妄想ドラマ『スパイラル』 (12)
映画の主演が決まり、年が明けると渉のもとへも台本が届けられた。
制作発表やポスター撮り、撮影の日程などが決まっていく。
渉は複雑な気持ちでいた。
美菜と恋愛映画を撮るのだ。
本当の恋愛関係にある美菜と恋人の役を演じる。
それがいったいどんなことなのか想像がつかない。
うっかり素の自分の表情が出てしまうことはないだろうか。
美菜はプライベートと演技は別だと割り切っている。
女優という看板を掲げたときの美菜は強い。
そしてその強さも自分だけに見せてくれる弱さもどちらも愛おしかった。
渉はもうひとつ気がかりなことがあった。
舞台の時、どうして美菜がソバの成分が含まれた何かを口にしてしまったのか、
結局分からないままだということだ。
その話に触れると美菜が不安がるので避けていたが、何かの手違いだったと
割り切ることはできなかったし、沙織のことも気になっていた。
マスコミに映画の制作とキャスティングが公表される予定の2日前、
休みで家にいた渉の携帯が鳴った。
マネージャーの西野からだった。
「渉、いきなりこんなこと聞きにくいけど・・・美菜ちゃんと特別な関係なの?」
「言わなくちゃいけない?」
「ああ、実は明日発売の週刊誌に二人が付き合ってるって記事が載る」
突然のことに渉はしばらく声が出なかった。
「写真もあるらしい」
「どんな写真?」
「それは見てないからわからないけど」
「美菜と付き合ってるよ。本気で」
「そっか。記事を見てから対応を決めるから、勝手になにか答えちゃだめだよ」
「ばれたんなら、俺は付き合ってるって言いたい。別に悪いことしてるわけじゃないし」
「わかってる。でも今はだめだ。映画のこともあるし、美菜ちゃんサイドの都合もある」
渉は週刊誌の記事が事実だけ書かれたものであることを願った。
仕事で出会って、付き合いだした。
それだけのことだ。
お互い、やましいことは何もない。
「明日は僕が迎えに行くから。テレビ局へ行く前に事務所で社長と打ち合わせすることになってる」
「わかった」
「それから、わかってるとは思うけどしばらく美菜ちゃんとは・・・」
人のいい西野の気の毒そうな声に、渉は明るく答えた。
「大丈夫だよ、しばらく会うのは控える。こんなことも覚悟の上さ。一応芸能人だから」
舞台以来、渉を取り巻く環境は目に見えて変わり始めていた。
-------つづく------- 13話へ
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映画の主演が決まり、年が明けると渉のもとへも台本が届けられた。
制作発表やポスター撮り、撮影の日程などが決まっていく。
渉は複雑な気持ちでいた。
美菜と恋愛映画を撮るのだ。
本当の恋愛関係にある美菜と恋人の役を演じる。
それがいったいどんなことなのか想像がつかない。
うっかり素の自分の表情が出てしまうことはないだろうか。
美菜はプライベートと演技は別だと割り切っている。
女優という看板を掲げたときの美菜は強い。
そしてその強さも自分だけに見せてくれる弱さもどちらも愛おしかった。
渉はもうひとつ気がかりなことがあった。
舞台の時、どうして美菜がソバの成分が含まれた何かを口にしてしまったのか、
結局分からないままだということだ。
その話に触れると美菜が不安がるので避けていたが、何かの手違いだったと
割り切ることはできなかったし、沙織のことも気になっていた。
マスコミに映画の制作とキャスティングが公表される予定の2日前、
休みで家にいた渉の携帯が鳴った。
マネージャーの西野からだった。
「渉、いきなりこんなこと聞きにくいけど・・・美菜ちゃんと特別な関係なの?」
「言わなくちゃいけない?」
「ああ、実は明日発売の週刊誌に二人が付き合ってるって記事が載る」
突然のことに渉はしばらく声が出なかった。
「写真もあるらしい」
「どんな写真?」
「それは見てないからわからないけど」
「美菜と付き合ってるよ。本気で」
「そっか。記事を見てから対応を決めるから、勝手になにか答えちゃだめだよ」
「ばれたんなら、俺は付き合ってるって言いたい。別に悪いことしてるわけじゃないし」
「わかってる。でも今はだめだ。映画のこともあるし、美菜ちゃんサイドの都合もある」
渉は週刊誌の記事が事実だけ書かれたものであることを願った。
仕事で出会って、付き合いだした。
それだけのことだ。
お互い、やましいことは何もない。
「明日は僕が迎えに行くから。テレビ局へ行く前に事務所で社長と打ち合わせすることになってる」
「わかった」
「それから、わかってるとは思うけどしばらく美菜ちゃんとは・・・」
人のいい西野の気の毒そうな声に、渉は明るく答えた。
「大丈夫だよ、しばらく会うのは控える。こんなことも覚悟の上さ。一応芸能人だから」
舞台以来、渉を取り巻く環境は目に見えて変わり始めていた。
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