法的問題解決能力とは?
もちろん、法律の条文はどういう文言になっているか、だとか、判例の言い回しはどんなだったかというような、知識レベルの問題なら、正しい間違いははっきりしているわけです。
しかし、我々実務法曹が生きている法律の世界には正解はありません。
我々は法律を使って社会に実際に起きている問題を解決します。
学者の先生ならあるいは法律解釈をしているだけでいいかもしれません。
逆に、問題を解決するだけなら、「ミナミの帝王」でも2時間に3つくらい解決しているわけです。
法律解釈能力と問題解決能力、私はこれらをあわせて法的問題解決能力と呼んでいるのですが、実務法曹にはこれが必要になってきます。
司法試験や予備試験、法科大学院入試で問われているのはまさにこの力です
あなたは出題された事例について、あなたなりの解決をしなければなりません。そこでは、法律解釈について判例や通説で解決するのが普通でしょうが、少数説でも筋が通っていればもちろん合格します。
求められているのは結論の正しさではありません。むしろ、解決の過程です。
つまり、あなたが未知の問題でもいかに法律的に解決する素養があるかが問われているのです。ここが司法試験には正解がないというゆえんです。
どうして東大生が司法試験に合格しないのか
私の受験時代は10年、20年司法試験に合格しないのは当たり前でした。図書館に行くとそういう先輩が集まっているスペースがあって、それこそ、そこにはロード・オブ・ザ・リングみたいな緑のオーラ(汗)が立ち上っていました。
「なぜこの先輩達はいつまで経っても合格しないのだろう」と私は心底不安になりました。
だって、東大生はみんな大学入試までは受験に成功してきた試験のプロなはずです。それなのに司法試験だけはどうして通らない人がこんなにいるのか。
あとで合格してからわかったのですが、この先輩達は、それまで成功してきた高校入試や大学入試の方法論で司法試験も押し通そうとしていたのですね。
それまでの入試は正しい答えのある世界でした。正しい答えを覚えてきてそれを正確に書くことが出来れば合格したのです。いわば記憶力でなんとかなる試験でした。
ところが司法試験では出題される範囲は膨大で覚えきれるものではありません。それよりなにより司法試験正しい答えのない世界です。出題された問題に素直に答えてそれを解決する力を見せなければならないのに、長くかかる受験生は自分が培ってきた判例や学説の「正しい理解」をどうしても披露しようとしてしまい、問題を端的に解決する答案が書けないのです。
霊視商法事件
実務には正しい答えがないということを 一つ例を挙げてご説明しましょう。
私が弁護団に入って担当した事件に霊視商法被害事件がありました。
私の担当したのは9人の被害者でしたがその最初の依頼者のお話をしましょう。
この60代の女性には日頃から悩みがありました。それはもう30代になった娘さんにまだ結婚相手がいないと言うことでした。
普通はまだ30代でお相手がいないくらい当たり前なのですが、このお母さんは非常に信心(迷信?)深い方だったので、「これはなにかの祟りではないか」などとうっすら考えていました。
そうこうしているうちに、娘さんが顔面神経痛に!お母さんはますますこれは祟りだ!と考えるようになりました。今になって思うと、親御さんから「結婚せい、結婚せい」とせっつかれすぎて顔面神経痛になってしまったのではないかと思うのですが(苦笑)。
そんな時、新聞の折り込み広告に「あなたの先祖の霊を視ます。1回3000円」というチラシが入っていました。お母さんは、これは渡りに船、とばかりにさっそく、その「寺」に出かけました。
受付で住所や名前、相談内容を書かされます。しばらく待っていると、部屋に通されました。
8畳くらいの部屋は薄暗く、正面には仏壇があってお灯明がぼ~んと点いています。
仏壇の前には、真っ黒い袈裟を着た尼さんがぽつんと座っています。
お母さんは、怖くなって、座布団に正座して待っていました。
突然、尼さんがお経を唱え始めます。
そして、くるっとこちらを向くと、
「あなたの娘さんは、1年以内に死にま~す!!!」と叫ぶのです!
「えええええ!?私は娘が結婚できないのでご相談に来たのですが・・・?!」
「あなたの娘さんには水死者の霊が憑いています!あなたの家の近くに大きな川が流れているでしょう!」
「は、はい!多摩川が流れています!」(もちろん住所を書いたから相手には筒抜けです)
「あなたの娘さんに憑いている水死者の霊をお祓いするには60万円いります!あなたは払えますか!!?」
「えええ!?一回3000円と聞いてきたのですが?!」
ここで決めぜりふです。
「あなたは娘さんの命と、お金と、どっちが大切なんですかあああ!」
「それは娘の命でございます!」
お母さんは、もう尼さんの勢いに飲まれてしまって、脱兎の如く駆け出し、預金から60万円を下ろして、すぐに戻って支払いました。
この60万円で、供養塔を作ってもらったお母さんは、毎日通ってお弔いをするようになりましたが、もちろん、娘さんには良い縁談も来ませんし、顔面神経痛も治りません。
そんなある日のこと。お弔いを終えたお母さんのそばに、つつ~~~とあの尼さんがち通ってきました。
「こちらに来なさい」
「はい」
「・・・あなたの娘さんには、先祖の水子の霊が憑いています!」
「つ、憑いてましたか!」
そのまた何週間後に
「あなたの娘さんには落ち武者の霊(笑)が憑いています!」
「そ、それも憑いてましたか!」
というわけで、お母さんは、なんと家の貯金から計267万3000円を支払ってしまったのです。
問題編
テレビで霊視商法被害者の会が結成されたのを知った、このお母さんの依頼は「267万3000円を早く取り返してください。しかも夫に内緒で」ということでした。
さて、皆さんならこの問題をどうやって解決しますか?
まず、お金を取り戻したいのだから、民事訴訟が手段として考えられますね。
では、その法律構成はどうしますか?
ある問題を解決するのにどんな法的手段があるか、それぞれの手段をあげて実現可能性について検討せよ、という出題は良くありますよね。
次のページも見る前にちょっとご自身で考えてみましょうか。
序論 正しい答えのない試験 それが司法試験2
解決編
さあ、皆さんはどんな解決方法がうかんだでしょうか?
弁護団で検討したのは
(1)債務不履行による契約解除
(2)詐欺・強迫による契約の取り消し
(3)不法行為に基づく損害賠償請求
の3つでした。
もちろんこの3つが正しい答えというわけではありません。ですが、まあ普通の実務家ならすぐに思いつく民事的手段と言えるでしょう。
この3つが思いついたでしょうか?
では、検討してみましょう。
まず、一つ目の契約解除についてですが、この事案は債務不履行とか契約違反といえますかね?
確かに、お母さんがお金を払うにあたってお願いしたことは娘さんの結婚と顔面神経痛の治癒なのに、そんな結果はいっこうに出ていません。
しかし、たとえば、1000円出して買った神社の絵馬に「〇〇高校に合格しますように」と書いたけれども不合格だった場合に、お布施契約?の解除だ、お金返せ、と言ってもそれは無理でしょう?
神社はそこまでの御利益=結果は約束していないんですね。
この霊視商法の「寺」だって、結婚させるところまで約束はしていないと主張するでしょう。少なくとも水死者だの、水子だの、落ち武者だのの「霊」の供養はしているわけで、契約違反はないということになるでしょう。
だから、ここは詐欺ないし強迫で契約を取り消して渡したお金を取り戻し、さらに慰藉料請求をするなら不法行為に基づく損害賠償請求をしていくことになります。
実際の解決
ところが、普通の宗教ではなくてエセ宗教であるという立証は難しいですよね?
ここは捜査機関による強制捜査によって証拠を入手してほしいところです。
また、捜査機関の手が入ることで新たな被害者の拡大も防げます。
というわけで我々は、民事訴訟を提起すると共に、名古屋地検に刑事告訴をしました。
こうしてこの事件には弁護士以外に、刑事事件については検事、民事・刑事について裁判官と、法曹三者すべてが勢揃いしたことになりました。
その後の警察・検察の調べで、この「寺」の主催者は宗教的修行などしたことのない元経営コンサルタントだったこと、住所をみて川がそばにあったら水死者の霊、などというマニュアルがあったこと、などがわかってきました。
ちなみに、「あなたの娘さんは一年以内に死ぬ~~!」の尼さんは、この前まで騙されていた普通の主婦で、スカウトされて頭を剃っただけだった(笑)ことがわかりました。
というわけで、民事事件では被害金の97%が返還されるという和解が成立しました。お母さんは喜んでおられました。
さらに、刑事告訴によってトップ以下幹部が逮捕され、後に宗教法人法の解散命令が出されて解散に追い込まれたのでした(明覚寺、本覚寺事件)。
再び正しい答えのない世界へ
以上、私の言いたいことがおわかりいただけたでしょうか。
あなたの娘さんには落ち武者の霊が憑いている!と叫ばれて取られたお金を取り戻してください、という相談があったときに、どうしたらいいか正しい答えもマニュアルもないんです。
皆さんがこれまで勉強してきた法律の基礎的な力でなんとか解決方法を考えるしかありません。また、こういう問題には民事系(金銭の取り戻し)、刑事系(詐欺罪)、公法系(宗教法人の解散)などがバラバラに出てくるのではなく、一度に解決しなければならないのです。
法科大学院入試や司法試験予備試験、司法試験の段階で皆さんに求められているのは完成版の実務家的能力ではありませんから安心して下さい。しかし、実務家にしてみたいと試験委員に思わせる素養は見せなければなりません。
この本では、答案を通じて、いかに「正しい答えのない世界で自分なりの解決方法を見出す力」があるかのように見せるか、賢くなくても賢く見える答案を書く方法、を伝授したいと思います。
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自分でも、なぜ、このような問題解決にならざるを得ないのか、当時は理解できなくて、今、初めてこの文章を見て、納得できました。
同じく、県の弁護士事務所による労働委員会審査を提起、別の弁護士事務所による労働裁判、そして個人による刑事事件を県警へ告発するなど、この事例の霊感商法解決と全く同様な、結果的に司法の三者が揃い踏みとなって、解決したのでした。
これは、有斐閣刊の「教育法百選」に、大学教授会の自治手続き瑕疵を、憲法違反の判決となって、「大学教授会の自治は、衆議院の議員運営法に類推適用の民主的な自治手続きに則らなければならない」という、群馬県前橋地裁の田村裁判長判決が、確定した経過でした。
その結果、全国の大学教授会は言うに及ばず、文部科学省においても、大学教授会の憲法手続きの代表判例とされて、実際の裁判に判例として、一般的に証拠採用されているのです。
なぜなら、その他に憲法に基づく、同様な大学教授会自治の民主的手続き判決は、その前にも後にもなく、これが唯一、憲法判決による典型的な判例となったからでした。
そもそもこの事件は、単に教授会の自治、労働審査、偽造文書の刑事問題など、複雑な複合ケースではなく、単純な「文部大臣(文部科学省大臣)偽造事件」に、端を発したものでしいた。
さすが明治以来、日本では「道徳の府」である、文部省大臣に対する教職課程の新設に纏わる担当教授について、学校法人理事長が「本人の了承なし」に偽造して、文部大臣の申請許可となった例は、この大学以外にありませんでした。
「偽造は体質の問題」でして、要するに学校法人の理事長は、日常一般業務で偽造を常としたのですから、文部省でも群馬県でもところ嫌わず、偽造をして汚職体質の学校法人大学を運営していたのです。
わたしは、この悪弊を許さないとして、断固として闘って、これが憲法上の大学の自治手続きに違反するものとして、地裁の判決が確定したのでした。
では、なぜ、このように裁判闘争を行ったのかというと、「嘘を基盤として教育は決して成り立たない」からで、「虚偽の学習をすれば泥棒が育って犯罪社会が成立する」以外に、凡そ考えられません。
当たり前のことですが、これは学校教育の場で裁かれると、結局のところ憲法手続き瑕疵を糾して、「大学教授会自治を確立する」結果となりました。そして、この判例が、教育判例百選に憲法判例となって掲載されたのでした。
憲法第98条憲法の最高法規性に基づいて、全国の大学教授会、文部科学省でも、日常、大学教授会自治手続きとして、衆議院議院運営法の類推適用となって、今日の大学自治が運営されているのです。
これは、その他にも労働判例などに、地裁判例として載っていますので、参考まで。
なるほど、なるほどと分かってくると、わたしにも以前、大昔ですが、同様な事件に遭遇して、致し方ないので自分で解決に入った経緯でした。
自分でも、なぜ、このような問題解決にならざるを得ないのか、当時は理解できなくて、今、初めてこの文章を見て、納得できました。
同じく、県の弁護士事務所による労働委員会審査を提起、別の弁護士事務所による労働裁判、そして個人による刑事事件を県警へ告発するなど、この事例の霊感商法解決と全く同様な、結果的に司法の三者が揃い踏みとなって、解決したのです。
これは、有斐閣刊の教育法百選に、大学教授会の自治手続き瑕疵を、憲法違反の判決となって、「大学教授会の自治は、衆議院の議員運営法に類推適用の民主的な自治手続きに則らなければならない」という、群馬県前橋地裁田村裁判長による判決が、確定した経過でした。
その結果、全国の大学教授会は言うに及ばず、文部科学省においても、大学教授会の憲法手続きの代表判例とされて、実際の裁判に判例の証拠採用とされています。
なぜなら、その他に憲法に基づく、同様な大学教授会自治の民主的手続き判決は、その前にも後にもなく、これが唯一、憲法判決による典型的な判例となったからでした。
そもそもこの事件は、単に教授会の自治、労働審査、偽造文書の刑事問題など、複雑な複合ケースではなく、単純な「文部大臣(文部科学省大臣)偽造事件」に、端を発したものでしいた。
さすが明治以来、日本では「道徳の府」である、文部省大臣に対する教職課程の新設に纏わる担当教授について、学校法人理事長が「本人の了承なし」に偽造して、文部大臣の申請許可となった例は、この大学以外にありませんでした。
「偽造は体質の問題」でして、要するに学校法人の理事長は、日常一般業務で偽造を常としたのですから、文部省でも群馬県でもところ嫌わず、偽造をして汚職体質の学校法人大学を運営していたのです。
わたしは、この悪弊を許さないとして、断固として闘って、これが憲法上の大学の自治手続きに違反するものとして、地裁の判決が確定したのでした。
では、なぜ、このように裁判闘争を行ったのかというと、「嘘を基盤として教育は決して成り立たない」からで、「虚偽の学習をすれば泥棒が育って犯罪社会が成立する」以外に、凡そ考えられません。
当たり前のことですが、これは学校教育の場で裁かれると、結局のところ憲法手続き瑕疵を糾して、「大学教授会自治を確立する」結果となりました。そして、この判例が、教育判例百選に憲法判例となって掲載されたのでした。
憲法第98条憲法の最高法規性に基づいて、全国の大学教授会、文部科学省でも、日常、大学教授会自治手続きとして、衆議院議院運営法の類推適用となって、今日の大学自治が運営されているのです。
これは、その他にも労働判例などに、地裁判例として載っていますので、参考まで。