1月21日(金)小菅 優(Pf)
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル
【曲目】
1.フランク/プレリュード、コラールとフーガ
2.武満 徹/雨の樹 素描
3.ドビュッシー/前奏曲集第1巻~「野を渡る風」「西風の見たもの」「沈める寺」/同第2巻~「霧」「花火」
♪ ♪ ♪
4.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
5.シューベルト/幻想曲ハ長調D760「さすらい人」
【アンコール】
♪ モーツァルト/ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調K.300h(330)~第1楽章
2020年に終えたオペラシティでの4年間に渡るリサイタルシリーズと、その前の紀尾井ホール他でのベートーヴェンのソナタ全曲演奏シリーズを顧みつつ、「自分が今一番向き合いたい作品」で構成したという小菅優のリサイタル。
前半はプレリュードに焦点を当てたプログラミング。武満やドビュッシーなどの透徹としたイメージの作品も熱くエモーショナルに迫って来た。「雨の樹素描」は僕のなかでは静寂と沈黙に支配された音楽なのだが、積極的なアゴーギクで小菅の何かを訴えたいという気持ちが伝わって来たし、ドビュッシーからも強いエモーションを感じた。
けれど今夜のリサイタルで心から感銘を受けたのは「ソナタ」を並べた後半。「悲愴」はアグレッシブな激しい表現を抑え、弱音や「間」を巧みに操り内面へと向かう。髪を振り乱して苦悩する姿ではなく、深いところで葛藤している痛み。第2楽章について小菅はプログラムノートに「天国的な世界。神がこちらを見下ろしているような宇宙」と書いているが、演奏から伝わってきたのは、そんな天国をひたすら憧れている地上の生身の人間の姿。それを希求するも、叶わない切なさや寂寥まで感じられた。全曲を通して一人の苦悩する人間の生き様を、少し距離を保って語り聞かせるような「悲愴」だった。
そして圧巻は「さすらい人幻想曲」。この作品を大きな「ソナタ」と捉えた小菅の演奏は、憧れや苦悩、悲嘆などシューベルトが想い描いていた世界を、親愛の情を込めて生き生きと多彩に表現し、最終章では理想郷を謳歌した。シューベルトならではの内面的でメランコリックな歌やさすらい、夢想を織り交ぜつつ、全体では一つの大きな世界を描き切った。この曲は僕にとって「アルペジョーネ・ソナタ」と並んでシューベルトの名曲と云われるなかで取っ付きにくく、いつも眠くなってしまうのだが、今夜は終始覚醒して没入できた。実は、前回のリサイタル(2020年11月)でも同じ曲を聴いていたことを忘れていたが、今夜の演奏は記憶に残ることになるだろう。
「さすらい人」ではシューベルトが目指した理想郷が高らかに奏でられたが、理想郷そのものが描かれたのはアンコールのモーツァルト。溢れる詩情、至福の喜び、次々と涌き出る楽想、まるで天使が天上で戯れているよう。紀尾井ホールでのベートーヴェンシリーズの初回で弾いてくれたアンコールがこの曲で、その時の幸福感が蘇った。モーツァルトをこんな風に聴かせることができるピアニストは稀有だ。なのに、小菅がモーツァルトのソナタを採り入れたリサイタルにはお目にかかったことがない。本格的にモーツァルトに取り組んでほしいという思いを改めて強く持った。
小菅 優 ピアノリサイタル Four Elements Vol.4 Earth ~2020.11.27 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.3 Wind ~2019.11.29 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.1 Water ~2017.11.30 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
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1.フランク/プレリュード、コラールとフーガ
2.武満 徹/雨の樹 素描
3.ドビュッシー/前奏曲集第1巻~「野を渡る風」「西風の見たもの」「沈める寺」/同第2巻~「霧」「花火」
4.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
5.シューベルト/幻想曲ハ長調D760「さすらい人」
【アンコール】
♪ モーツァルト/ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調K.300h(330)~第1楽章
2020年に終えたオペラシティでの4年間に渡るリサイタルシリーズと、その前の紀尾井ホール他でのベートーヴェンのソナタ全曲演奏シリーズを顧みつつ、「自分が今一番向き合いたい作品」で構成したという小菅優のリサイタル。
前半はプレリュードに焦点を当てたプログラミング。武満やドビュッシーなどの透徹としたイメージの作品も熱くエモーショナルに迫って来た。「雨の樹素描」は僕のなかでは静寂と沈黙に支配された音楽なのだが、積極的なアゴーギクで小菅の何かを訴えたいという気持ちが伝わって来たし、ドビュッシーからも強いエモーションを感じた。
けれど今夜のリサイタルで心から感銘を受けたのは「ソナタ」を並べた後半。「悲愴」はアグレッシブな激しい表現を抑え、弱音や「間」を巧みに操り内面へと向かう。髪を振り乱して苦悩する姿ではなく、深いところで葛藤している痛み。第2楽章について小菅はプログラムノートに「天国的な世界。神がこちらを見下ろしているような宇宙」と書いているが、演奏から伝わってきたのは、そんな天国をひたすら憧れている地上の生身の人間の姿。それを希求するも、叶わない切なさや寂寥まで感じられた。全曲を通して一人の苦悩する人間の生き様を、少し距離を保って語り聞かせるような「悲愴」だった。
そして圧巻は「さすらい人幻想曲」。この作品を大きな「ソナタ」と捉えた小菅の演奏は、憧れや苦悩、悲嘆などシューベルトが想い描いていた世界を、親愛の情を込めて生き生きと多彩に表現し、最終章では理想郷を謳歌した。シューベルトならではの内面的でメランコリックな歌やさすらい、夢想を織り交ぜつつ、全体では一つの大きな世界を描き切った。この曲は僕にとって「アルペジョーネ・ソナタ」と並んでシューベルトの名曲と云われるなかで取っ付きにくく、いつも眠くなってしまうのだが、今夜は終始覚醒して没入できた。実は、前回のリサイタル(2020年11月)でも同じ曲を聴いていたことを忘れていたが、今夜の演奏は記憶に残ることになるだろう。
「さすらい人」ではシューベルトが目指した理想郷が高らかに奏でられたが、理想郷そのものが描かれたのはアンコールのモーツァルト。溢れる詩情、至福の喜び、次々と涌き出る楽想、まるで天使が天上で戯れているよう。紀尾井ホールでのベートーヴェンシリーズの初回で弾いてくれたアンコールがこの曲で、その時の幸福感が蘇った。モーツァルトをこんな風に聴かせることができるピアニストは稀有だ。なのに、小菅がモーツァルトのソナタを採り入れたリサイタルにはお目にかかったことがない。本格的にモーツァルトに取り組んでほしいという思いを改めて強く持った。
小菅 優 ピアノリサイタル Four Elements Vol.4 Earth ~2020.11.27 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.3 Wind ~2019.11.29 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.1 Water ~2017.11.30 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
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