人それぞれ思い出があったり無かったりすると思いますが、
私の成人式、それは忘れたい思い出のひとつであります。
トンパチの限りを尽くした父親が脳溢血であっさり逝った翌年の事でしたが
経営者だった父はご丁寧にも生命保険は解約済み、
スポンサーだった会社からはいいがかりに近い借金取立て、
と残された家族は一文ナシな上にその日食べるものにも困る有様で、
「コレを受難と呼ばずして。。。」な心境&境遇の真っ只中でありました。
借金取立てについては、つても何もナシにさる超有名弁護士の事務所へ電話をかけ
費用を分割払いで依頼、さっさと決着がついたのですが払う筋合いないもん。なめるな。
日々の生活はお世辞にも裕福とは言えず、社会人経験などない専門学生だった私は
初めての正社員で今では考えられないような安月給でこき使われていたのでありました。
その当時の笑えないひもじい話をしだすと、キリがない上に面白くないので割愛しますが、
とりあえず家族がとても貧乏だったのは間違いない。
どれくらいかというと、正社員で働いていた時、私は節約と貯金の為に
一年間昼食を食べず、神社で時間を潰していたほど。
仕事はと言えば、早朝6時から仕事で週6日、早番と遅番のペアで仕事をするのだが
私の組んでいた厚化粧のお姉さんが上司とデキていて、しょっちゅう当欠。
その穴埋めは私が通し勤務というシステム。
それで給料手取り12万。
初めて働いた事もあり、給料の相場なんてわからなかったから入ってしまったけど
時給換算すると「どんだけ安いんだよ」と今となっては思います。
それでも、根性で一年で100万貯めました。
昼飯抜きも報われようってもんです。
しかも当日欠勤してこちらに負担がかかろうが、その同僚の女謝らないんですよ。
悪いと思う気持ちがないみたいで。
その人、地元九州で演歌歌手をしてたらしく、それが泣かず飛ばずだったので上京。
夜は、千葉の田舎のどうしようもない場末スナックでホステスの真似事。
少なからず人にちやほやされる事を覚えてて、
「美人で可愛い私なら許されるでしょ?っていうか許して当然?」
という考えの持ち主だった訳です。
お面相自体は、ひしゃげたカエル系の、少し整った研ナオコだったのですが、
化粧の厚さと技術が卓越していた為に着物に合わせたメイクの要領だからか?
場末のどうしようもない低レベルな殿方にはウケていたようです。アタマと股もゆるかったし。
そんなこんなで、激貧・しかも職場環境も最悪という二重苦で頑張っていた私。
とてもじゃないけど成人式に着物なんて着れません。
レンタルするにしてもそれなりのお金がかかるし、メシを抜いてまで貯金をする女が
そんな事に虎の子を使いたくなんてありません。
当然、出る気なんてさらさらありませんでした。
ところが、成人式が近づいたある日。
同僚の整った研ナオコが「演歌歌手時代の着物を貸す」と申し出てきました。
どういう風の吹き回しか、日頃の罪滅ぼしか真意は定かではないですが、とにかくそう言ってきたのです。
しかし、知り合いからの借り物は気も使うし、そういうので恩着せがましい態度や
無断欠勤を連発されるのもイヤなので丁重にお断りした私。
気が変わったのは、母が私の成人式。。。ひいては着物姿を何となく見たがってる様子があったからです。
父が死んでからというもの、ホントにロクな事が無かった我が家。
ここらで明るい話題も良かろう。。。と件の同僚の申し出を受ける事にしました。
成人式数日前。
私が渡されたのは、オーダーメイド一点モノの豪華振袖。
いくらするのか想像もつかないシロモノでした。
帯がまたえっらい豪華で、表は金、裏は銀の素晴らしくゴージャス。
着付けの時に、美容院の人が触るのをためらうような逸品でありました。
想像を大きく裏切った豪華絢爛さに度肝を抜かれつつ、小物や下着は無かったので自腹で購入。
そして、いよいよ成人式当日。。。
私は朝一番の時間帯で美容院に予約を入れていた為予約するのが遅く、その時間帯しか空いてなかった。
夜明け前の星が光る空を見つつ、白い息を吐きながら美容院へ着付けに。
店内はパーティションであちこちが区切られ、それぞれのスペースから奮闘している気配が伺えました。
その当時ワタシは「まな板に蜂刺され」と形容されるほどの貧乳だった為、
タオルを胸元に何枚も入れられ屈辱&脱力。
何が何やらわからないままに、腕を上げたり下ろしたりと着付けは進み帯を締める段まで辿り着きました。
早起きした為食事抜きだった私は、疲労と空腹で頭がぼんやり。
そんな私に対し、何やら二人の人が両サイドに立ったと思うが否や
あらん限りの力で帯が締められました。
ぐ、ぐえ~!すごい締め付けです。気が遠くなりそうです。
どうして自分はこんな地獄の責め苦になっているのか理解不能です。
後日貸主の元演歌歌手に聞いたところでは、着付けの上手な人は無理に締め付けたりしないとの事。
着崩れの原因になるし、技術がない証拠だとの事です。
高い金取られたのに、あんまりです。
結局、コルセットで締められている状態さながらになり着付け終了。
そしてヘアメイクに。
これがまた、えっらいヘタクソ!
いくら着物メイクは濃い目と言っても、濃い目とケバいのは違うだろう。
「アケミ」という源氏名のキャバレーを渡り歩くオトコ運の悪いホステス
の一丁上がりです。
。。。いや、なまじっか背があって貫禄がある風なので、
まるで場末のママです。
髪の毛も何が何だかわからん髪飾りをゴテゴテつけられてるし、
鏡の中の私が自分とは信じられません。もう泣きそうです。
しかし、文句を言ったり「金返せ!」と怒鳴っている客は誰もいなかったので
「これが普通なのだろうか。。。」
とガックリ肩を落とし、高い料金を泣く泣く払って家へ向かいました。
もう外はとっくに夜が明け、素晴らしくいい天気。
家に着くと母が待っており、私の姿を見て大変喜び写真を撮りました。
あまりに嬉しそうに何枚も撮るので、それだけでも苦しい思いをした甲斐があった。。。と思った私。
さて。せっかく着物を着たのですから、成人式の会場で披露しなくては。
事前に、現住所の区ではなく中学・高校がある区の式に出る事に決めていました。
成人式というより同窓会に出るような具合です。
かなり遠かったのですが、やっとこさ会場に着くと。。。いたいた!
中学時代の友達に再会しました。
みんな!ちっとも変わらな。。。って、誰だかわかんないYO!
愛する友達たちは、みな一様にアケミメイクで別人に成り果てていました。
一人だけ、元も素晴らしい美人だが今日も格別、な友達がいたので
「アケミになる・ならないは素材の差なのか?」
と思いましたが、何の事は無くメイクだけはお姉ちゃんにやってもらったとの事。
恐らくお姉ちゃんは、自分の式の際にエラい目に遭ったので
妹に二の轍を踏ませないよう協力を申し出たのでしょう。
そのコ以外はみな長女もしくは男兄弟持ちだったので、みんな仲良くアケミでした。
しかし、上には上がいた。
中学時代の同級生が、成人式なのに京劇のピンクの隈取りをされたかのようなメイクで
式場に来ているのを発見しました。
一瞬何かの間違いかと思いましたが、何度みても隈取りでした。
何もそこまでしなくてもいいだろう。というか、どうしてそうなったのか。
彼女は色白でつり目気味の美人だった為に、狐の面のようになっておりました。
周囲も何も言えず、その事には誰一人として触れませんでした。
その後、私はメシ抜きとあまりの帯の締め付けに具合が悪くなり、式も途中でタクシーで帰宅しました。
しかも、貸主にクリーニング代その他の費用をお礼として渡した上に
九州から取り寄せたのだから。。。と言われ送料まで負担して、
レンタル着物より高くついたという笑えないオチに。タクシー代もかかったし。
やはり、ヘンに関わりがある人間に高価なモノは借りるものではないな。。。といらん教訓を得ました。
あと、ヘタな着付けに要注意!とも。
先日、実家で昔の写真を見ていた際に件の成人式の写真が出てきたので
「おお~!懐かしい!」と眺めて見た私は
これって、まるで「店の女の子を引き連れた閉店後のママ」じゃん。。。
と写真の中の自分を見て思った事でした。
でも、いい思い出になりました。なんちゃって研ナオコ、ありがとう!
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