松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆氏名公表・政策法務の視点から⑦処分性の外縁・条例

2020-01-13 | 氏名公表
 今日はジムに行かず、連れ合いも隣で仕事をしているので、作業が進む。マニアックなテーマなので、興味のない人は、パスとなるだろう。

 条例制定には、原則的には処分性が認められない。ただし、認められた例外もある。

 横浜市立保育園廃止処分取消請求事件 (平成21年11月26日最高裁判所第一小法廷判決・ 民集 第63巻9号2124頁)は、市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた事例である。

 横浜市の中田市長のとき、横浜市が設置する保育所のうちいくつかを民営化の対象とすることとし,横浜市保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号)を制定した。本件で争われている保育所が廃止され、保育所の名称及び位置を定める横浜市保育所条例(昭和26年横浜市条例第7号)の別表から削除された(この改正条例が争われた)。

 原審の東京高等裁判所は、原則通り、条例の処分性を否定した。
 「保育所などの公の施設の設置及びその管理に関する事項を定める条例は,公の施設を利用する特定の個人の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの内容を定めるものではなく,一般的規範の性質を有するものであり,このことは,公の施設を廃止することを内容とする条例についても同様である」として、処分性を否定した。

 最高裁は、この条例改正を例外的に処分性ありとした。

 ①保護者は、当該保育所で保育を受けることを期待し得る具体的な権利を持っている。子どもの保育について、契約したではないかというものである。
 保育所の利用関係は,保護者の選択に基づき,保育所及び保育の実施期間を定めて設定されるものであり,保育の実施の解除がされない限り(同法33条の4参照),保育の実施期間が満了するまで継続するものである。そうすると,特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は,保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有する。

 ②条例の制定は,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
 条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもない

 ③この条例改正は、入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,上記法的地位を奪う結果を生じさせることから、その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視できる。
 本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。

 ④抗告訴訟によってしか本件紛争を解決できないこと。
 児童又はその保護者が,当該保育所を廃止する条例の効力を争って,当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し,勝訴判決や保全命令を得たとしても,これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから,これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり,処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある。

 本件ケースは、改正条例が対象となっているが、条例であっても処分性がある場合があることを認めている。
・ただし、条例制定には処分性があると一般的に認めたものではない。
・原告が具体的な権利・義務を持っているということが前提となっている。
・条例改正(制定)は、この具体的権利を奪うもので、その意味で、行政庁の処分と同視できる。
・当事者間で解決しても、(判決の第三者効がなく),ほかに園児又は保護者との間では,依然として保育所廃止条例は効力をもったままという中途半端な状況に置かれてします。抗告訴訟の対象としたほうが全体のために良い。
 こうした一定条件の下での認容である。

 氏名公表に応用できるかである。
・氏名公表が、そこまでの具体的権利性があるかである。広げて、保護に値する法的利益と言えるかである。ここがポイントである。
・すでに氏名が公表されているので、取消訴訟は、意味が乏しい。むしろ国家賠償や民事訴訟で、損害賠償等が認められたら、実質的に取消と同じ効果がある。
・無効確認の意味は、ないことはないだろうが、そこまで無理をして、処分性の範疇に入れ込む作業をしなくていいように思う。
・グレーゾーンなので、氏名公表が抗告訴訟の対象となるという判決も、地裁レベルでは出るかもしれない。自治体は、裁判で負けてダメなので、注意深く制度設計が必要なことは言うまでもない。

 
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