運がいいとか悪いとか

どこぞの日記に「運が悪いのではなくて、一生分の運を使い果たしたのだ」とか
書いてあった。
そんなことを聞くと、大昔に言われた言葉を思い出す。

運の配分は、ゲームの「体力・知力・運」の配分のように、あらかじめ決まっているそうだ。
あたしは占い師でもないし、その道の研究家でも無いので、まぁ「おおざっぱなうわさ話」程度に考えて欲しい。

子どもだった頃。
近所に、なんとなくアヤシイ雰囲気のおじいさんが住んでいた。
噂では「占いをやって暮らしている」とか言われていた。
田舎のことなので、占いもけっこう需要があって
『おらほ（我が家）のヨメを○○からもらいたいと思うのだが、どだべ（どうでしょうか？）』
『近々に争いごと（裁判沙汰）があるのだが、今、勝ち目はあるんべぇか（あるだろうか）』
『××に、めにあわされた（ひどい仕打ちを受けた）んども（んだけど）仕返しはできる？』
などなど、という相談（？）が持ち込まれていた・らしい。

いつの世にも、情報通の子どもは居るモノで、そんな子が目を輝かせてみんなに教えてくれたものだ。
臨場感たっぷりに語るその子の言葉に、幼かった我々はちょっと引きながらも、その場を離れるもならず、聞き続けていた。

ある日一人で歩いていたら、なんと、噂の占い師と、道で出くわした。
こちらとしては、人生で触れてはならない部分のような、少々怖い存在と感じていたので、そそくさと通り過ぎようとした。
ところが。
その占い師は、いきなり立ちはだかり、しげしげとあたしの顔を覗き込んできた。
正直、引きつった。

その占い師は、生真面目な顔であたしを眺め、それから、ふいに柔らかい表情になって、ゆっくりした口調で、言った。

『アンタは、無償で他人のために尽くしなさい。
　アンタの持っている運は、他人のために生きる事で生かされる』

きょとん、としているあたしに、苦笑して尋ねてきた。
『運、って、知ってるかい？』
ふるふる、と首を横に振ったら、彼はまた真面目な顔になって、言った。

『運、ってぇものは、なぁ、生まれた時に決まってるんだが。

　どんだけ長生きできるか、とか、腹一杯に「んまいもん」が食えるか、とか、良い場所に住めるか、とか。
　周りに、良い人材が集まってくれる、とか、助けてもらえる、とか、自分が誰かを助けてあげられる、とか。

　そういうことのパワーを、神様から生まれる前にもらっておくんだよ。
　まぁ、「生きるための、力」みたいなもんだよ。
　多い人もあれば、少ししかもらえなかった人も居る。世の中、不公平なんだよ、　最初から。
　それでも、損得を考えず誰かのために尽くすと、「陰徳」といって、静かに運が増えていくもんなんだよなぁ。
　もともと運の量が少ない人は、尽くしなさい。懸命に尽くすんだよ。
　それから。
　他人（自分以外の人間）に、意地悪やなんかをしてはいけない。
　人に限らず、植物や動物に対しても、だよ。
　悪意は、おのれの幸運を食らい尽くすもんだからなぁ。』

意味の分からなかった分、あたしは、その言葉をずっと覚えていた。

他人に悪意を持たない生き方は難しいかもしれない。
でも、心がけて、悪意をぶつけないようには、できるかもしれない。
ただ、気づかないままで失礼なことをやらかすと、きっと幸運は減っていくんだろう。
あたしは「粗忽者」で「お馬鹿」だもんで、意識してないけど失礼や無礼は、たぶん「売るほど」やらかしているんだろう。
せめて、意識して「悪いこと」は、しないことにする。
他人をおとしめたり、安め（いやしめ）たり・は、しない。
していたら、止める。
そんなことで、使い果たしたと思った運が、また成長してきてくれるかもしれない。

気休めでも、「まったく無い」よりは、どんだけでも「良い」かもしれないし。ね。

と書いたけど、その「運を使い果たした」と書いた主は、ここを見てくれるかどうか。