気づけば、あと3ヶ月で2024年が終わりを迎えるという時期になっていました。
ブログを見返してみたら、2022年のベストを引っ張るだけ引っ張って、全然発表していないじゃないですか。
いい加減にそろそろ発表しておかないと、2023年分にすら辿り着け無さそうです。
ということで、やっと個人的2022年の映画ベスト。
ベスト5としたいところですが、どうやっても7つから切り捨てられなかったのでベスト7です!
(*念の為に言っておきますが、この年の新作だけではなく、2022年に私個人が見た映画のベストです。)
第7位 あなたのママになるために
2015年のスペイン映画です。主演は、ペネロペ・クルス。
乳がんと闘う女性の話です。
シングルマザーのマグダは、乳がんにより右乳房を切除。その後、素敵な男性と出会い、彼と息子との幸せな日々を送る中で妊娠。そして乳がんの再発。お腹の子供を腕に抱くことを目標に闘い続けます。
これは、純粋に映画がどうだったというよりも私の個人的経験に深く関係しているためのランクイン。
実は私も乳がん経験者(2回)で、胸の切除を経験しています。そして、そのトラウマはあまりに深く、乳がんのみならずガンに関する映画はもちろん、ドラマも報道も平常心を保てないほどの動揺が酷く、何年もできるだけ目に入れないようにしてきました。この映画を見たのは、乳がんで失った胸の再建手術をした1ヶ月後のこと。乳がんを扱った作品を自分から観てみようと思えたこと、そして全部鑑賞できたことで、大きなトラウマを一つ超えられたと実感できた映画です。個人的な人生のマイルストーンとなる作品でした。
第6位 漁港の肉子ちゃん
西加奈子の小説のアニメ映画化。そのプロデュースを担当しているのが明石家さんま。
普段あまりアニメ映画って観ないのですが、『さんまのまんま』の西加奈子出演回は個人的神回で、この二人がタッグを組むなら絶対に観なければ…という使命感から観ました。面白くなければやめればいい…と観始めたのに、何これ。なんというか、ある意味救いようがないのに、感覚的にはお釈迦さまに出会って全てを許されたような、心が救われたような感覚。こんな話を紡ぎ出す西加奈子(そういえば、彼女も乳がんを経験しているんですよね。本はまだ読めていないなぁ)。この話を映画化したいと熱望した明石家さんま。もうその事実だけで、この二人の人生観とか感性の成熟度合いとか超絶な人間力とか美しさの違いを見せつけられた想いでした。個人的にはかなり強烈で(良い意味)、だからこそまた観るのはちょっと躊躇してしまうくらい。
第5位 小さな恋のメロディー
名前は知っていても観たことのない作品は星の数ほどあって、たまたまBSのプレミアムシネマでの放送があったので観てみました。
こういう昔の名作をランダムに放送してくれる、BSプレミアムシネマ。本当にありがたいです。オンデマンドで好きな作品をいつでもみられるからこそ、逆に機会がないと興味があってもいつまで経っても観ないままの作品が増えていってしまうんです。
こちらは1971年の作品。ロンドンの街並みは今とほとんど変わらず、イギリス人たちが持つポップさと人生を見つめる真面目さが絶妙に描かれている作品だと感じました。相手の男の子が、ワンダイレクションのハリー・スタイルズ(ダンケルクやドント・ウォーリー・ダーリン主演)にそっくり!
第4位 ひまわり
こちらも、BSプレミアムシネマで鑑賞。
『ひまわり』は1970年公開のイタリア映画。戦争から帰らない夫の消息を追い、ソ連に旅立った妻。そこで夫は新たな家庭を築いていた。
第5位の『小さな恋のメロディー』とは内容はまったく異なるのですが、今回特にこの2作品を見て思ったのは、長く愛される作品には理由があるということ。当たり前のことなのですが、しかしそれは全ての名作と呼ばれる作品に当てはまるわけではなく、時代が変わり、当時は良しとされていたことが完全なタブーとされること(コンプライアンスやポリコレ的視点)もあったりで、実は「名作」と呼ばれる作品に関しては結構眉唾で眺めているところがあります。この2作品で描かれているのは、人間の本質的な深いところに迫った、どちらもすごく純粋な愛がテーマだからこそ、50年以上たった今も古いとか新しい関係なく支持され続けるんだということを教えられた気がしています。実は古い映画は、現在の価値観とのずれなどであまり好んで見ることがなかったのですが、まだ観ていない「本当の名作」がまだまだたくさんあるということを嬉しく思い、またそれらに出会うのが楽しみになりました。
第3位 スポットライト 世紀のスクープ
ボストンの日刊紙『ボストン・グローブ』の新編集長は、カトリック教会の神父による子供への性的虐待事件を調査し記事にするよう持ちかける。一人の神父の罪を負っていたはずのチームは、さまざまな妨害に遭いながらもカトリック教会の組織的な性犯罪行為を突き止め、加害者は数十人に及んでいたことが明らかに。
2015年のアメリカ映画です。
衝撃すぎて、そして本当によくできた作品で、この年に3回観ました。アカデミー賞で作品賞をとった作品。
実話を元にした作品で、当然ながらその内容に驚くのですが、映画ではそれを淡々と、ほぼドキュメンタリーを観せられているような感覚で進んでいきます。その淡々としたペースが、よりその内容の特異性を際立たせます。出演者たちの感情を押さえた演技も、だからこそ余計にうちに秘めた葛藤や恐怖、怒りが伝わってくる。特にパキン神父が発した言葉、その時のまったく罪悪感のない態度は本当に衝撃で、この犯罪が起こった理由が彼の1シーンだけでも十分に伝わってきます。そして、これが事実で実話だということが本当に辛い。しかしそれと同時に、ボストンというカトリックが強い土壌でも真実を暴こうと奔走した人たちがいたということ、その姿、その組織的犯罪が明らかになったことは救いでもあって、しかし「だからよかったね!」という軽々し終わり方でなかったのもよかったです。
第2位 007 ノー・タイム・ノー・ダイ
ダニエル・クレイグのジェームズボンドの最終話で、007の最新作(今のところ)。
こちらにも感想を書いたのですが、私が今まで見た007の中で一番好きでした。この映画を観た2022年1月半ば時点で、「もう今年のベスト1決まったかも」と思うほどでした。
先ほど第4位『ひまわり』の項にも少し書きましたが、私は「人気作品」「名作」と呼ばれているものが全て名作とは思っていなくて、実は007シリーズはそのうちの一つでした。特に昔の007シリーズでの女性の扱いは、「ただのお色気要因」「ボンドの色男っぷりを表現するために脱ぐ人たち」が多く、見るたびにモヤモヤがありました。それが近年、本国のイギリス人女性たちからも「あんなの男尊女卑映画だわ」という声が上がるようになってきていました。
ダニエルクレイグのボンドは一番好きでしたし、これまでの作品も楽しめていたのですが、前作『スペクター』で結局ただの「色男スイッチ」的女性が再び登場していて、心底がっかりしていたので、今作もあまり気が進まなかったほどです。
その声を真摯に受け止めたのはダニエル・クレイグ本人で、彼が助けを求めたのがフィービー・ウォーラー=ブリッジでした。
すでに出来上がっていた脚本を、イギリス・アメリカでは強いフェミニストの象徴でもあるフィービー(しかも猛烈に面白い人)に書き換えさせたのです。そして出来上がりには、今までに観たことのないジェームズ・ボンドが登場していました。それは、ボンドのイメージを完全に崩したものではなく、むしろ女性と協力したりタジタジになったりすることでよりボンドの男性的魅力が増しているというミラクル。…いや、ミラクルじゃないんですよ、本当は。そういう男性の方が女性にとっては魅力的なんだから。
007の歴史を変えた、短期間で世間のメッセージを汲み取り作品に反映させた、ダニエルは相変わらずかっこいいし、物語の面白さ自体はまったく遜色なし。
ベストに入らないわけがない作品でした。
第1位 ドライブ・マイ・カー
この映画を観たのが、2位のノー・タイム・ノー・ダイを見た2週間後だったのですが、1月中にこの2作品が出揃いました。
ちょっと上手く言葉にできないくらいしみじみといい映画で、これまでに3回ほど見直しています。そしてこれからもことある毎に何度も見ることになるであろう作品です。
例えば、第3位のスポットライトのような実話を扱ったものをは対極で、いろいろな要素が込められているけど、観る人によって感じることも響くポイントもセリフもシーンもまったく違うような作品。そして理解の仕方も感じ方も、多分人と合わせる必要はなく、それぞれに感じたことをそのまま受け止めればいいと言われているような、勝手に懐が深く器の大きな作品でもあるように感じましたし、そしてこんな作品を作る監督が日本にいてくれることに喜びを感じました。独特のテンポも、登場人物たちの静かさも、なんだか浮世離れしているようにも見えるけどすごくリアルであるように感じたし、特に言葉を介したコミュニケーションを得意としない日本人同士の、お互いの心を読み合おうとするところ、そこには誤解や思い込みや自分の希望がどうしたって織り込まれてしまい距離が縮まらない様子も、それこそセリフもないのに伝わってくるところも。
作中に出てきたアントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』について知識があったら、より楽しめるんだろうなぁ…。
ということで、2022年ベスト。
ここに完了です。
近いうちに2023年に手をつけ始めなきゃな。