つれ:「巨匠自らメガホンを取った自伝的作品てぇと映画小僧版アメリカン・グラフィティみたいな感じに仕上がってるんじゃなかろうかと思ったら、家族の軋轢やユダヤ差別を正面から取り上げた骨太なファミリーヒストリーの趣だねぇ。
いわゆる事実に着想を得たフィクションなんだろうから事の真偽は別として、父親の合理性と母親の感性を受け継いだところにアメリカ社会での人種的ハンデや映像産業が成長する時代背景が加わると独創的な映画監督が誕生するのかもよ。
スピルバーグ監督が映画を職業とするまでの話だから一連の名作舞台裏が覗ける訳じゃないけれど、栴檀は双葉より芳しで幼少の砌から映画にどっぷりハマり込んだ様子は軽妙に描かれてて好きこそものの上手ってのがほのぼのと伝わってくるよねぇ」
ズレ:「名は体を表すの格言通り冒頭の不道徳な享楽と頽廃が渦巻く群像シーンはソドムとゴモラのように不穏な空気が充満する乱痴気騒ぎで、フィクションの大袈裟なスモークとしても火種となるくらいにはサイレント時代の映画界は斯くも乱れてたのかもと驚かされらぁな。
その後も役者や撮影のハチャメチャな舞台裏やトーキーに遷り変わる時代の悲喜交々がエキセントリックに描かれる中に今より苛烈だったであろうハラスメント批判も盛り込み、更にはフィルムノワール風なサスペンスまで加わって3時間を超す長尺を飽きさせない工夫がテンコ盛りだぜ。
最後はオールドシネマパラダイスみたいなノスタルジーと実写フィルムのインサートで締め括る辺りには制作陣の映画愛が溢れ出してる感じが漂い、映画の歴史とコンテンツをギッシリ詰め込んだオールザッツムービー的な意欲作なんじゃねぇか」
つれ:「インタビュースタイルのドキュメンタリータッチ映画なら市民ケーンが思い浮かぶところをこの作品はタッチじゃなくドキュメンタリーそのものだから、それで3時間近い長尺てなぁいささかシンドイかもと思いきや案に反して存外あっという間にエンドロールを迎えちまったよ。
思うに登場人物はいつも観客を意識してる音楽や映画のプロフェッショナルばかりだから俳優さんでなくとも自ずとコメントが劇的な構成になってるうえにほとんどがイタリア語で語られる抑揚自体が映画音楽のように心地よく、そこに絶妙なタイミングでモリコーネ作曲映画のシーンが挟まるのが時間を短く感じさせる所以かもねぇ。
劇映画と違ってほとんど映像だけで推移する時間はなく台詞の積み重ねで展開する舞台劇のような塩梅だから字幕を追うのに忙しかったって面もありそうだけど、音楽理論やイタリア語に明るい方ならゆったりと一層奥深く楽しめる作品なんじゃないかぃ」
ズレ:「ミュージカルとは違うけどミュージシャンの伝記ものは当然に楽曲は不可欠だから、映画のストーリーに加えてその曲を聞いてた頃の自分のストーリーが重なってくるのが独特の醍醐味になってるわな。
近頃の作品を振り返るとフレディ・マーキュリー、エルヴィス・プレスリー、ホイットニー・ヒューストンの若くして世を去ったお三方が続いて、画面から溢れ出る名曲の魅力に浸るほど神様も色艶のある歌声がお好みで早くお側に召してるんじゃないかてな思いも湧いてくるようでぃ。
原題は I WANNA DANCE WITH SOMEBODYながら個人的にホイットニー・ヒューストンさんと聞いて思い付くのはボディガードのI Will Always Love Youとスーパーボールの国歌斉唱で、改めてジャージの演出と超絶技巧のアレンジで途方もない感動を呼んだアメリカ国歌がいささか羨ましくなっちまうぜ」
つれ:「事前の情報とR15指定を併せて推測するに”注文の多い料理店”実写エグイ版じゃなかろうかと身構えつつもコメディティストもアリのグルメ映画風の滑り出しに油断してると、徐々に不穏な空気が立ち込めて中盤以降はジェットコースターが頂点から急降下する如き展開で息つく間もないくらいだょ。
作風としては不条理サスペンス的な趣で、シェフを演じる役者さんの風貌がそこはかとなくビートたけし師匠を彷彿とさせるせいもあってか師匠が主演したバトルロワイヤルとか北野武監督のバイオレンス作品を思い起こすようじゃないかぃ。
行き過ぎたグルメへの批判もテーマになってるようだけど、本邦の時節柄からすると登場人物がカルト教団の狂信性に翻弄される信者やそこに否応なく巻き込まれる家族縁者みたいに見えてくるのがタイムリーかもしれないねぇ」
ズレ:「題材からしてドキュメンタリータッチかと身構えてたらいきなり冒頭で寓話との断り書きをカマしてくるとおり、クリスマスイベント中のダイアナ妃目線での心理サスペンス的な独白劇調に仕立てられてるのに意表を突かれちまったぜ。
少なくとも公表されてる範囲の経緯は世界中が周知の事実だからNHKさん風に言やぁたぶんこうだったんだろう劇場っぽく理解できるストーリーながら、実在のやんごとなき方々が登場するだけにそれぞれのお立場を慮るバランスには配慮が行き届いてるわな。
エリザベス2世崩御直後の公開てのもタイムリーで女王陛下登場シーン自体は多くないとはいえ、比較のしようはないものの女王陛下ご健在のうちに拝見してたらまた違った印象を受けただろうかとの興味も湧くとこでぃ」
つれ:「衝撃アクションで猛暑を吹き飛ばそうと申し合わせた訳じゃあるまいけれどこの夏場は洋画邦画ともに激しい銃撃モノの公開が続いてどれを観賞したもんかと迷った結果、NHK大河で座長を張って以降コメディ心豊かなアクションスターとして活躍されてる俳優さんの主演作を拝見させていただいたよ。
原作のタッチは全く存じ上げないけれど映画としてはハードボイルドミステリーといった風情の仕立てになってて、極道の抗争に介入するアンダーカバーてぇ設定にふさわしく冒頭からスタッカートのように歯切れ良いドライなヴァイオレンスシーンの連続はさしずめ(仁義なき戦い+マッドマックス)× 令和版 てな趣だねぇ。
そこにもってきて主役をはじめコメディテイストも達者な役者さんが勢揃いしてるからあくまで緊迫したストーリーの背後に表立っては出てこないユーモアが絶妙なパラレルワールドとして展開されてる風情で、いかにも夏らしくパッションフルーツが隠し味の激辛カレー感を楽しめるんじゃないかぃ」
ズレ:「ドーナツの喰い過ぎだと言われてた晩年や盛大な車列の葬儀はリアルタイムのニュース映像で拝見してたけど、除隊後にスクリーンで活躍される以前のあまり存じ上げなかった状況が詳しく描かれてるから字面としては承知してても実際にはどれほどプレスリーさんが画期的だったかが如実に伝わってくるわな。
日本でブラックサウンドと聞けばハナからファッショナブルなイメージながら当時のアメリカで黒人音楽のテイストを貫くのがいかに難行だったかを知ると、神様も待ちきれずに若くして天国のステージにお召しになったほどの聖霊が降臨した歌声が一層壮麗に聞こえるってもんよ。
トム・ハンクスさんが敵役を演じるくらいだから文芸作品的な要素も十二分に味わえるものの圧巻はやっぱりプレスリー役を演じた俳優さんの本人とも見紛う生き写しぶりで、今でも数多そっくりさんが登場する土壌の熱烈なプレスリーファンマインドを集大成したような仕上がりだぜ」
つれ:「前作の同僚が将官になるくらい実際の年月が経ってるのにそれほどの齢を重ねたとは思えないトム・クルーズさんの若々しさにまずビックリしつつ、当然前作は覚えてるよね的に過分な説明はないストーリー展開はこっちも若返った気分になれるねぇ。
とはいえ劇中の”もうパイロットは必要ない”てな台詞が歳月の流れを如実に物語ってて、対テロ戦争やウクライナ紛争でのドローンの活躍が伝わる今となってはトップガン式のドックファイトには中世騎士道の一騎打ち的なロマンが漂うくらいだよ。
当時最新鋭だったF14がガレージで埃をかぶってるクラシックカーみたいにさりげなく登場するのはご愛嬌に見えながら、それだけじゃ終わらせないって扱いがマーヴェリックと同じ時間を重ねてきたオールドタイマーにはグっときたねぇ」
ズレ:「コメディテイストも達者な主演のお二方にこのタイトルなら軽妙洒脱で粋な喜劇だろうと思いきや共に大河ドラマの座長を張った本格派の役者さんがキャスティングされたからにはそう一筋縄に運ぶ筈もなく、表流には笑いが溢れつつも底流にはシリアスな背景が横たわる大きな川のような文芸作品と言えるんじゃねぇか。
間断なく続く笑いの合間のシリアス部分は時制がモザイク状に行き来するのもストーリーに深みを加える淵になって、さながら交互に現れる瀬や瀞をラフティングで下るが如く一気に楽しませていただいたぜ。
こちらは幸い水中の感覚は嫌いじゃなかったから習うより慣れよでカナヅチこそ免れたものの、泳げるというほどでもなく足の着かないとこにはけして近寄らないレベルとしちゃ劇中の水泳指導も目から鱗が落ちる勉強になったわな」