エッセイと虚構と+α

日記やエッセイや小説などをたまに更新しています。随時リニューアルしています。拙文ですが暇つぶしになれば幸いです。

日曜日

2013-04-18 11:54:11 | 小説
場所は吉祥寺そう久しぶりに中川は中央線に乗り訪れたのだ。
駅からほどなくして喫茶店レトロに着いた。軽いドアを開けてカランコロンと鈴の音が鳴る。馴染みになったウェイトレスの女性に会釈していつもの席に着いた。店内には、ジャズが小さく響きわたっている。店主はロックやジャズがおそらく趣味なのであろう。
窓から外を覗くと日曜日らしく穏やかな陽だまりができている。
アイスコーヒーを細いストローで一気に吸い終わると、中川は喫茶店を出て歩いた。
マクドナルドの黄色と赤の看板には食欲や人間の様々な欲求をそそる効果があるのではないかと社会学的な知識を思い出した。ガラス越しに垣間見えたハンバーガーを手に持ちながら談笑する女子中学生たち、1人窓際のカウンター席に照り焼きバーガーのバリューセットで腹ごしらえしている青年やドリンクだけで午後のひと時をすごす老夫婦、みな幸せそうに見える。なぜマクドナルドの椅子が固ければその回転率が上がるかという精巧なロジックはわからなかったしそこに集中させるだけの興味もさして中川にはない。そのまま駅でもう自宅へと帰ってしまうことも思慮したが、中川は下って行く賑わう道をもう少し歩いてることにした。柄にもなく洋服店に入ると、プルシアンブルーのライダースがハンガーに掛けられ陽をうけ目立っているのを羨望の眼差しで見つめる。古着屋だったので、それが男性用なのか、女性用なのかわからなかった。おそらくユニセックスということだろう。店の奥にはショルダー式の小さなバッグの類や小物が木製の展示棚の黒い敷物の上に並べられていた。中川にそれを手にとることはためらわれているところに、
「いらっしゃいませ~」と痩せぎすな古着屋の店員が近づいてきて、程よい距離で止まった。中川はアンクレットを手に取り眺めてみたが自分にはプレゼントするような女性もいない。
「男性用の小物類でしたらこちらにありますよ」という古着屋の店員の案内通りに男性用小物ゾーンを見てみた。ジッポやバックルなどバイカー向けのものが陳列されていて先の女性向けの豊富さに比するならばひどく寂しい売り場スペースであり、自分のこの街での所在なさというものにこれは似ているのだと中川は思い古着屋を後にする。さらに歩いていくとLPのレコードが店頭にならんでいる店やゲームセンター、カラオケ店、定食屋と雑然と歩道を彩るための店舗が所狭しと並べられその刺激にティーンネイジャーが心打たれ足繁く通う理由が中川にはわかった。
何処にでもあるようなCDショップに入り少し気を休めようとする。店内にはグリーンデイのホリデーが大きめの音量で流されていたが既に耳慣れたロックミュージックを聞きながら中川は安堵のため息をついた。街の刺激はときに美しい花に備えられている棘のように写り、内臓をチクチクと刺されるような痛みを生じさせた。それは時に苦しいことで、中川の心を満たさない。しかしたまに街に繰り出してしまうのは中川が決して自分をしっかりともってるような人間ではなく軸がブレやすいからかもしれない。

きた道を戻り喫茶店レトロの軽いドアを開けて奥のエアコンのあまり当たらないテーブル席に座り、アイスコーヒーを注文する。運んできたウェイトレスの女性に、
「なんだかひどく疲れたよ」と言う。
「この喫茶店があるのはそのためなんじゃないかな」とウェイトレスの女性は悪戯っぽく笑顔で言い厨房へと引き上げていった。
中川はカラカラになった喉をじっくりとアイスコーヒーで潤すことにした。

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