「見えた! あと少しだ!」
木々の向こう側に村の出口が見える。走り出して五分も経ってないが、まあこんなものだろう。そもそも狭い村だったし、そもそもそのまま残ってる……と言う感じでもなかった。ちょっと入って倒壊してた家屋がいくらかあって……みたいな感じだったんだ。歩きでも20分もあれば全体を回れただろう。そんなくらいのサイズ感だったから、急げばすぐに出口なんて見えてくる。
これがもしもホラー映画とかなら、地方の村にきて、殺人鬼に出くわしても村の中を二時間は確実に逃げ回ることになるんだろう。けど普通村なんてそんな広くなだろう。足軽達は廃村の謎の洞窟に立ち入ったとか、でっかい屋敷にはいって迷路に迷い込んだとか……そんな事はなかったから、普通に出口はすぐそこだった。
「つっ!?」
二人に声をかけて前を見た時だった。野々野足軽の目の前に草がある――とおもったけど、それは真っ黒い手だった。地面から生えてたそれが、目の前にある。しかもさっきまでは地面から生えてる風だったから、二の腕部分から地面から生えてて指が空に向かってた。けど今はその逆。まるっきり上下が逆になってる。野々野足軽はとっさに自分の顔に触れる寸前にその手を搔き消した。当然力を使った。
けど今のは気づいたらもうすぐ顔の前にあった。きっと足軽以外には今のには気づいてないだろうと思った。
(何もなかった……うん、そう振舞えば――)
「きゃあああああああ!」
「あぁあああああ!?」
そんな声が後ろから聞こえた。そしてガクッとスピードが落ちる。あの腕に小頭達が捕まって引っ張られてる? そう足軽は考えた。けど違った。実際、あの腕は小頭達にもちょっかいをかけてる。足軽が自身に集中した時、きっとその時にはほかにもあって、それらは小頭や幾代に向いてたんだろう。隙を見せてしまった足軽のせいで二人はあの黒い腕に触れらたみたいだ。
けど触れられたといっても、直接的な実感は多分ない。だって……
(通り抜けてる?)
そう、黒い腕は小頭や幾代の体を通り抜けてた。まるで弧を描くように、ちゃんとその腕の先の人物が動かしてるかのような……そんな半円を描いて黒い腕は動いてる。そしてそれは小頭達の体に触れると、みえなくなって、背中の方から出たり、背中から入ったのは胸の方から出たりしてる。つまりは素通りだ。触ってるけど……触れてはないとはそういう事だ。
けどだからって二人に何の影響もないのか? と言えばそれはノーだ。だって二人とも足が止まってしまった。それに何やら放心状態のような?
「ちっ!」
こうなったらつべこべ言ってる場合じゃない。そう判断した足軽は一気に力を開放して周囲の黒い手を一掃した。その時に森に走り抜ける一陣の風。それが山全体を揺らしたのは言うまでもない。