皇居の落書き

乱臣賊子の戯言

お世継ぎ問題と男系男子の不条理さ

2024-06-08 23:28:37 | 皇室の話(3)
前回、このブログを始めた契機が平成16年5月の人格否定発言であると述べた。

今改めて、このことを取りあげるべきかは悩んだところであるのだが、当時、皇太子殿下におかれても、相当な覚悟で発言されたことであると思うし、皇室の環境に潜む大きな問題をしる手がかりが、そこにあると思うのである。

それは、以下のようなご発言であった。

平成16年5月10日 皇太子殿下記者会見(デンマーク・ポルトガル・スペインご訪問に際し)
-----引用開始(下線は筆者)-----
問2 今回,皇太子妃殿下のご訪問については,ぎりぎりまで検討されましたが,最終的には見送られました。殿下お一方でご訪問されることに至った経緯,結果についての殿下,妃殿下のお気持ちをお聞かせください。妃殿下の現在のご様子,ご回復の見通しについても改めて伺えればと思います。

皇太子殿下
今回の外国訪問については,私も雅子も是非二人で各国を訪問できればと考えておりましたけれども,雅子の健康の回復が十分ではなく,お医者様とも相談して,私が単独で行くこととなりました。

雅子には各国からのご招待に対し,深く感謝し,体調の回復に努めてきたにもかかわらず,結局,ご招待をお受けすることができなかったことを心底残念に思っています。殊に雅子には,外交官としての仕事を断念して皇室に入り,国際親善を皇族として,大変な,重要な役目と思いながらも,外国訪問をなかなか許されなかったことに大変苦悩しておりました。今回は,体調が十分ではなく,皇太子妃としてご結婚式に出席できる貴重な機会を失ってしまうことを,本人も大変残念がっております。私も本当に残念で,出発に当たって,後ろ髪を引かれる思いです。私たちには,ヨーロッパの王室の方々から,いつも温かく接していただいており,フレデリック,フェリペ両皇太子殿下とは,限られた機会の中ではありますけれども,楽しい思い出が多くあるため,今回のことはとても残念に思っているようです。

雅子の長野県での静養のための滞在は,幸い多くの方々のご協力を得て,静かな中で過ごすことができました。この場をお借りして,協力してくださった皆さんに雅子と共に心からお礼を申し上げます。雅子からも皆さんにくれぐれもよろしくと申しておりました。

長野県での滞在は,とても有益なものではあったと思いますが,まだ,雅子には依然として体調に波がある状態です。誕生日の会見の折にもお話しましたが,雅子にはこの10年,自分を一生懸命,皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが,私が見るところ,そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。それまでの雅子のキャリアや,そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。

最近は公務を休ませていただき,以前,公務と育児を両立させようとして苦労していたころには子供にしてあげられなかったようなことを,最近はしてあげることに,そういったことを励みに日々を過ごしております。そういう意味で,少しずつ自信を取り戻しつつあるようにも見えますけれども,公務復帰に当たって必要な本来の充実した気力と体力を取り戻すためには,今後,いろいろな方策や工夫が必要であると思われ,公務復帰までには,当初考えられていたよりは多く時間が掛かるかもしれません。早く本来の元気な自分自身を取り戻すことができるよう,周囲の理解も得ながら,私としてもでき得る限りの協力とサポートをしていきたいと思っています。今後,医師の意見によって,公務復帰に向けては足慣らしのために,静かな形でのプライベートな外出の機会を作っていくことも必要であるかと考えています。引き続き,静かな環境を保たれることを心から希望いたします。

問4 殿下,大変,ちょっと失礼な質問になってしまうかもしれませんが,先ほどお答えになった時にですね,妃殿下のキャリアや人格を否定するような動きがあるとおっしゃいましたが,差し支えない範囲でどのようなことを念頭に置かれたお話なのか質問させていただきたいのですが。

皇太子殿下
そうですね,細かいことはちょっと控えたいと思うんですけれど,外国訪問もできなかったということなども含めてですね,そのことで雅子もそうですけれど,私もとても悩んだということ,そのことを一言お伝えしようと思います。
-----引用終了-----

「誕生日会見の折にもお話しましたが」とあるので、その時の会見でのご発言を見ると、以下の箇所がある。

平成16年2月19日 皇太子殿下記者会見(皇太子殿下お誕生日に際し)
-----引用開始(下線は筆者)-----
問2 皇太子妃殿下は現在ご静養中ですが,皇族方が長期間公務を休まれるのは異例のことです。殿下は一連の経過をどう受け止められ,原因はどこにあるとお考えですか。夫としてどのように妃殿下を支えていらっしゃるのか,解決策としてご夫妻でお考えのことや望まれていることをお聞かせください。両陛下とはどのようなお話をされましたでしょうか。

皇太子殿下
雅子には,昨年12月以来公務を休むこととなり,国民の皆さんにはご心配をいただいております。皆さんから寄せられた多くのお見舞いやご厚意に,心から感謝をいたします。雅子には,結婚により,それまでとは全く異なる環境に入りました。新しい生活の中で,外からは分らないのですが,東宮御所での生活の成り立ちに伴う様々な苦労があったと思います。そのような環境に自分を適応させようと努力していましたし,また,公務にも努めてきました。

もちろん,天皇皇后両陛下が一番重いお立場にあられるわけですが,皇太子妃という特別な立場から来るプレッシャーも,とても大きなものだったと思います。私から見ても,雅子は本当に良くやってきていると思います。そのような中で,一昨年のニュージーランド,オーストラリア訪問の前の記者会見の折にも触れましたけれども,世継ぎ問題についても様々な形で大きなプレッシャーが掛かっていました。幸い子供が生まれて,それからは2か月で公務に復帰しましたが,公務と育児の両立,それからメディアからの子供をめぐる様々な要望にこたえようと努力していた中で疲労が蓄積していったのではないかと思います。

子供が生まれてからは,公務を少し軽減しましたが,疲れが蓄積していても,外では見せずに頑張っており私も心配でした。世継ぎ問題のプレッシャーも,また掛かってきたことも大きかったと思います。帯状疱疹を未然に防ぐことができなかったことはとても残念ですが,帯状疱疹という病気になってそれまで溜まっていた疲れが出ているように思います。今はともかく,全てを忘れてゆっくり休んで欲しい気持ちです。そうですけれどもなかなか思うようにいかないのが現状であります。雅子がゆっくり休めるよう宮内庁はもとより,マスコミの皆さんにもご協力いただければ幸いです。

雅子が公務に復帰するのにはまだしばらく時間が掛かるかも知れませんが,私としては側にいて,励まして,相談に乗って,体調が良くなるようにしてあげられればと思っています。また,皇太子妃というこの立場を健康で果たすことが必要なわけですから,そういった意味からも今後の公務の内容や在り方も検討する必要があると思います。世継ぎ問題については,その重要性を十分認識していますので,周囲からプレッシャーが掛かることなく,静かに過ごせることを望んでおります。さらにもう少し自由に外に出たり,いろいろなことができるようになると良いと思います。

両陛下には,雅子の病気についてお見舞いいただくなど,いろいろご心配をいただき有り難く思っております。
-----引用終了-----


「一昨年のニュージーランド,オーストラリア訪問の前の記者会見の折にも触れましたけれども」とあるので、その時の会見でのご発言を見ると、以下の箇所がある。

平成14年12月5日 皇太子同妃両殿下記者会見(ニュージーランド・オーストラリアご訪問に際し)
-----引用開始(下線は筆者)-----
問1 両殿下にお尋ねします。約8年ぶりの両殿下そろっての外国親善訪問になりますが,どのような感慨をお持ちでしょうか。また,両殿下ご自身の外国親善訪問の意味や在り方についてどのようにお考えでしょうか。今後の外国訪問の中で,どのように「自分らしさ」を出していこうと考えていらっしゃいますか。

皇太子妃殿下
ご質問にありましたように,今回公式の訪問としては8年ぶりということになりまして,ニュージーランドとオーストラリアを訪問させていただくことができることになり,大変うれしくまた楽しみにしております。中東の諸国を訪問いたしました折のことは今でもとても懐かしく本当にいい経験をさせていただいて,その時の思い出は今でも皇太子さまとよく話題にしたりしておりますけれども,その後8年間ということで,そのうち最近の2年間は私の妊娠そして出産,子育てということで最近の2年は過ぎておりますけれども,それ以前の6年間,正直を申しまして私にとりまして,結婚以前の生活では私の育ってくる過程,そしてまた結婚前の生活の上でも,外国に参りますことが,頻繁にございまして,そういったことが私の生活の一部となっておりましたことから,6年間の間,外国訪問をすることがなかなか難しいという状況は,正直申しまして私自身その状況に適応することになかなか大きな努力が要ったということがございます。今回,昨年子供の愛子が誕生いたしまして,今年,関係者の尽力によりまして,ニュージーランドとオーストラリアという2か国を訪問させていただくことができることになりましたことを本当に有り難いことと思っております。

両陛下が,1970年代に両国をご訪問になっていらして,その折のお話を両陛下からいろいろ伺わせていただきましたり,御所に上がらせていただきました折に,両陛下お忙しい中,ご訪問の折のお写真のアルバムなどをご用意くださっていろいろお教えいただいたり,温かいお心遣いを頂いておりますことを心から感謝申し上げております。

両国ともとても人柄の温かい,おおらかで温かい国民性の国と伺っておりますので,たくさんの方と触れ合って,そして,両国の方々に対しての理解を深めて,実り多い滞在をすることができましたらと思っております。

<関連質問>
問 妃殿下にお尋ねしますけれども,先ほど1問目のお答えの中で,ご結婚以前の生活は外国に頻繁に行かれていて生活の一部になっていたと申し上げられましたが,ご結婚してから,なかなかそういう機会に恵まれず,大きな努力があったというふうにおっしゃいましたけれども,その時のお気持ちですね。努力があったこととか,自分なりに気持ちの整理などされた部分もあると思いますけれども,その辺をもう少しお聞かせ願いたいと思います。

皇太子妃殿下
そうでございますね。また子供が生まれましてからいろいろ状況も変わっておりますので,その前のことをはっきりと思い出すのもなかなか難しい面もあるのですけれども,やはり国民の皆さんの期待というものが,いろいろな形での期待があって,その中には子供という期待もございましたし,他方,仕事の面で外国訪問なども国際親善ということでの期待というものもございまして,そういう中で,今自分は何に重点を置いてというか,何が一番大事なんだろうかということは,随分考えることが必要だったように思います。

結婚後,いろいろな機会に恵まれて,国内各地を訪問することができまして,それは,私のそれまでの生活の中では,なかなか国内の各県をまわったりということは,それまでは余り経験―もちろん私的な旅行で観光地のような所をいろいろ訪れるという機会はもちろん何度もございましたけれども―いろいろな地方へ行って,その地方の特有の文化ですとか,食事ですとか,施設,いろいろなものを見せていただいたり,そういう中で,国内のことについていろいろな事の理解を深めることができたということはとても大きく,私にとっても財産になったと思っております。

そして,もちろんこちらにおりましても外国からのお客様をお迎えしたりとか,また,両陛下がお迎えになる外国のお客様とお会いしたりという形では,もちろん,外国の方とのつながりというものは続けてきたわけではございますけれども,今回久しぶりに公式に訪問させていただくということで,それから,申し忘れましたけれども,公式の訪問以外には,ジョルダンのフセイン国王が亡くなられた折のご葬儀と,それからベルギーの皇太子殿下がご成婚なられた時には,そちらに伺わせていただくことができましたことも大変有り難かったと思っております。
-----引用終了-----


平成16年5月10日の皇太子殿下のご発言だけに注目するとやや分かりにくいが、平成14年12月5日の皇太子妃殿下のご発言に着目すると、一番根本にあるのはお世継ぎ問題のように感じられる。

「6年間の間,外国訪問をすることがなかなか難しいという状況は,正直申しまして私自身その状況に適応することになかなか大きな努力が要ったということがございます。今回,昨年子供の愛子が誕生いたしまして,今年,関係者の尽力によりまして,ニュージーランドとオーストラリアという2か国を訪問させていただくことができることになりました」という箇所を見ると、お世継ぎ問題を最優先するべしといったプレッシャーが6年続き、平成13年12月1日に愛子内親王殿下がご誕生になって、平成14年12月にやっと外国御訪問が認められたという背景があったようである。

そして、平成16年2月19日の皇太子殿下のご発言に着目すると、「世継ぎ問題のプレッシャーも,また掛かってきたことも大きかったと思います」とある。これは、生まれてきたのが内親王(女子)だったので、結局、お世継ぎ問題は解決されていませんよ、お世継ぎ問題をクリアするべしといったプレッシャがーかかってきたということなのだろう。

そして、ついに、限界の更に限界を超え、平成16年5月10日の皇太子殿下のご発言となったのだろう。


なお、平成16年5月10日のご発言のあと、当時の天皇陛下より「私としても初めて聞く内容で大変驚き,「動き」という重い言葉を伴った発言であったため,国民への説明を求めました」(天皇陛下(当時)の文書回答)という事態となり、平成16年6月8日に「皇太子殿下外国ご訪問前の記者会見内容に関してのご説明(6月8日)」が示されることとなった。


この御説明は、今後の未来志向という観点での説明になっており、何が問題だったのかということは、分からないようになってしまった。

「個々の動きを批判するつもりはなく,」というのは、誰がプレッシャーをかけたのかといった、特定個人の問題ではないという認識ということなのだろう。
というのも、お世継ぎ問題というものは、制度の問題であるからだ。

ただ、特定個人の問題という側面に重点を置いて取りあげられることとなり、それは本意ではないということで軌道修正をするうちに、根本にある制度の問題、お世継ぎ問題、そこから生ずるプレッシャーの問題というものが、世の中から忘れられてしまったように思われる。


皇位が世襲によるものである以上、皇室にとってお世継ぎの問題が非常に重要なものであり、その責任が皇太子同妃両殿下に集中するというのもやむを得ないことなのかもしれない。

ただ、そこに男系男子ということが加わると、そのプレッシャーは不条理としか言いようがなくなる。

子を授かることが難しい場合に、更に、男子でなければならないとなれば、一体どうすればいいというのか。

生まれてきた子が女子だった場合の周りの見る目。
女子ではお世継ぎを生んだことにはならないという冷たい目。
命の選別、否定、その背後にある、根拠不明の不条理な制度。

このあたりは、筆者には、想像しようとしても、想像の限界を超えているのかもしれない。
女性ならば、この問題の深刻さは、よく分かるのだろう。


皇室において、お世継ぎ問題は避けられない問題であるとしても、男系男子は、その苦しみを不条理なものにしてしまう。
果たして、それに見合うだけの価値が、男系男子にあるのか。

男系男子を守るために、その不条理な苦しみを受け入れてくださいと言えるのか。


この問題については、今も公表されている記者会見の記録を見るだけでも、これだけ明らかであるというのに、結局、この国の政治家、権力者たちは、まともに向き合おうとしない。

議論をすることを避け、無言のまま男系男子の維持を図り、無言のまま苦しみを背負わせ続けるのである。
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