幻想小説周辺の 覚書

写真付きで日記や趣味を書く

アートコラム 原田マハ すべてのドアは入り口だ

2022-07-21 21:29:00 | アートコラム
すべてのドアは入り口である  原田マハ、高橋瑞木 277頁 
読みました(*゚∀゚)=★★★
 直木賞を逃した マハさんは 美術館の仕事経験が あります。
この本はマハさんと 水戸美術館の キュレーターである 高橋さんとの対談形式で 現代アートについて 読者に 広く 飛び込んできてほしいという意図で企画されています。

モネや ルソーから大好きと言うマハさんの読者達も 
現代アートについては なかなか難しくて よく分からない
という印象を持つ方が多いと思います。
が、マハさん達は その読者たちに向かって、丁寧に根気よく 、アートとは 決して難しいものではなく 
自分の感情を揺り動かすにもので、時には気持ち悪いとか怖いとかそういった感情も引き出すかも知れないが、
それでも確実に自分を別の世界に連れていってくれるドコデモドアのようなものだと言います。

僕もこの本の中で初めてたくさんの知らない現代アートの人たちが それぞれ 斬新な方法で アート表現をしていることを知りました 。

例えば 美術館の中に とても大きな夕日を 出現させたり、
容器の中に自分の おしっこを満たしてその中にキリストの像を入れて展示したりしてしまいます。
あるいは 床に 死んでしまった恋人の体重と 同じ重さのキャンディーを 敷き詰めてそれを 見学者に一つずつ持って行ってもらいキャンディーが展示期間中に段々消滅してゆくという表現です。
どれもこれも 自分には 考えつかないような 新鮮な 発想で 
まさに新たなドアを目の前に 開いてくれているような気がします






そして展覧会は ただ作品を並べただけでは展覧会にならない、 どの作品の横にどの作品が来るのか 
それによって作品がスタジオにあったときとどのように異なる文脈を紡ぎだすのか、
そこを引き出すのがキュレーターの腕の見せ所なのだと教えてくれます。

よく計画された展覧会は キュレーターと アーティストの才能がぶつかりあって まさに 芸術の新たな事件が発生している、その場に居合わせるようなドキドキ感を 感じさせてくれるライブ会場のなのだと熱く語っています。

少しマハさん的にはお堅くて、期待してる脱線や暴走がない所が残念ですが、それでも確かにマハさんプレゼンツのドコデモドアはとっても面白そうで僕もこのドアをくぐってみたいと思うのでした。

怪談 京都怪談おじゃみ

2022-07-21 21:22:00 | 怪談
「京都怪談 おじゃみ」 神狛しず  253頁
おじゃみ、トイウノハ京都言葉で言うお手玉のこと、或いは
もうちょっと大きくして小豆を中に詰めた小さめの座布団、枕などもおじゃみと言われる
しかし、この京都怪談においては「じゃみじゃみあみじゃみ」
と妙な音か鳴き声をあげて、
自分を月足らずの内に産み落とし物陰に葬った母親に
まとわりつく異形の幼態のもののけでございます

この本には怪談誌「幽」の怪談大賞の短編部門の入賞作
おじゃみ、を幕開けに他五編の怪談を納めています

「怖い」「怖いけど笑える」「怖いけど笑える、けどせつない」
というのは神狛さんの作品を推した高幡葉介さんの弁でした

いずれも登場人物が話す雅みやびな京言葉と、
怪や人に向けたえげつない悪意や攻撃心、
そして山場で発せられる雅とは程遠い魔が放つ絶叫
「ぐぎゃげごおお、おおぅぅぉおお、えあああうぅう」
(笑)、どこが京都弁やねん🎵(でも作者はお気に入り)








魔よりも人の心の方が闇
でもクソ明るいひなたよりも薄暗い物陰の方が好き💗
そんな御仁によくハマる作風です
作品を読むよりは一緒に町屋BARで冷酒でも
いただきながら一晩中語り合いたいと思わせる神狛さん
なのでした

アートレビュー 澁澤龍彦 ドラコニアワールド

2022-07-21 21:19:00 | アートコラム
「澁澤龍彦ドラコニア.ワールド」
澁澤龍子編 沢渡朔写真 235頁

この本は澁澤龍彦の作品集ではありません
彼の没後も生前と同じように雑然と、しかも整然と保存されている彼の書斎。
主亡き今もその帰りを忠実に待っているような人形や髑髏模型や貝殻などの澁澤の集めた収集物についての写真と随想集です。彼の収集物が主人以上に主人のことを能弁に語るというのはありそうなことです。

「この家には金目のもの、価値のあるものはありません。いわゆるコレクターではなく、大きなダイヤモンドと形が面白い貝殻であれば迷わず貝殻の方をとる人でした」

「とにかくその辺にあるただの石や、家に飛び込んできた玉虫でも、彼のところに集まってくると意味を持つというか、ここに置かれるとなんでもなんとなく彼のドラコニアワールドに入ってしまう、というような感じでした」

          ------前書き 澁澤龍子










そして不思議なことには 彼の没後いわゆる世間でのコレクターの定義、というか有り様が、今までの金に飽かせて骨董品や芸術品を集める、という成金趣味から変遷し、
金銭的価値が無いものでも、ある種の審美観を持つ者により統制された収集による世界観の構築、といった方向が認知され、評価され、同朋が増えているようなのですよ。
フィギュアブームとか書痴の書斎拝見とかがその一端であると言えましょう。

かく申す自分にも泥団子の大理石風卵とか、海辺で拾った孔の空いた石笛とか、黒曜石とか、ゴジラガチャの四形態とか、土偶のフチ子とか、そう言った種類の収集物がいつの間にやら増え始め、どうやら澁澤ウィルスに感染しているよう
なのです。
気が付けばあなたにもこの怖ろしく素敵な菌が忍び寄っているかもしれませんよ~~ 
なんといっても本好キにはこの菌に親和性があることが臨床試験済なのですからね

映画レビュー ブラックスワン

2022-07-21 21:14:00 | 映画レビュー
「ブラックスワン」 
監督ダーレンアレノフスキー 主演ナタリー・ポートマン
真夏にホラースプラッタ映画は見たくないが怪談映画は観たい!っていうこの茹だる暑さにピッタリの名作でしたね。

賞もたくさん取ったし、評論家さん達からも好評価なので何故か高尚なバレエ芸術映画だと思いこんで敬遠していたのですが、あにはからんや、全然そんなことはなくドロドロでキッチェでエロティックでぞわぞわなエンタメサイコホラーでした。








濃密な、上映時間1時間48分とは信じられないこの映画。
登場人物も物語内時間も滞在するロケーションも振り返ってみれば実に狭い、限定された世界であることがわかります。
優れた映画、というか凄い映画にはこの凝縮感とでもいうものが共通してますね。
セッションしかりシャイニングしかり、クロサワ用心棒しかり、そしてこのブラックスワンしかりなのです。

クライマックスに向かってガンガン上がるサイコプレッシャー、幻覚が日常を侵食していって枠組みがガタガタと崩れてゆくこのヤバい感じ。そして自分の身体さえもそれに連動してメタモルフォーゼしてゆく絶望感と全能感。この矛盾する二項が共存しちゃう感覚こそ怖さのツボかもしれません。

繰り返すがオシャレなバレエ映画と思っちゃったら損をする。
寝苦しい夜にピッタリなスーパーな怪談噺なのである。
あ、ちなみにお子様には相応しくない描写があるのでオトナ限定のお愉しみである。御注意召され。