一年がたった

一年前の今日。
あたしは、前日亡くなったコーダを葬ろうとして、朝からさまよっていた。

コーダと離れがたく、まだ雪の残る山中に残すのがしのびなく、つらくて悲しくて。
コーダは８キロ超の巨大猫だが、か細い甘え声の、やさしい男の子だった。
腎臓が悪くて、最後にはやせて、キャットトンネルの中で、ピンクの毛糸だまを抱きしめて
亡くなっていた。
まだまだ、死ぬような状態ではなかったはずなのに、なんで？どうして？？

かわいいままの亡骸を箱に入れて、花を飾って、準備はしたが何かと言い訳を考えて。

そうだ、先にガソリンつめておかなくちゃ。

あたしは、いったん登った山から、そのまま町に下りてきた。

せっかく外出したんだから、スーパーで買い物しとこう。
あ、箱入りのインスタントラーメン、買っておくかな。
そうそう、牛乳も。三本、いや、六本。
えーい、寒いんだから、悪くなんかならないよ、１０本買っちゃえ。
食パンも、まだあるけど、買っておくか。
レジまで行って、会計の直前に出直し、これを何度も何度も繰り返していた。

車の中、まだ余裕あるなぁ。
隣の店で、キャットフードも買おう。
まとめ買い、しとくかなぁ。１０、いや１５袋、乗せられるだけ、乗せよう。

あー、出たついでだから、少し銀行からお金を下ろしておくか。
キャットフード買っちゃったし、買い物もしたし。
また下ろしに出るの、めんどくさいから、まとめて下ろしておこう、っと。

その間、ずっとコーダと一緒に歩き回っていた。
ひとつ終わればまたひとつ、用事を無理矢理こしらえて。
未練たらしく、何度も、何度も。


そんなこんなで、だらだらと時間をつぶしたが、さすがにいつまでもなきがらを
運び歩くわけにもいかず。
山林の分厚い雪の下、比較的やわらかい土をのそのそと掘り、涙ながらにお別れを言って、後ろ髪引かれる思いで
町に下りてきて。

最初の信号で停まっていたら、ゆらり、と車が動いた。
一瞬、誰かがうっかり信号を見落として、追突してきたのかと思った。
赤だよな？と目をやったら、消えているではないか、信号。
ありゃ？

車は、いつまでも揺れている。
信号は変わらない（変われない）し、前にも車がいるから、動くこともできず。
山ほど積み込んだ荷物のせいで、そんなにはゆれなかったんだと思う。
空き車だったら、きっと、もっと半端なく揺れたんだろうが。
前のワゴン車は、あたしのよりもっとひどく揺れていた。


長い長い時間に感じられた。
ゆれが収まっても、信号は点かなかった。
前の車が動き出し、あたしも進んだ。
誰も道路に飛び出してこなかったのは、たぶん、あまりのゆれに、何かにつかまっていたのだろう。

後になって思えば、走っている最中にあれだけ揺れたら、ハンドルを取られて事故ったかもしれなかった。
停車していた時で、本当に良かった。
事実、道路の脇に突っ込んでた車を横目で見ながら、ぞっとした。


自宅に戻ったが、物は何も落ちていなかった。
猫たちも、無事だった。
あたしんちは地盤が岩盤で、地震にはめっぽう強いのだ。
しかし、電気がこない。
テレビも見られないし、お湯も使えない、ご飯も炊けない。
電話もファックスも機能停止。携帯も電波が立たない。
ストーブは全部消えてるし、ホットカーペットも使えない状態。

いやー、こりゃぁ、まいったなぁ。

と考えてて、ふと気がついた。

そういえば。
山に、小鳥がいなかったなぁ。一羽も、見なかった。
朝からコーダのことばかり考えてたけど、庭先にスズメが来ていない朝なんて。
もしかしたら、初めてじゃぁないか？

車からキャットフードを降ろし、牛乳を冷蔵庫に入れようとして、電気がまだきていないのに気づく。
でも、廊下に出しておいたら凍っちゃうし。入れておこう。
ラーメンの箱は、三つも買っちゃった、なかば「ヤケ」買い？
ガソリン満タンだし、でも、いくところもないし。
携帯が通じないから、誰とも連絡がとれないし。

と考えて途方にくれているころに、沿岸部では未曾有の大災害が起きていたのだった。

一年前の夜のことは夜に、明日のことは、明日書こう。
なんか、思い出して書いているうちに、ぐったり、疲れてしまったよ。