あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
ブログ界の「おか上彰」を目指し、サボりながらも頑張ります!

よく分かる(?)シリーズ 諫早湾干拓工事の仮処分決定について

2005年05月18日 19時49分16秒 | よく分かる(?)シリーズ
諫早湾干拓工事について,差し止めの仮処分に対する福岡高裁の決定がだされ,第一審の佐賀地裁における仮処分認容決定を取消し,仮処分申立てを却下する旨の決定が出ました。
今回は,この仮処分の内容について,解説したいと思います。最後の私見の部分を除いては,干拓工事に賛成,反対関係なく,客観的に記載しました。ただし,決定全文については,未だオフィシャルにも公開されていませんので,報道用等で配布された決定要旨を参照しました。
なお,「仮処分とは何?」という方は,こちらを参照してください。

よろしければ続きを読む前に1クリックお願いしますm(__)m人気blogランキングへ
第1 事案の概要
諫早湾の干拓工事をやめてほしいということで,地域住民らが工事差止め(工事中止ですね)の仮処分を申し立て,平成16年8月26日,佐賀地裁は「そのとおり」といって仮処分決定をした。
納得のいかない国は,異議を出したものの,異議が認められなかったため,福岡高裁に抗告した。

第2 争点
1 そもそもこの場合に仮処分ができるか(行政事件訴訟法44条では,国の処分行為などに対しては仮処分ができないと規定しているが,干拓工事は国の処分といえると,そもそも仮処分が出せないのではないか。)。
2 住民らは干拓工事に対して文句を言える法律上の権利があるか。
3 干拓工事で住民のなんらかの権利を侵害したといえるか。

第3 福岡高裁の判断
1 干拓工事は単なる事実行為だから仮処分の対象になるよ。
2 沿岸住民は漁業行使権(漁師をやってよいという権利)を持っているから,誰かにこれをじゃまされたがそれを排除する権利(妨害排除,妨害予防などの物権的請求権)を行使できる(だから,法律上の権利はある。)。
  ただし,魚が釣れなくなった等の理由=妨害とは直ちに言い切れない。これが干拓工事によるかどうかについては,住民が証明しなければならない(ここがこの決定の肝)。
  (注:通常,仮処分は証明ではなく疎明で足りるとしています。疎明とは証明よりも簡単な程度のつながりが説明できれば十分,という意味だと考えてもらって結構です。つまり,仮処分の方が割と簡単に因果関係を認めやすいことになります。)。
3(1) 国や専門機関が行った調査では,確かに有明海の環境と干拓工事の関連性がありそうな気もするけど,その割合や程度までの証明はない。
 (2) ノリ養殖やアサリの漁獲量等の減少も干拓工事との関連性が疑わしいけど,周辺の生産量等も考慮すると,干拓工事との関連性は証明されていない
 (3) 有明海の漁業環境の悪化については,干拓工事がその原因の一つとして影響を与えている可能性程度にとどまり,やっぱり関連性の証明はない。国によるノリ不作の原因調査,研究の必要性は大きいものの,現時点では干拓工事=漁業行使権が侵害されたという証明はないといえる。
4 よって,仮処分は認めない。

第4 私見(仮処分に対して私が感じたこと)
1 干拓事業を無条件に認容したわけではない

 この却下決定は,「証明が弱い」ことを理由にして却下したのであって,干拓事業は無条件にすばらしいとは言っていません。むしろ,干拓工事が環境などへ影響を与えている可能性があることを指摘しています。
 その意味では,国が却下決定により直ちに工事再開をするというは,果たしてこの決定を本当に吟味して検討したのか疑問があります。
2 仮処分の証明の程度が高くなった
 今回の却下決定は,今後の仮処分について,どの程度の証明を求めるかというメルクマールになります。この決定を踏まえると,仮処分といえどもちゃんとした訴訟に近い程度の証明力を求めることとなり,果たして迅速に決定を出すべき仮処分の性質に適合するのか疑問があります。
 一方で,確かに闇雲に差し止めを認めてしまうと,ものによっては国家的損失を与えかねない場合もありますから,この点のバランスとして今回の証明基準を設けたというのも一応理解はできます。しかし,証拠関係は国が持っている場合が多いことからすると,仮処分段階では暫定的真実として国に証明責任を転換させてもよかったかもしれません。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿