新潟久紀ブログ版retrospective

財政課5「特命2「決算審査の早期化」(その1)」編

●特命2「決算審査の早期化」(その1)

 前部長の思い付きを起点とした「飲食を伴う会合の積極的推進のための事例集」の編纂は、表舞台に出ること無く新部長の鶴の一声で"リセット"されたのであるが、同時並行で対応を求められていたもう一つの特命である「決算審査時期の早期化」は、議会運営に関わる大事でもあり、関係者との根回しも含め、キチンとした手続きと進め方が求められる事案であった。
 役所の会計年度は4月から3月までで、年度末で予算執行の手続きをしめると、5月まで2か月間をかけて現金の収受を精算する。この「出納整理期間」を終えると年度決算額が確定し、予算執行を進行管理するデータと実際の公金の出入りに関するデータに基づき、議会に認定してもらうための議案となる「決算書」や各種関連資料を調製することとなる。
 そうした資料は、単純なデータベースからの帳票出力だけで自動的に制作できるものではない。金銭の出入りの費用科目と予算の科目が合致していないこともあり、それらの突合整理などの手間が人力として残ることや、議会の審査においては単に費目ごとに支出された金額とその財源の区分ごとの金額といった"金銭情報"というよりも、何を目的とした予算においていくら支払ってどんな効果がでたのかという"事柄情報"にこそ議員の関心が高いので、当該年度の事業の振り返り整理が結構な手間なのだ。
 こうしたことから、4月に入ると直ぐに前年度決算作業が始まり全庁を挙げて注力するものの、これまでは資料調製にどうしても時間が掛かり、議会に提案できるのは12月になってからであり、具体の審議は1月というのが慣例となっていた。そのころはもう来年度予算の編成が固まりつつある。前年度決算に基づく議会議論が活かせるのが来来年度の2年後というのではあまりにも遅すぎるという議論が高まったのだ。
 自治体というのは良くも悪くも横並びが多いので、そうした状況は新潟県のみならず大方の都道府県で同様であったのだが、その頃はいわゆる「改革派」を掲げる首長達の主導の下で、各地で決算議論を早期に予算編成へ反映できるようにするという動きが活発化してきており、個人レベルでは保守性が強いが社会経済的となると流行りモノに影響されやすいと言われる本県でも、それに倣おうという方針が固まったのだ。
 単に時期の早期化ならば、作業の効率化などの課題を技術的にクリアしていけば良いのだが、どうせ早期化するなら決算関係資料をより効果的な議論に寄与できる内容に改めようという方針が併せて決められたのが厄介なのだ。議会に提案する資料の書式や記載方法などの作法は、地方自治法に基づいて歴史と伝統の中で確固たるものとして現形が築きあげられてきたのであり、時々の事務方が手を加えるなど容易ではないことを、私はこれまでの勤務で経験的に知っていた。決算関係資料の書式は法令に規定されておらず任意のものだ。議会筋が何かの思惑で気に入らないとケチを付ければ延々と決まらない可能性もある。右往左往させられる自分が思い浮かばれた。
 とにかくゼロベースから新様式のたたき台を作り、議会の同意を得る前段として、庁内執行部サイドの合意形成を得なければならない。係長、企画主幹、課長、部長、副知事、知事…役所仕事で乗り越えねばならないハードルは多く、次第に高さがましていく。その間の各グレードにおいて出納局、監査委員事務局など関係部局にも根回ししていかねばならない。さらには議会の窓口となる議会事務局、そして各党会派の役員への説明。それら全てを経て表向き執行部と議会を合わせた「団体としての県」の合意形成が成立する。行政は手続きであると言った上司がいたものだが、かくも容易ならざる長い道だ。
 議会における決算審査のあり方については、常設の定例会ではなく毎年都度設置される決算審査特別委員会の場で決められることとなる。現状では12月議会中に設置され、1月に順次部局ごとの審議を行い、2月議会本会議で委員長報告を受けて決算の認定可否を議決するというのが通例なので、決算審査時期や議案書式の変更については12月議会までに準備して特別委員会に諮り、来年度に早期化した日程と新様式で実施することを決定して頂くという段取りが、私の着任前に既定路線として決められていた。
 春に特命を聞いて12月までといえぱ時間があるように聞こえるが、先に述べたようにそこに至る過程が容易ではない。私は、新たな決算資料の書式を実際に書き埋めていくのは各部局の担当者達なのだから、どの分野の業務に関しても担当者が格差無く記載できて、しかも決算審査時期の早期化のために作業がしやすい書式が必要だと考え、各部局の実務担当者の声に基づき新たな書式を立案することにした。意見を聞きたい相手方はありがたいことに例の「幻の会合推進事例集」とかぶっていたため、事例集のワーキングチーム会合に合わせて決算資料新様式についての話しも聞くことができた。事例集は幻と消えたが、そのための関係者とのお付き合いは、別件の話を円滑に進める場にできたのだ。
 自分の立案で数段階に及ぶ上司への伺いをクリアしていくにあたり、説得力となるのは、現場つまり部局担当者の意見に基づいているということと、他県の取り組み事例を引き合いに出すことだ。思わず「先行事例に倣うというのはお役所仕事の真骨頂」と自嘲の笑いをもらしてしまう。
 ちょうど決算審査を早期化したばかりでホットな状況を聞けそうなのが、埼玉県と栃木県であった。早速両県の実務担当者に連絡して、早期化に関する関係資料を送ってもらった。お礼の電話に際してアポを取って実際に相手先で話しを聞かせてもらうことにした。議会筋との調整など、とかくこの手の話しは表に出せる資料からは読み取れない苦労話を直接会って聞き出すのが最善かつ最短なのだ。
 7月26日に埼玉県庁と27日に栃木県庁の訪問が決定した。宇都宮市内のビジネスホテルを予約して現地に向かうことに。決算の審査というのはほぼイコール監査であり、監査結果を報告する決算審査意見書というものが議会の決算審査議論を大きく左右する。議案新様式の立案にあたっては監査委員事務局の見解も知り得ておきたかったので、他県現地視察は監査職員と二人で伺うこととし、相手県庁の監査担当者の話しも聞けるように段取ったのだ。

(「財政課5「特命2「決算審査の早期化」(その1)」編」終わり。「財政課6「特命2「決算審査の早期化」(その2の1/2)」編」に続きます。)
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