結~つなぐ、ひらく、つむぐ~

身近な自然や社会との関わりを通して、マイペースで、新たな自分探しに挑戦しながら、セカンドライフ、スローライフを楽しむ。

国の外から日本と自分を見つめ直す(4)

2013-06-26 | ボランティア

 以下は、在りし日のシリア!国の外から日本と自分を見つめ直す(1)2013-06-21、国の外から日本と自分を見つめ直す(2)2013-06-22、国の外から日本と自分を見つめ直す(3)2013-06-24)の続きです。 

国の外から日本と自分を見つめ直す(4)

生徒・職員との関わり

 赴任当初、「日本では……、日本人は……」と考え、イライラすることが多かったが、「自分がシリア人なら、どう感じ、どのように考えるだろうか」と考え直し、彼らの言動を肯定的に捉えられるようになった。そして、彼らの求めに応じて各種資料等を提供していく中で、徐々によい人間関係が築かれていった。その後は、各種資料の提供や依頼、日本の大震災被災者を励ますメッセージ作成等にも、快く応じてくれるようになった。「相手の立場に身を置いて考える」ことの大切さを学んだ。

01-職員とともに(2010/12/28)

02-メッセージを書く生徒(2011/04/05)

 教材作成のために持参したカメラを用い、学校対抗サッカー、工場見学、成績優秀者表彰式、地域の音楽祭、学校内外の生徒の活動等を録画し、整理してCDやDVDに納め、関係者に配布した。自らの活動記録を作成しながら、相手にも喜ばれるのは嬉しいことだ。

03-工場見学(2010/04/21)

04-音楽祭(2010/05/05)

 私の趣味の一つに尺八吹奏がある。知人に請われ、日本文化紹介の一環として、ビニールパイプで尺八を作り、それを用いて、アルバース大学音楽学部の生徒に尺八を教えることになった。その過程で、ホムスの笛演奏家兼制作者の男性と交流するなど、趣味を活かした交流の輪が広がっていった。

05-尺八演奏(2009/11/07)

06-尺八レッスン(2010/10/26)

 シリアでは、多様な人種、民族や宗教が何の問題もなく共存しているように見える。しかし、その多くが、長い間、宗教、部族ごとに共同体を作って、寄り添うように生活しており、境界線は明瞭である。各種の書類には、父の名と母の名を記す欄があり、出自による区別が存在している。配属先のトップも、地域の名門の出であり、まだ20代の若さだという。シリアでは、社会的な地位や経済力による格差が歴然としてあり、宗教上の理由とあいまって、女性の社会進出の度合いも低いと思われる。出自や経済的な制約などにより、人々の移動や職業選択の自由が実質的な制約を受け、貧富の格差は拡大しているのではないかと感じる。ジプシーやベドウィンその他のマイノリティーに対しても、公然とした差別意識はないにせよ、潜在的な区別意識がある。結婚のときにそれが顕在化するのではないだろうか。

卒業生へのメッセージ

 シリアに来た当時、私は、「生徒の心に火をつけ」「自ら人生を切り拓く」支援をしようと考えていた。しかし、彼らの置かれている状況がわかるにつれ、しだいに考えが変わった。

 社会主義国シリアでは民間企業が少ないが、数年前まで、工業専門校の卒業生は、大部分が公務員として採用された。しかし、国の経済状況が改善されないなか、公務員に余剰人員を抱えるようになり、今では、大学や専門校を卒業しても、就職できない生徒が大部分である。

07-生徒とともに(2010/02/22)

 「卒業後どうするつもりか」と尋ねると、生徒の一人は、「工場に勤めたいが、それがだめならアーミー(軍隊)に行く」と応えた。

 そのような彼らに、「とことん頑張って自分の夢を実現してほしい」と言っていいのだろうか。悶々とした気持ちのまま、前任校の卒業式の日に、メッセージを送った。

 ……(シリアもそうですが)国や地域によっては、社会のさまざまな制約のために、自分で、どんなに頑張ってもどうしようもない所があります。日本のような、自分で人生を切り開いていくことができる国にいて、自分がやりたいこと・夢を追い続けることができるのはすばらしいことです。

 卒業生のみなさんには、これからも、自分の立っている現実を見据えながら、今を精一杯生きてほしいと思います。そして、日々の努力を続け、かけがえのない自分の夢を実現させましょう。 (卒業式の日に、シリア・ホムスにて、MK)……

その他

①沖縄タイムス2010年10月4日(月)「地球日記162(沖縄発JICAボランティア)」に原稿が掲載された。

②JICA World Reporter にブログを開設し、2010年9月~2011年5月、18回発行した。タイトルは「結い…つなぐ、ひらく、つむぐ…」とした。シリアでのボランティア活動の一端を記し、知人に読んでもらうことと同時に、自身の活動記録として残すねらいがある。

③「写真で見るJICAボランティア」【世界に広がる東日本大震災支援の動き】(http://www.jica.go.jp/volunteer/outline/photos/で日本の被災者へのメッセージが、紹介された。

活動を通して、感じ、考えたこと

・相手の立場になって考えることの大切さ。

・社会も個々の人間も「多面的な存在」だ。映像の外にある無数の事実を心に留めたい。

・大切な事物は、目に見えないことが多い。

・自身、家族、親族、部族、民族の絆の強さ。

・私たちは、存在や活動を通して社会とつながっている。他といい人間関係をつくること。

・まっとうなことがまっとうに評価される社会を築くために尽力すること。

 シニア海外ボランティア活動を通して、数多くの得難い経験ができた。そこでの多くの出会いに感謝している。歴史の転換期とはいえ、まだ、やりたいこと・できることがある中で、帰国せざるを得なかったことが心残りだ。これからも、シリアの動向を注意深く見守り、情勢が落ち着いたら、もう一度訪ねたいと思う。……それまで、さようなら。

(「国の外から日本と自分を見つめ直す」、沖縄県高等学校退職校長春秋会教育研究部、「教育よもやま」第27号、平成23年11月)


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