植物のふしぎ

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柿の季節・次郎柿と禅寺丸が甘くなるひみつ

2024年11月16日 | 家庭菜園

秋も深まり柿やりんごなどの果物がおいしくなってきましたね。今回は庭で育てている柿の2品種を紹介したいと思います。

本来、果実表面にはブルームがあるのでやや白っぽさが感じられます。この写真では磨いてから撮影したので実の表面が輝いています。

左二つが禅寺丸、右二つが次郎です。禅寺丸は丸みがあり、次郎は扁平でやや四角味を帯びた丸い形をしています。実の大きさは全体で比較すると次郎の方が大きめになります。上の写真で一番左の実は中央に亀裂が入っており、これは果頂裂果といいます。実にタネが多く稔るとそうなることがあり、その特徴は次郎についても同じです。写真の次郎は裂果していないので、おそらくタネの数は少ないはずです。熟す時期は禅寺丸の方がやや早く、現在が収穫適期後半です。次郎はもう少し先に収穫した方が甘くなるかも。果肉の固さは収穫時期にも影響しますが、両者とも固めの柿と言われています。現時点で比較すると禅寺丸の方がよりシャキシャキとした食感がありました。


次に果実断面の観察です・・

左が禅寺丸で右が次郎です。最初に禅寺丸について。この品種は鎌倉時代の1214年に神奈川県の王禅寺で発見されたと書かれていました。発見された年が正確に分かっているのってすごい。古文書ですかね。かつては関東で主要な品種でしたが現在では富有柿などの受粉樹として利用されることが多いとのこと。不完全甘柿であることがネックになったのかもしれませんね。不完全甘柿とは、タネが多く入った時にのみ渋みがなくなる柿のこと。タネの有無に影響されず常に甘柿になる完全甘柿が存在する現代では安心して販売できるのは後者の方ですから。

果肉の色については、タネが多く入ると写真のように実全体が褐色になり、反対にタネの数が少ないと次郎の果肉と同様な明るい黄色となります。褐色になることを「ゴマが入る」といってタンニンが不溶性になることで生じる色の変化です。すなわち、タネが多く入っている禅寺丸は果肉が褐色となり渋みが出ない甘柿になり、タネが少ないと果肉の色が明かるい黄色で渋みが残ります。その機序は、タネが分泌するアセトアルデヒドが可溶性のタンニンと縮合重合し不溶性にするので渋みが感じられなくなるということでした。

今年はこれまで十数個の禅寺丸を収穫して全て甘柿でした。これまで育ててきて これほど良い成績は初めて。ひどい時は甘柿率2〜3割だった年もありましたから。受粉時の気候が良かったからなのか?今年は6月〜10月の気温が平年より「高い」〜「かなり高い」で推移しました。それも良かったのかな?よく分かりません。

一方、次郎は完全甘柿です。写真を見るとわずかに褐色の斑点が見えるのでこれが不溶化したタンニンでしょう。でも禅寺丸がこんな色だったとしたら食べられないくらいに渋いです。完全甘柿はどういった仕組みで渋くならないのでしょうか。果肉の色との関係も興味あるところです。

調べた内容を簡単にまとめてみると・・完全甘柿ではタネからアセトアルデヒドが分泌される以前の段階で液胞中に貯められている可溶性タンニンが固化して不溶性になるようです。果肉が褐色になるのは重合不溶化したタンニンが酸化することによるそうですが、完全甘柿の場合は不溶化の機序が異なるので酸素と触れる機会が少なく褐色化しないということらしい・・(私もよく分かっていないのですが)

また、不完全渋柿(タネが十分稔っても渋い部分が生じる柿)の平核無柿を脱渋する技術についても面白い知見がありました。収穫後に二酸化炭素やエタノールによる普通の方法で脱渋した場合は果肉の色は黄色ですが、樹上脱渋といって収穫前からエタノールなどにより脱渋すると上の写真の禅寺丸のような褐色の果肉になっていました。まず脱渋の機序について簡単に述べると、二酸化炭素下では解糖系のピルビン酸が正常分解されずにアセトアルデヒドに変化し、エタノールの場合はエタノールの酸化物質がアセトアルデヒドである、というようにアセトアルデヒドを生じさせることが脱渋に欠かせません。収穫後に脱渋をした場合は不溶化タンニンが酸化する前に消費されるので果肉が黄色いままなのでしょう。一方、樹上脱渋では生命活動中の脱渋のため不溶化タンニンに酸素が触れる機会が生じて褐色に変化するものと推測できます。

タネの断面にも注目。この段階で胚乳の中に立派な子葉が作られているのですね。


次は実のつき方について・・

これは禅寺丸です。ひとつの果実を美味しく育てるのに必要な葉の枚数のことを葉果比といい、柿の場合は1果当たり葉が20枚あると良いそうです。いつだったかNHKの趣味の園芸で三輪正幸さんがそう言っていたような記憶があります(定かではありません)。禅寺丸の場合、見た感じでまあまあの葉果比かな。

そして次郎柿はというと・・

これは明らかに実のつけすぎです。適切な葉果比にするために摘蕾や摘果が必要なのに面倒なのでやっておりませんでした。どういう経過かというと・・

柿は、生理落果といって、受精していなかったり果実間での競争による栄養不足になった幼果が落果します。これが6月下旬ごろありますが、今年、莫大についた実がそれでは落下しきれずに8月を越してしまいました。9月に入り禅寺丸の方は理由は不明ですがそこからボタボタと多数の実が落果してほぼ適正な数になりました。一方で次郎柿の方は落果せずにたくさん稔ったままとなりました。多く実らせてしまったので隔年結果の習性により来年の実付きは期待できなくなりました。


次に病気について・・

 

左の写真(1枚目)は禅寺丸の葉です。手前の3つの黒いシミはうどん粉病の病斑痕です。柿のうどん粉病の場合、感染初期では白い粉にはならずに黒いシミになるようです。そして、右奥の黄色い葉にある黒く丸いのは丸星落葉病の病斑です。落葉病に感染すると文字通りに落葉が早まってしまいます。ひどい場合は9月中から落葉が激しくなるといった具合です。散歩中、手入れされていない柿の木で落葉病の病斑は見慣れていたので、柿はそうなるのが普通のことだと思って全く気にしていませんでした。しかし、自分で栽培して初めてこの病気の重大性に気づきました。落葉病になっても実は落ちませんが、柿が全然甘くならないのです。そのことがあってから毎年3〜4回、6月初旬からの農薬散布をするようになりました。しかし今年は防除時期を少しずらしたら普段より多めに病斑が出てますね。うどん粉病については2年前から禅寺丸で見られるようになりました。落葉病よりは影響力は低いと思われます。落葉病とうどん粉病の両方に適応のある農薬もあります。

次郎柿の方はうどん粉病は出ませんでしたが落葉病の病斑が禅寺丸より多く出てしまいました。

この後、感染した落ちた葉は拾い集めて廃棄しないといけません。それが翌年の感染源になってしまいますから。美味しいカキを食べるのも大変なのです。


結論

  1. 完全甘柿では、不完全甘柿とは異なる機序でタンニンを不溶化しています。それにより渋みがなくても果肉の色が明るい黄色になります。
  2. 不完全甘柿の甘柿率を上げるのは天候や送粉昆虫任せによるところが大きいかもしれません。今年の禅寺丸は良い出来でした。
  3. 不完全甘柿の場合タネが多く入ると渋が抜けるメリットがある一方、果頂裂果が起きやすくなります。自宅消費する分にはあまり問題にはなりません。
  4. 特に次郎柿は生理落果だけでは適した葉果比にならないので摘蕾、摘果しないと実がつきすぎる傾向があります。今年は成らせすぎたので来年の実付きは良くないと思われます。
  5. 落葉病の農薬防除は手を抜かず時期も回数も計画通りに実行したほうが良さそうです。そうしたとしても落葉病は発生します。
  6. 落葉病対策に落ち葉を放置せずに回収することも重要な作業になります。
  7. 柿の食べ過ぎは胃石(胃の中でタンニンが胃酸により変化し食物繊維を巻き込んで塊になる病気)を起こすそうです。ほどほどに。

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