新潟久紀ブログ版retrospective

【連載17】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その17)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その17) ※「連載初回」はこちら
~激動の年末~

 硬膜外出血により頭蓋に穴を開ける手術を受けてもなお、昭和前半生まれはやはり鍛えられ方が違うと言うべきか、暫らくすると母はそれ以前と変わらぬ体調を取り戻した。身体を動かすことが健康維持にもつながる家庭菜園に精を出したり、軽自動車を運転しての買い物などによるおばちゃん達の生活支援もしてくれたので、僕は、帰省して母の様子を見たり重い物の買い物など手伝う頻度が手術以前よりは多くなったとはいえ、具体的に面倒を被る事案は殆どないという日々が戻ってきた。
 3人の高齢者についての心配が次第に薄らいでいき、それが1年以上も続くと、最後に亡くなった年長のおばさんのように、2人のおばちゃん達はそれぞれが普段と変わらぬ生活を続けながらある日眠るように召されるのではないかとさえ思えるようになっていたのだが、やはり、これまでと同様に"有事"は突然にやって来た。
 母の入院手術での騒ぎから1年半以上経過した平成25年12月27日。暦の関係で9連休となる年末年始の休暇を明日に控え、仕事納めの挨拶を職場で交わして帰宅した夕刻に、母から僕に電話が来た。年末の帰省日程の打合せだろうくらいの軽い気持ちで固定電話の受話器を持ち上げると、「おばちゃんが倒れた」との第一声だ。
 僕が「ええっ」と驚くと母は続ける。知的障害があり独り言の絶えない年下のおばちゃんが母を訪ねてきて色々と話すには、要領を得ないながらもどうやら家が異常事態だということらしく、母がおばちゃん達の家に様子を見に行くと、真ん中のおばちゃんが八畳の居間で息も絶え絶えに横たわっていたのだという。もともと痩せているのが更に骨と皮だけのようになり失禁までしている。尋常ならざる事態に母は急ぎ救急車を呼び、そのまま入院ということになったというのだ。
 ついに大きな転機が来たかのかも知れない。既に入院したということなので僕が慌てて帰省して対処することはなさそうだが、問題は退院後だ。電話で聞いた限りだと、脱水症状で衰弱しているようだが、細い身体で骨折もしているかもしれない。90歳になろうかという高齢で今まで同様の自律的な生活に戻れるかどうか非常に懸念される。いよいよ介護の方策を具体化させないといけないようだ。元々この年の年末は僕の家族の事情により僕一人で帰省して母と二人での年越しを予定していたので、おばちゃん達の今後の対応についてじっくり母と検討する時間が持てそうだ。僕のそうした考えと帰省の日時を母に告げて受話器を置いた。
 役所では年末休みに入っていたが、12月30日は月曜日ということもあってか、母とおばちゃん達の住む街の市役所の関係機関であり、介護などの相談や調整にあたる「地域包括支援センター」では相談に応じてくれるという。おばちゃん達の地域を担当する温厚で誠実そうな中年女性のケアマネージャーさんが僕の実家まで来てくれて、母と僕からおばちゃん達の現状と今後の対応について話を聴いてくれた。
 ケアマネさんの助言を要すれば、90歳前後の二人のおばちゃんはいずれも、自立困難であり最寄りの僕の母も後期高齢者で介護に当たれず、特別養護老人ホーム入所に適いそうだが、市内で空床が全くなく、状況的におばちゃん達に優先するような待機者も多いので目処が立てられないということだ。この時点で、真ん中のおばちゃんの退院は遅くとも1月15日が限度と病院から言われていたので、あと半月しかない。このまま在宅に戻しては、知的障害のある年少のおばちゃんと病み上がりで生活のおぼつかない真ん中のおはちゃん二人に対して現実的には僕の母が支えに回らざるを得ない。そうなれば、母も疲弊して3人共倒れは目に見えている。母に言わせれば、真ん中のおばちゃんが入院して以来、年少おばさんの食事など母が可能な範囲で結構な面倒を看ているのだが、スパルタンだった真ん中のおばちゃんに比べて母の対応が優しいので、年少おばちゃんは素直に母の言う事を聞いて従ってくれているという。そこで、気難しい真ん中のおばちゃんだけでも施設で面倒を看てもらえればなんとか暫くは母も頑張れそうだというのだ。
 ケアマネさんと母から色々な話しを聞いた僕は、取り急ぎ近隣の市町村の施設において即入所可能な空きが無いか調べて欲しいとケアマネさんにお願いすると共に、併せて、市内において少しでも早く入所できる可能性が高い施設として来年の新設開所に向けて建設中の特養への入所申し込みの書式をもらえるようにケアマネさんに頼んで、面談を終え、連絡を待つこととした。さてどうなることやらと母と僕は大きなため息をつく。
 年の瀬が押し迫る慌ただしい中でもケアマネさんの仕事は迅速だった。面談を終えたばかりのその日の夕方、改めて実家に来てくれると、おばちゃん達の家から40kmほども離れた隣の市の介護付有料老人ホームでなら即入所可能な空きが一人分あると教えてくれた。それにしても車で1時間ほども離れていてしかも有料とは。月当たりの費用概算を聞くと大卒新入社員を雇うよりも高そうだ。それでも現時点では選択肢が他に無いという。ケアマネさんがこの情報とともに約束通り持参してくれた市内に来年新設される特養への申込書を受け取りながら、お礼と共に「その遠くの施設と相談してみます」と伝えてケアマネさんを見送った。僕は儀礼的に「良いお年を」と言いながら、形ばかりで無く本当にそんな年になってくれないかと祈るような気持ちになっていた。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その18」に続きます。)
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 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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