「寂しいです。あんな死に方をさせてしまって、悔しいです。 父のことがあって、考えさせられました。
生活しながらだんだん、がんが進んで、看取(みと)っていたら、まだあきらめもついたでしょう。
大切な家族を急に失ったとき、遺された人の負担はすごく大きい。
覚悟して見送るのとは、全然違うと思います。 遺(のこ)された高齢の母ががんになっても、手術はさせたくない」
がんは本来、急に命を落とす病気ではない。徐々に進行し、覚悟しながら最期の日々を過ごせる病気なのだ。
以前、進行したがん患者を診ている腫瘍内科医たちに取材したとき、彼らがこう言ったのが印象に残っている。
「自分が死ぬときは、がんがいいなと思っています。がんなら、死ぬまでにいろんな準備ができますから」
武雄さんは、その機会を失った。 そして、術後の重い合併症に苦しみ続け、無念の思いで急な旅立ちを余儀なくされた。
「何歳で亡くなったか」というより、「どんな亡くなり方をしたか」。
本人はもちろん、遺された家族にとっても、そのことが本当に大切なことなのだと知らされた。
それは家族の心に、大きな影響を及ぼす。