。
 毎年3つずつ4年間で12公社の設立を目指すという計画で、私が2年目で担当を引き継いだ時は、既に3町村が財団法人の設立準備を始めていた。地域の農家が全般に高齢化して誰しも営農がままならなくなり、一方で農地の借り手や農作業の受け手も地域に十分に居ない…。そうした地域においては役所が自ら公社設立により受け手を作り、対処して行かざるを得ない状況も少なくなかったのだ。
 それにしても、私のような農業関係部署に初めて勤務する、しかも事務屋を担当にするとは、なんとも無茶をするものだ。農業専門の公益法人をイチから設立するにあたり、基本財産の造成に対しても県費で補助するというのだから、設立の目的や業務計画、収支見通し、それらを実現できるに足る組織体制や人材の確保、財源調達方法などの実効性等を十分審査しなくてはならない。農業そのものはもとより農業に関わる組織としての経営計画の妥当性など、農業に関する専門的知識が幅広く求められるのだ。
 農業経験について、子供の頃に親戚の農家において、手作業での田植えや稲刈りをほんの少し体験した程度の私は、町村役場の担当の方々には大変な迷惑をお掛けしたと思う。ただ一方で、私のようなド素人の素朴な疑問を端緒として、意外に詰めていない課題などが浮き彫りになったり綻びが見えることもあり、お互い様だったのかもしれない。
 町村にとって特に魅力なのは、施設設備や機器など立ち上げ投資に係る県費補助が受けられる点であったが、役場の担当者達は、欲しいと思う機器など"ハード"の説明は立派でも、それを宝の持ち腐れとしないよう、どのように効果的効率的に運用し確度の高い収支に結びつけていくかという"ソフト"の説明は拙い部分が多かった。国や県から機器整備に対する補助金をいかに多く取ってこれるかが市町村の農業政策担当の最重要任務とされてきた状況が垣間見えたものだ。
 町村立の農業公社の設立支援業務を通じて、農業経営に関して網羅的かつ総合的に学べたほか、公社が求められる背景である農業の担い手不足が深刻な中山間地域の実情をより深く知ることができたことは、平場の街なか暮らししか知らない私には得るものがとても多かった。加えて、財団法人又は社団法人をイチから立ち上げる手続きや書類など全般に関わることができ、関係法令や行政手続きに関する知見が広がったことも"事務屋"としては収穫だった。
 それでもやはり審査にあたり、農業そのものと設備機器に関する知識の専門性や、関連する補助事業執行との業務的な一体性が重要ということで、私は1年担当しただけで地域農業担い手公社設立支援事業は農業専門の職員へと引き継がれた。その後数年にわたり毎年2カ所前後の市町村農業公社が設立されたようだが、公社は意欲ある若者を育成して地域の担い手へ卒業させていく機関になるという企画の理念が、そもそも農村から若者が居なくなっているという現実の中で、公社を恒久性のある担い手そのものにせざるを得ないという考え方へと変容したケースも多いようだ。
 農業の持続的発展のため体制的な継続性や安定性が必要との文脈で、農家経営から法人化へというステップアップがよく語られるが、"地域農業の受け皿づくり"という公益性の高さを踏まえて先ず法人を公的に作ってしまうという地域農業担い手公社の施策スキームは、急激に進む人口減少を結果して先駆的に捉えたものであったかもしれない。「物事の評価は後世に決まる」とはよく言ったものだと思う。

(「農政企画課7「地域農業担い手公社で財団設立に関与」編」終わり。県職員3か所目の職場である農政企画課の回顧録がまだまだ続きます。)

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