メールと手紙。
誰かが相手に用件や気持ちを伝える為に書く。
受け取った側が、それを何かの理由で消す必要がある場合、
メールなら削除、消去。手紙なら破棄になるのかな。
それからもう一つ、手紙の場合燃やすという方法が有る。
破棄することと燃やすことは、結果的に同じように文書を消し去ることでも、
その行為の持つ意味や、時間の経過が違う。
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『燃え残った手紙』
この手紙は燃やそう。
いい加減前に進みたいのに、この手紙がいつも邪魔をする。
ゆったりと穏やかな文字が刻まれた便せんの隅に火を点けて、暖炉の中に投げ込む。
燃やしたいのは文字の書かれた紙ではない。
書いたあの人の思いと、受け取った私の思い。
思い出の中の二人の存在自体が煙になって消えてしまえばいいのに!
手紙が焦げ臭い匂いを放ちながら炎を上げ始めるのをじっと眺める。
旅先から投函された手紙は、エーゲ海の夕暮れ色をしている。
私に心を伝える為にあの人が選んだ言葉が、一字一字消えて行く。
・・・と、
夕べ燃え残った薪が、コトリと音を立てる。
突然我に返った私は、慌てふためいて炎をたたき消す。
ちょっと待ってよ!なにも燃やさなくても良いじゃないの!
自分で火を点けておいて、誰に向かって言っているというのか。
時間が手紙と思い出をセピア色にに変えてくれるまで、
見えないところに仕舞っておけば良いんだから。
燃えて無くなってしまった言葉を、焦げて縮れた茶色が縁取る。
一番大切で、今は一番見たくない言葉が消えてなくなっているのに気付く。
私はいつもそうだ。
感情的になって、一番大切な物を失くし続けて来たんじゃないの。
知ってるよ、思い出は絶対に消えない。
苦い思い出ほど強く残る。。。
強い衝動から静かな後悔へ。ここまでほんの数分。
時に人の心は、僅かな時間の中で大きく変化する。
時間が大切な友達であることを、いつも過ぎてしまってから思い出す。
ふと目をやると、燃え残った手紙は結構美しい。
醜く乱れて傷ついた思い出が、やがて美しく見えて来るのと同じだ。
それにしても・・・・・
忘れてしまいたい言葉ほど
いつまでも心に焼き付いて消えないのはどうしてだろう?
窓を大きく開けると、カリフォルニアの深紅の夕焼けが広がっている。
私はもう別の場所で別の毎日を生きている。
便せんの夕焼け色は、遠い遠い彼方。
いい歳をして、子供じみた自分に向けたため息と入れ替わりに、
晩秋の冷たい空気が流れ込んだ。
by OQ
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短編小説を書くように、作品を作ることも有ります。
あっ!ストーリーは、もちろんフィクションです。
Have a beautiful weekend everybody