10月15日(木)パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団
~パーヴォ・ヤルヴィ首席指揮者就任記念~
《2015年10月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. R.シュトラウス/交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
Vc:トルルス・モルク/Vla:佐々木 亮
2. R.シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」Op.28
3. R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲
先週末NHKホールで聴いたNHK 音楽祭でのパーヴォ・ヤルヴィ/N響の幻想交響曲は多くのブログで絶賛していて、自分は感動できなくて何だか損した気分になった。今夜は、パーヴォがN響との仕事で最もウェイトを置いているシュトラウスの特集で、2月定期の「英雄の生涯」は本当に素晴らしかったし、超盛り上がる「薔薇の騎士」がプログラムの最後に置かれているし、器としても申し分のないサントリーホール。今夜は感動するぞ!と勇んで出掛けた。
前半の「ドン・キホーテ」は上々の出来栄え。オーケストラが各場面の情景に応じて変幻自在に雄弁に語る。アンサンブルの緻密さ、柔軟さ、響きの豊かさが、波瀾万丈の主人公像を鮮明に引き立てる。その主人公役のチェリスト、モルクは、最初は野太い野生味を際立たせていたが、やがてそれだけではない、ロマンチックな側面や優美な音でも聴き手を惹きつけて大物ぶりを発揮した。サンチョ・パンサ役はN響首席の佐々木さん。これまでに聴いた「ドン・キホーテ」でのサンチョ役は、主役に比べると小ぶりな印象が多かったが、今夜のサンチョは存在感があった。表情の幅が広く、音色の変化にも富み、ドン・キホーテに負けず劣らず雄弁に語り、歌っていた。
一種の描写音楽であるこの交響詩、物語のそれぞれのシーンとリンクさせて聴きたかったのだが、「フィルハーモニー」の広瀬氏の曲目解説では、肝心の情景の説明が一部しか書かれていない。ソナタ形式での音楽表現の限界を感じたシュトラウスが、交響詩という形態で何をどう表現しようとしたかという説明は興味深いが、演奏される曲を楽しむための基本情報が書かれていないとは… N響の会員ならそんなことは当然諳んじているということだろうか。
続く「ティル」ではオーケストラが益々乗ってきた。冒頭のヴァイオリンユニゾンの、何と奥ゆかしくも、「何が始まるんだろう!?」と期待に胸が膨らむ語りかけの妙!続くホルンの信号は上手に音を並べるだけでなく、とても意味ありげな息遣いで聴き手を更に引きつける。そして繰り広げられるいたずら者の破天荒な物語を描くパーヴォ/N響のピキッとした明晰な演奏が冴えわたる。
血気盛んに力ずくで押し通すのではなく、力加減やスピード感のコントロールが実に鮮やかで、枝葉の先端まで神経が行き届き、大胆かつ繊細で生き生きとした演奏を聴かせる、これこそパーヴォの持ち味だろう。管楽器群の細かい動きでテクスチャーがくっきりと浮かび上がってくるところもプレイヤー一人一人の確かな腕前あってこそ。最後はなまめかしいほどの色っぽさも聴かせ、次の「薔薇の騎士」への期待が高まった。
その「薔薇の騎士」組曲、オケには更に艶やかな色彩が加わり、芳醇な響きを鳴らして、このオペラの高貴で情熱的で、ちょっぴり甘酸っぱいラブストーリーの世界へ誘なってくれた。滑稽なオックスの千鳥足のワルツも堂に入っているし、終盤の三重唱の盛り上がりもデリシャス。眩い光で輝いていた。期待に違わぬ出色の出来と言いたいところだが、ここから最後の大団円では更にワンステップのテンションアップが欲しかった。パーヴォの指揮姿は実に華麗でかっこいいのだけれど、指揮者とオケとの間にごくごくわずかなズレを感じてしまった。この「ズレ」は、音やタイミングがズレるわけではもちろんなく、気のせいなのかも知れないのだが、ここが名演とその一歩手前を分ける大きなポイントだった気がする。超名演の場に居合わせるのは難しいということかも知れないが、そんな稀有な名演はこれからのパーヴォ/N響に期待するとしよう。
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団/「英雄の生涯」他(2015年2月B定期)
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~パーヴォ・ヤルヴィ首席指揮者就任記念~
《2015年10月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. R.シュトラウス/交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
Vc:トルルス・モルク/Vla:佐々木 亮
2. R.シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」Op.28
3. R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲
先週末NHKホールで聴いたNHK 音楽祭でのパーヴォ・ヤルヴィ/N響の幻想交響曲は多くのブログで絶賛していて、自分は感動できなくて何だか損した気分になった。今夜は、パーヴォがN響との仕事で最もウェイトを置いているシュトラウスの特集で、2月定期の「英雄の生涯」は本当に素晴らしかったし、超盛り上がる「薔薇の騎士」がプログラムの最後に置かれているし、器としても申し分のないサントリーホール。今夜は感動するぞ!と勇んで出掛けた。
前半の「ドン・キホーテ」は上々の出来栄え。オーケストラが各場面の情景に応じて変幻自在に雄弁に語る。アンサンブルの緻密さ、柔軟さ、響きの豊かさが、波瀾万丈の主人公像を鮮明に引き立てる。その主人公役のチェリスト、モルクは、最初は野太い野生味を際立たせていたが、やがてそれだけではない、ロマンチックな側面や優美な音でも聴き手を惹きつけて大物ぶりを発揮した。サンチョ・パンサ役はN響首席の佐々木さん。これまでに聴いた「ドン・キホーテ」でのサンチョ役は、主役に比べると小ぶりな印象が多かったが、今夜のサンチョは存在感があった。表情の幅が広く、音色の変化にも富み、ドン・キホーテに負けず劣らず雄弁に語り、歌っていた。
一種の描写音楽であるこの交響詩、物語のそれぞれのシーンとリンクさせて聴きたかったのだが、「フィルハーモニー」の広瀬氏の曲目解説では、肝心の情景の説明が一部しか書かれていない。ソナタ形式での音楽表現の限界を感じたシュトラウスが、交響詩という形態で何をどう表現しようとしたかという説明は興味深いが、演奏される曲を楽しむための基本情報が書かれていないとは… N響の会員ならそんなことは当然諳んじているということだろうか。
続く「ティル」ではオーケストラが益々乗ってきた。冒頭のヴァイオリンユニゾンの、何と奥ゆかしくも、「何が始まるんだろう!?」と期待に胸が膨らむ語りかけの妙!続くホルンの信号は上手に音を並べるだけでなく、とても意味ありげな息遣いで聴き手を更に引きつける。そして繰り広げられるいたずら者の破天荒な物語を描くパーヴォ/N響のピキッとした明晰な演奏が冴えわたる。
血気盛んに力ずくで押し通すのではなく、力加減やスピード感のコントロールが実に鮮やかで、枝葉の先端まで神経が行き届き、大胆かつ繊細で生き生きとした演奏を聴かせる、これこそパーヴォの持ち味だろう。管楽器群の細かい動きでテクスチャーがくっきりと浮かび上がってくるところもプレイヤー一人一人の確かな腕前あってこそ。最後はなまめかしいほどの色っぽさも聴かせ、次の「薔薇の騎士」への期待が高まった。
その「薔薇の騎士」組曲、オケには更に艶やかな色彩が加わり、芳醇な響きを鳴らして、このオペラの高貴で情熱的で、ちょっぴり甘酸っぱいラブストーリーの世界へ誘なってくれた。滑稽なオックスの千鳥足のワルツも堂に入っているし、終盤の三重唱の盛り上がりもデリシャス。眩い光で輝いていた。期待に違わぬ出色の出来と言いたいところだが、ここから最後の大団円では更にワンステップのテンションアップが欲しかった。パーヴォの指揮姿は実に華麗でかっこいいのだけれど、指揮者とオケとの間にごくごくわずかなズレを感じてしまった。この「ズレ」は、音やタイミングがズレるわけではもちろんなく、気のせいなのかも知れないのだが、ここが名演とその一歩手前を分ける大きなポイントだった気がする。超名演の場に居合わせるのは難しいということかも知れないが、そんな稀有な名演はこれからのパーヴォ/N響に期待するとしよう。
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団/「英雄の生涯」他(2015年2月B定期)
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