新潟久紀ブログ版retrospective

農政企画3「やってみると興味津々"構造政策"」編

●3やってみると興味津々「構造政策」とは。
 4年ぶりの本庁勤務で私が配属された「地域農政係」は、国が鳴り物入りで成立させた新法を踏まえて新設されたと"仕事人風の主査"から聞かされていた。その法律は「農業経営基盤強化促進法」で、旧態依然として脆弱な日本の農業の経営基盤を強化して、農業を若者にも魅力ある産業とし、ひいては国際競争力も付けていくことを狙いとするものであった。
 高度経済成長期には、農家の働き手となれる主に男性において、別産業に従事する割合が増えたりして、老年男性と老年女性と主婦、すなわち「じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん」により農業が営まれる"三ちゃん農業"などと言われる状況が深刻化していた。私が着任した平成5年当時でも、農機具の性能向上等により、特に稲作農家においては、農家の若手が会社勤めであっても、春と秋の連休に集中的に作業することで営農が回るということもあり、所得向上につながる生産量増大や品質の向上の革新を阻害すらしていた。
 そこで、一農家ごとに小規模な農地があちこちに分散している「零細分散錯圃」が日本の農業全体の所得向上を停滞させているとして、高齢でリタイヤしたりその意向がある農家や、他産業従事に軸足をシフトする兼業農家等から、農地を借り上げたり買い取ったりしてして集約化し、規模の経済性や効果効率的手法による農産物の品質上昇などを通じて、担い手となる農業者の所得向上を図ろうという戦略を持って具体の施策を展開していこうというのが「農業経営基盤強化促進法」なのだ。
 面白いと思ったのは、こうした対策を農林水産省が「構造政策」と言っていることだ。旧態依然として岩盤のような日本の農業の構造を転換させるための政策という趣旨だが、農業の"農"の字も冠せずに「構造」政策と謳っているところが私的に非常にウケた。構造問題は農業だけの話では無かろうに…と。
 表向きはそんな軽口を叩いていたが、一方で、他の産業分野や政策課題にはお構いなしに、農業の懸案であると殊更言うまでもなく、これが「日本の構造的問題」であるとする農林水産省の姿勢は、正に自分が県庁に入って「県勢の増進」に取り組みたいと考える中で、その最も直接的で新潟らしいものが農業政策であると帰結したことに通じるように感じられて、実は非常に仕事に取り組む意欲が高まったものだ。
 この「構造政策」は綿々と取り組まれてきた古くて新しい農業政策であり、実は農業経営基盤強化促進法は全くの新法ではなく農用地利用増進法という旧法を組み替えたものであった。なので、私が地域農政係で担当する実務も継続性のあるものか、既往の施策や事業を模様替えしたようなものが含まれていた。
 過去に類似の実務を経験した者が居ることで、疑義等への対応に助言を得られることは助かったが、法律の看板を書き換えて"新味"を出さなくてはならないほどこの政策がなかなか進めにくいものであることも推察された。「農地を担い手に集約して利用の増進を図りましょう」という施策は昭和55年制定の旧法から既に開始されていたものなのだ。
 着任にあたり関係資料に目を通していると、農地をやる気のある農業者へ集積し、所得アップにより若者を担い手として農業農村につなぎ止めようとの趣旨は良いのに、指標となる農地の利用権設定率、いわば"やる気農家への農地の貸出率"は、10年以上の取組期間を経てもなお10%足らずだという。
 なぜ何年かけても劇的に進まないのか。農地法による農地に関する権利移動の制限、小作地所有の制限、賃貸借の法定更新の規定など、強力な規制を残したままの農地への利用権設定制度が、特例的な扱いとされていることに根本要因があったようだ。
 確かに私のような非農家の素人でも、「農地」の扱いは非常に難しいものであるという意識が昔からある。戦後の農地解放などドラスティックな経緯を通じた「実際の耕作人の保護」を至上とする理念が、その後の農地の扱いをヒステリックなまでに規制し厳格化してきたのだと思う。
 つまりは、農地法による「農地移動の制限というブレーキ」と、農業経営基盤強化促進法という「農地流動化の推進というアクセル」を同時に踏むような政策体系なのだ。そしてアクセルを踏む立場となった私にブレーキはあまりに強力過ぎるように見える。しかしながら、私はそれがかえって面白味にも思えた。
 先の本庁職場であった企業局総務課において、新採用早々から前代未聞の各種対応を経験させられて、頭がイカれたというか弾力的で柔軟になったというか…、強度の抑制下でどこまで自由を展開できるかという逆説的命題に組みしてみたいという反骨心的な意欲が沸々と湧いてきたのだ。数年前に起きた米ソ冷戦崩壊なども知らず知らずのうちに若い私の頭脳を刺激していたのかも知れない。

(「農政企画3「やってみると興味津々"構造政策"」編」終わり。県職員3か所目の職場である農政企画課の回顧録がまだまだ続きますヨ。)

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