「なんのつもりだ? どうして襲ってくる?」
とりあえず動き回って攻撃をしてくるサルに向かって野々野足軽はそんな風に言葉を向ける。このサルが言葉を理解できるのか……はわからない。いや、寧ろサルが人語を理解するわけはない。だから足軽も別に返答を期待してるわけじゃないのかもしれない。ただ、言葉と共に足軽はサルに向かって圧力を発してた。別に攻撃ではない。ただ押し付けられる圧だ。
けどサルは一気に足軽から距離を取った。そのせいで空中にいられなくなったサルは地上へと落ちていく。サルは丈夫な木へと着地した。デカいサルがいきなり乗ってきたから、木もグワングワンと大きく揺れる。でもそこはサル。そんな揺れはものともせずに安定感を見せて木にしがみついてる。
「ガァァァァグガアアア」
そんな風にサルは毛を逆立てて足軽を威嚇してる。けどよく見るとその体が震えてるのがわかる。なにせ足軽はあれだけ攻撃をされてたにも関わらずに、傷一つない。それに対して、サルの爪からは血が滴ってるし、何本かの爪は欠けてしまってる。通用してない……それをサルは感じてる。けど矜持でもあるのか、サルは逃げ出す事はしてない。ただの動物なら、勝てない存在にはさっさと逃げるか定石だろう。
本能と言ってもいい。勝てないんだから、さっさと逃げて安全を確保する……それが野生なら普通だろう。なにせ医者も薬もないんだ。そこらにいる動物たちはちょっとはした怪我でも命に係わるんだから、無理やら無茶やらしてはならない。
でも……このサルはまだやる気だ。やっぱりだけど、ただのサル……なわけはない。
「まあちょっと遊んでやるよ」
だいたいサルの攻撃力的な所はわかったと足軽は思ってる。サルの力は足軽の脅威にはなりえない。だから余裕を持てる。どんな存在なのかわからないし、多分こいつは言葉だって話せない。けどそれは問題視してなかった。
(べっこべこにした後にサイコメトリーをしたらいいだろ)
とね。そんな風におもってた。他人の残滓……思いを覗き込むその力があるから、足軽は別に言葉にこだわってなんてない。いや、寧ろいくらでも偽れる言葉なんかよりも、直接触れてサイコメトリをした方が真実を観れる――と思ってるんだ。絶妙な距離を開けて、さらに足軽の背後には無数の岩やら木々が追従してる。足軽よりも後ろにあるせいで、それを利用なんてもうサルにはできない。
いや、足軽は絶対にそれをさせない腹積もりだ。
「返してやる」
そんな言葉と共に、まずは挨拶のように、一本の木を力を使ってサルに向かって撃ちだした。