facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ

2019年10月31日 | pocknのコンサート感想録2019
10月29日(火)イザベル・ファウスト(Vn)/アレクサンドル・メルニコフ(Pf)
王子ホール

【曲目】
1.ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ
2.バルトーク/ヴァイオリン・ソナタ第1番 Sz75
3.ストラヴィンスキー/デュオ・コンチェルタンテ(協奏的二重奏曲)
4.フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調
【アンコール】
ストラヴィンスキー/「マヴラ」より「ロシアのうた」

イザベル・ファウストがまたすごいリサイタルをやった。ファウストは聴く度に凄さが増してくる。ドビュッシーのソナタと40分にもおよぶバルトークのソナタを前半に置いたプログラミングからして凄い。フランクを除いて全てが20世紀に書かれた、音楽史を揺るがせた作曲家の作品を並べることで、最後に置かれたフランクのソナタに特別な意味が帯びる。

ファウストは、聴衆へのサービス精神的なアプローチとは対極にあるような、ひたすら音楽の真髄を伝えることに徹した厳しい姿勢を貫く。弱音は、鏡のように静かな澄みきった水面を細くて柔らかな指先でなぞるようにピュアでデリケート。強音は、鋭い刃物で深く突き刺すようなシャープな切れ味と強靭さを聴かせる。弱音でも強音でも人の心の奥底まで射抜くような静かで鋭い視線で音楽を冷静に見つめ、聴衆に明確で強いメッセージを送り続ける。

最初の約15分のドビュッシーを聴いただけで、こうしたファウストの凄さは十分に伝わった。何という透徹とした世界だろう。ピアノのメルニコフも同質の凝縮された厳しさでファウストのヴァイオリンに向き合った。2人の演奏は、レーザー光線で描かれた2つの光の波形が自由自在に形を変え、互いにぶつかり合ったり絡み合ったりする光のアクロバットを思わせた。

バルトークのヴァイオリン・ソナタは恐らく初めて聴いた。バルトークがヴァイオリン・ソナタを書いていたなんて知らなかったかも。そんな馴染みのない音楽を40分も集中して聴いていられるか心配もしたが、最初から最後まで引きつけられっ放しだった。この曲、作曲者を伏せられたら第2楽章まではバルトークだとは露ほども思わないだろう。ピュアでクリスタルな研ぎ澄まされた魅力を湛えた20世紀の前衛音楽だ。

ファウストとメルニコフによる、打てば響き合う音の交感は、闇の中でスポットを当てられたダンスのデュオを見ているよう。第3楽章ではバルトークっぽい民族色も加わり、ヴァイオリンは殺気立って毛羽立ちメルニコフとの火花を散らし合い、「中国の不思議な役人」のような異様な熱気に支配された。しかしどんなに熱くなってもファウストの視線は冷静さを失わないし、2人のアンサンブルの軸がずれることは決してない。

プログラム後半のストラヴィンスキーからは「プルチネルラ」に通じる楽し気で息抜きの気分も伝わってきたが、終曲では息抜きだけでは終わらせないパトスを感じた。そして最後のフランクは羽毛のようなデリケートな感触で始まった。メルニコフと同じ空気を共有してそれに微細な色付け、香り付けを施してゆく。焦げ付くような燃焼や静謐なモノローグを経て至ったフィナーレは、グイグイと強烈な引力で異次元へ連れて行かれそうになった。飾りや服、うそやごまかしを全て剥ぎ取って現れたリアリティー。この曲の本当の凄さを見た思いがした。

ファウスト&ケラス&メルニコフ(2017.2.23 王子ホール)
イザベル・ファウスト&クリスティアン・ベザイデンホウト(2016.10.11 王子ホール)
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宗教改革記念日礼拝~演奏:... | トップ | ベートーヴェン:交響曲第9番... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2019」カテゴリの最新記事