Saxophonist 宮地スグル公式ブログ

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Future Swing

2007年05月13日 04時40分16秒 | records/cds
今もそうだし、この頃もそうなんだけど、一つ大仕事をやっつけると次のステップに僕はすぐさま行きたくなる。各地に「ウェザー・アイズ」の発売記念ツアーに行っている時に、既にこのアルバムのうち数曲を演奏していた。NHKの「セッション505」に出演した時に番組のテーマソングである「Cジャム・ブルース」を普通には絶対やりたくない!とアレンジしたのが、何を隠そうこのアルバムの1曲目である。

このアルバムのテーマは「変拍子とタイム・モジュレーション」である。僕は学生時代からキング・クリムゾンなどのプログレッシブ・ハードロックが好きだったし、フュージョンとかでもアダルトで落ち着いたものより、ハードで仕掛けの多い物を好んでいた。NY時代に書き、「ジャズ新鮮組」にも吹き込んだ「オン・ザ・トラップ」という曲も4拍子のスイングに唐突にラテンが入ったり、3拍子が入ったりして片鱗は覗かせていたのだけどね。まぁ、僕が居た頃のNYには、あまり人気が無かったけど、スティーブ・コールマンの5エレメンツとかもまだやってたし、変拍子はこの頃のトレンドだったと言える。リリースした頃はそれこそ、マーク・ターナーとかジョシュア・レッドマンが同様のコンセプトでアルバムを作っていたし、僕も多大なる影響を受けていた事は事実だ。マーク・ターナーには実際に会ってアルバムを手渡したし。(笑) 

前作「ウェザー・アイズ」では契約面でトラブルを抱えていた。1000枚を自分で買い取って、自分で売るというとてつもなくアーティストに不利な条件。ま、ジャズや演歌のCDデビューなんてのは華やかなようでこれが現実である。そうでないのは一握りのラッキーな人達なのである。しかも、僕が受け取るギャラというものは著作権料を含まれたモノから経費を差し引き数万円のみ。(俺、赤裸々だなぁ・・苦笑) しかしながら、2ndの話が持ち上がる頃には500枚をほぼ売りさばいていて、プロデューサー氏によると次のアルバムを制作するなら残りは200枚を買い取るだけで許してくれて、尚且つ2ndに関して買い取り不要という好条件(?)で最初話は進んでいた。では・・という事で、早速メンバーに連絡して制作の話が進み始めたんだけど、丁度その頃にキング・レコードは実質上、ジャズから撤退し、プロデューサーさんも別レコード会社への移動を余儀なくされ、僕も当然レコード会社を移籍しなければならなかった。話は一転、次のアルバムも500枚の買い取りで、しかも制作しないなら、前作の買い取りは1000枚のままという何故か最悪な条件を突きつけられた。今でも、この条件には納得していないし、また、僕のようなマニアックなプレーヤーのジャズのアルバムは決して誰かが売ってはくれないんだという現実を目の当たりにしたほろ苦い経験である。しかし、逆に言うと2ndを売ろうと全国を回る事で知名度は少しでも上がるし、その時の抱き合せ販売で1stも必ず売れたわけだから、出費は有ったものの結局のところ決して「損」はしていないのだ。終わってみれば「人生、一生懸命やってりゃ何とかなる。」という達観した気持ちになってた。終わりよければ全て良しだ。(笑)

さて、音楽に話を戻すと、活動の中で徐々にこの「変拍子とタイム・モジュレーション」というコンセプトを実行して行き、そのためのオリジナル曲も出来てきた。しかしながら、またもやアルバム制作のための「企画」・・なのである。「今度の企画はどうしますか?」と来たから、また考えなくてはならない。(そんなアルバム制作も全くもっておかしな話だけど、売れないんだから仕方が無い。)頭を捻って出した答えが「ビッグバンド・ジャズ」である。・・少し早すぎたね。せめて「スイング・ガールズ」の後だったらちょっとは便乗出来たかもなのに。(笑) やはり圧巻はその「イン・ザ・ムード」でしょう。原曲のイントロ部分をサックスとペットでそれぞれまったく別のモードでハモらせて変拍子にしそれを繰り返す事で原曲から切り離し、肝心のAメロは一瞬しか出てこない。これを聞いてイン・ザ・ムードと分かる人が逆に居ないくらいだよなぁ。(苦笑) このアレンジの前は6/8のアレンジも書いてライブでも数回やったけど、ピンと来なくて、書き直したのがこの「変拍子・クラブジャズ・ヴァージョン」。録音にも拘って、曲の途中で一々止めては始めてを繰り返し、それを貼り付けてヒップホップのループをイメージしたミックスを試みた。「ここの部分はラジオ・ボイスにして下さい。」とかMIXにまで口出しするようになったのはこのアルバムから。

前作と比べて緻密さを重要視したため、パワー不足を指摘する声も有ったけど、スタジオ録音という独特のサウンドをライブとは別物として捉えて制作したいという強い意思がこの作品には生きている。家で聞くものとライブ会場で聞くものが同じである筈はないし、違っていれば2度楽しめるじゃないか!というのが僕のアルバム制作での信条である。しかしそれにしても、このアルバムでも12時間しか与えられず、慌てて作った記憶しかない。スタジオは前作と同じで、スタッフも同じ。勝手はよく分かっていたのだけれど、やる事はたくさん有ったわけで時間との戦いだった。録音前日にはどういう順番で録音して行くかという、タイムスケジュールを作る必要があったくらい。今振り返っても、よくここまで作れたなぁ・・と感心する。(苦笑)

このアルバムの発売記念ツアーで各地を回ってみて気が付いたのだけど、こういうコンセプトって結局はミュージシャンズ・ミュージックなんだと言う事。ジャズ研の学生クン達は喜んでる様子だったけど、結局は指を折っては「何拍子なんだろう?」って数える事に必死で僕等のインプロビゼーションを聴いては貰えてなかったし、一般のお客さんが楽しめる様な内容ではなかった。ただ救いだったのは、「知っている曲をやっている」という事で聞いてくれる人が居たと言う事だった。正直なところ、このアルバムで僕が一番気に入っているのはラストの「タイド・オブ・ラブ」で、曲中の大半が、あびる竜太のピアノ・ソロで変拍子もタイム・モジュレーションも無いというのは皮肉なもんだ。(笑) 他人がやるこういうコンセプトの音楽を聴いても、結局はパルスの連続でインプロビゼーションの中にお互いを聞き合って呼応し合うという「インタープレー」が無く、暫らく聞くと疲れるだけであまり心に残る(沁みる)ものは無い。ただ「凄いなぁ・・」という『感心』だけが残るかも。

こういう思いから、自分の中に有る、作曲時の「変拍子癖」を排除したいという欲求・・・いや、この頃から、作曲と同時に自分の演奏スタイルに関しても完全に飽きが来ていて、徐々に自己バンドのライブでさえ演奏に気力が薄れて行った。バンド運営にも僕自身に行動力が無くなって行き、おそらくメンバーにもちょっとした不信感が生まれていたかもしれない。この頃に作曲した「アンコンシャス・ディシジョン」が完全にこのバンドにはフィットせず、この曲を演奏するまでには次の自己バンドNEW4TETの誕生を待つと言う事になる。とことん、突き詰めた結果、このクインテットは休止を迎える事となり、そのまま活動を停止してしまった。

このアルバムの売りはやはりアレンジだと思う。メロディーだけを原曲から抜き出し、何度も歌って自分のオリジナル・メロディーだと錯覚(笑)させてから、コードを付ける・・まぁ、冗談みたいだけどこういう作業によってアレンジがなされている。ただ、この頃はまだラテンやブラジリアン音楽にそれ程のめりこんでいないため、全てNYスタイル・ジャズの範疇の中で色んなリズムを取り入れているに過ぎない。ただ、カテゴライズが好きな日本のジャズ・ファンには現在のNEW4TETよりは受け入れられていたかもしれない。とにかく、アルバムを制作する度に課せられる「企画」や自分自身の演奏に対するフラストレーションが頂点に達してきて、仕事を極端に減らし、その後、ヤケクソで結成したのがNEW4TETなのである。その辺の話はまた次回。。

ちなみに、ジャケットをこの写真にしたのは、前回の写真の数々が表情も硬く、「怖い」という意見があまりにも多かった事と、小難しい事をやってるという印象で売り上げを落とさないための苦肉の策でもある。いつどの瞬間に撮ったのか分からないし、撮影中は喋りながら連写していくのだけれど、どういう会話をしていたかも覚えていない。普段でも滅多にここまで笑う事は無いので「奇跡の一枚」と言っても過言ではない。「写真と実物が全然違う!」という苦情が多かった事も付け加えておこう。(苦笑)

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2 コメント

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ジャケットの笑顔に… (taka)
2007-05-13 21:58:47
宮地さんのアルバムが欲しい~と思った時にジャケットの笑顔で選んで購入したアルバムです。

曲を聴いて「宮地さんってこんな人なんだぁ!!」と思いました。
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作戦 (SGURU)
2007-05-14 23:26:01
成功・・と言う事やね。(笑)
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