松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆氏名公表・政策法務の視点から⑤「行政庁の処分その他公権力の行使」。「その他の」ではない

2020-01-13 | 氏名公表
 現行法で取消訴訟の対象とされているのは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。「その他」とされ、「その他の」とされていない。今回は、ややマニアックな議論からのアプローチである。

 「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の意味については、判例は「公権力の主体たる国または公共団体の行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。」と解している。 
 下に述べるように、その範囲を拡大するいろいろな判例があるが、「 特定の者の具体的権利に直接的影響があること」という一線は、守っているようだ。

 また、「行政庁の処分」のほかに「その他公権力の行使に当たる行為」を取消訴訟の対象とした趣旨は、事実行為をそれに含める趣旨であるとされている。事実行為によって、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することも含む趣旨であるということだろう。

 法制執務のルールに従うと、「その他」と「その他の」では意味が違う。

 「その他の」場合は、その前に書いてあることは例示である。「A.Bその他の」と言ったら、A.Bは例示で、その他のなかに包含される。行政処分でいえば、処分は、例示になり、そこから、公権力の行使に当たる行為も、処分性、つまり直接国民の権利義務に影響を与える行為ということになる。だから、法律行為とは違う意味で、「事実行為」を出してくるのではないか。

 他方、「その他」は並列である。A、Bその他といったら、AとBと並列である。A、Bにとらわれる必要はない。このように考えると、処分にとらわれず、公権力の行使に当たるものならば、「 特定の者の具体的権利に直接的影響」を与えな行為でも、取消訴訟の対象となるという解釈も可能になるのではないか。

 判例のなかには、通達・告示・条例制定、勧告・行政指導、要綱・ガイドライン、都市計画など、「処分」からは、やや無理があるようなものも取消訴訟の対象としているものがある。

 これは一般には、処分性の拡大から説明されるが(たしかに「 特定の者の具体的権利に直接的影響があること」という一線は、守っているように思える)、一挙に方向転換して、「その他」(=並列関係)だからと説明をし始めたら、ドラスティックな変化が起こってくるように思う。

 氏名公表は、「直接国民の権利義務に影響を与える行為」というのには、やや無理があるが、その社会的影響は、人によっては大きいものがあり、字義のままに、行政庁による氏名公表は、実質的に「公権力の行使」に該当するという解釈(そういう主張)もありうるように思う。

 ただ、何度も繰り返すが、だから氏名公表は、ダメだと言っているわけではなく、仮に取消訴訟の対象になっても、裁判で負けないように制度的,手続的整備が必要という話である。
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