10月に入ってからも庭のフェンスに絡みついた西洋アサガオはたくさんの花を咲かせています。
毎年こぼれタネで勝手に生えてくるアサガオなので品種は?園芸ノートを見返したら2016年にヘブンリーブルーの種を買って育て始めたとなっていました。でも普通よく見るヘブンリーブルーとはちょっと雰囲気が違いますよね。曜の色が濃くてやや赤紫が勝っています。タネの袋は捨ててしまったし最初の年からこんな花だったかは覚えていません。写真撮っておけばよかった。
この写真は10月1日 7時52分に撮影。朝の花は青色でした。それが花が萎む少し前になると花の色が変わってくるのですよ。
13時13分の写真が次です。
花が萎み始めています。光線の違いで撮影の色温度は異なるものの明らかに花の色が赤っぽくなっていました。
これはどういうことなのでしょうか。
花弁をちぎって観察してみると・・
左の瓶は花弁をちぎっただけのもので右の瓶は花弁をすりつぶしたものです。すりつぶして1分くらいで赤紫になり、花が萎む時と同じような色の変化をしました。
次に花弁の断面を顕微鏡で観察しました。
アサガオの花弁は非常に薄く弱々しいため切片が作りにくくて苦労しました。ややしっかりしている曜の付近からどうにか切片が作れました。写真の左側に見える白い塊は曜に走る条の部分です。
色素が貯められているのは表側(写真の上側)と裏側の表皮細胞でした。表側に比べて裏側の細胞は平らで非常に薄い層に見えます。
表側の表皮細胞を拡大してみると・・
このように表側の表皮細胞は鋭角円錐形をしています。色素が貯められているのはその一層であり、その下の組織には色素は観察されませんでした。
花弁裏側の表皮は非常に弱く、ピンセットで触れるくらいで簡単に剥がれます。次の顕微鏡写真は、そのようにして試料を調整した後に透過光で観察したものです。
この写真は朝9時に撮影。青い色素で埋め尽くされていました。所々の赤い細胞は、裏側の組織を剥がした時に表皮細胞も壊れてしまったところです。無理に剥がして観察しているので仕方がない点ではあります。赤くなった細胞はその後間も無く色素を失い透明になりました。
次に、午後になり花の色が変化し始めた頃に同じように観察しました。
すると細胞ごとに青から赤紫に微妙に色が異なった色素を持っていました。これは色の変化は全細胞一律ではなく細胞ごとに行われていることを示しています。
写真は載せませんが、この後、萎む前に花が完全に赤紫色になった時は全ての細胞で赤紫色になっていました。
以上の観察から、
- 西洋アサガオは開花から午前中は青色を保つが午後になると次第に色が変化し萎む前には赤紫色になること
- 色素は花弁の表皮細胞が持っており、特に表側の表皮細胞は鋭角円錐状で貯蔵している色素の量も多いこと
- 色を変化させるタイミングには表皮細胞ごとに微妙なずれがあるが最終的には全ての色素が赤紫色になること
- 細胞が傷つくなどした時も青い色素は間もなく赤く変わること
がわかりました。
アサガオの色素については研究が進んでいますので分かっている事を以下にまとめておきますね。
西洋アサガオの青い色素はヘブンリーブルーアントシアニンで1987年に名古屋大学で構造が決定されたそうです(T. Kondo et al. Tetrahedron Lett., 28, 2273, (1987))。そして花の色が青から赤に変化する理由が1995年に同じ研究室で明らかにされました(K.Yoshida et al. Nature 373,291(1995))。簡単にいうと、花が蕾から開き始めると表皮細胞中の液胞のpHが7.7に上昇し青色になること、そして赤紫色の花弁ではそれが6.6であったこと、そして色素を持たない表皮以外の細胞では花弁が青色の時でもpHが約5.5であったこと。さらに、エネルギーを消費しながらpHを高く保っているのでそれが失われた時には周囲の細胞に影響されてpHが下がり赤くなるということ。
驚くのは、この実験に1個の細胞に挿入できる微小pH電極を用いたということです。ちっちゃ〜い電極作るのも大変だったろうし、それを生きた細胞に挿入してpHを調べるのはもっと大変だったのではないかと想像してしまいます。美しい切片を作るのもままならない私としては、すごい!としか言いようがない感じ。
西洋アサガオではpHを高く保つことで青色になっていましたが、他の植物では別の方法で青色を得ています。有名なところではアジサイの青はアルミニウムが関係しています。ツユクサでは、アントシアニン+フラボンにマグネシウムが結合した錯体で青の色素にしているんですね。同じように見えて三者三様で複雑なんですね。
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