タックスヘイブン(租税回避地)の法律事務所から漏洩した顧客情報「パナマ文書」の存在が明らかになってから約9カ月。
2.6テラバイトにも及ぶ膨大なデータの分析が進み、2016年5月10日にはICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)のHPに公開されました。
データの分析には世界約400名のICIJ会員ジャーナリストが動員され、日本からは朝日新聞の奥山俊宏編集委員と共同通信の澤康臣記者が参加し、24の日本企業と延べ400人の個人名を探し出したということです。
これに対して、名前の挙がった法人は口をそろえて違法性はないと言っています。たとえば、英領バージン諸島の会社の株を取得していたとされた商社の丸紅は10日の決算発表の会見で、国分文也社長が
「神経質に調べているが、違法性のあるものはまったくない」
「会社の設立や清算手続きが簡単にできる」
と釈明しました。
また、ホリエモンこと堀江貴文氏やジャーナリストの木村太郎氏ら富裕層ないしその応援団が、節税するのは当たり前で違法性がないと口をそろえて言っていますが、ことはそんなに単純ではありません。
まず、今の日本の法制度でも、海外への送金・財産移転には届け出が必要とされています。この手続きをちゃんととっているかが問題となります。
個人については、1998年に国外送金等調書が導入され、金融機関などを通じて100万円を超える国外 送金を行ったり、国外からの送金などを受領したりする際には、金融機関を通じて住所・氏名などを記載した調書を税務署に提出する義務を負います。
また、2014年からは国外財産調書が導入され、5000万円を超える国外財産を保有する居住者は、その保有する財産の中身を記載して税務署に提出する義務を負い、故意の不提出や虚偽記載には1年以下の懲役刑が科せられます。
つまり、刑罰を科せられる犯罪なのです。
さらにちょうど今年2016年からは財産債務調書が導入され、その年の所得金額が2000万円を超え、かつ財産の価額が時価で3億円以上の場合には、その内容を記載して税務署に提出する必要があることになっています。
国内口座に外国の債券などを保有している場合には国外財産調書に記載する必要はありませんが、財産債務調書には記載する必要 があります。ただしこの義務には、国外財産調書のように不提出による懲役刑はありません。
パナマ文書に名前が出てきた個人及び法人は、まずは、このような手続き面での制度に沿った届け出がなされているかどうかが、問われることになります。
さらに、日本での脱税が問われる可能性があります。
わが国は全世界課税方式といって、日本居住者が全世界で得た所得に対して課税する制度を採用しており、日本居住者がタッ クスヘイブンを含めた海外で所得を得れば、日本の税務当局への申告義務が生じるので、これが適正に行われてきたかどうかが問われます。
もちろん、二重課税を調整する制度はありますが、それを踏まえたうえで脱税として、刑罰が科される可能性があるのです。
また、あまり報道されていませんが、日本にはタックスヘイブン対策税制も導入されているので、個人がタックスヘイブンにつくった会社に所得を貯めていれば、合算して申告する義務を負っており、これも脱税という犯罪であると評価される可能性があるのです。
このように、租税回避地などといいますが、そこを利用したからと言って日本法で不問に付されるわけでは全くありません。
パナマ文書から情報が出てきた日本居住者は、これらの義務がきちんと果たされているかが税務当局によって厳しくチェックされ、必要に応じて税務調査の対象とされるべきです。
さらには、日本の社会資本や人材・財産を利用しながら日本に納税しようとしないことが、倫理的・道徳的に問題だとされるべきことは言うまでもありません。
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パナマ文書の法人・個人名36万件を公開。しかし、朝日新聞は見事に日本関連400個の名前を伏せて報道。
パナマ文書が暴く権力者と富裕層の「財産隠し」。プーチン、習近平にメッシ、ジャッキー・チェンも。
当初は菅官房長官が感知しないとコメントを拒否していたパナマ文書問題。
しかし、G7でもタックスヘイブン問題は各国政府が市民から突き上げられ取り上げざるを得ないので、安倍政権も重い腰を上げ始めています。
それでも逃げ腰なのは間違いないので、要監視です!
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【速報】パナマ文書に記載された日本企業名リスト
【随時更新中】全世界を震撼させている「パナマ文書」問題。ワシントンに本拠を置く「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」は、10日の日本時間午前3時、タックスヘイブンに設立された世界21万4000法人の情報などをホームページ上に公表した。
日本関連では、複数の法人のほか、400近い出資者の名前も掲載されている。
リストは国別になっており、「Japan」および「all countries」で検索した結果、出てきた企業名は以下の通り。
※後ろに★印のある企業は「Offshore Leaks」からの検索結果。
・Itochu Corporation(伊藤忠)
・TOSE CO., LTD
・EXCEL AIR SERVICE INC.
・MARUBENI CORPORATION(丸紅)
・SSK supply
・TOYO ENGINEERING CORPORATION(東洋エンジニアリング)
・TRANSPORTS CORPORATION
・NISSEI ELECTRIC CO., LTD.
・RONNARU LTD.
・LIVEDOOR CO. LTD.(ライブドア)
・LIVEDOOR HOLDINGS CO., LTD(ライブドアホールディングス)
・SECOM SCIENCE AND TECHNOLOGY FOUNDATION(セコム)
・CORETECH CO., LTD.
・SOFTBANK BB CORP.(ソフトバンクBB)
・M・H・GROUP LTD.
・EASTASIA GROUP CO., LTD(イースタジアグループ)
・Asset & Ashe Investment Limited
・NHK GLOBAL INC.(日本放送協会)
・TOYOTA TSUSHO CORPORATION(豊田通商、トヨタグループの総合商社)
・WATAMI TRADING LTD.
・DENTSU SECURITIES INC.
・BANDAI HOLDING CORP.
・Dai Nippon Printing Co., Ltd(大日本印刷)
・DAIWA BUSSAN LTD.
・DWANGO Co., Ltd.(ドワンゴ)★
・NTT do Co Mo,Inc(NTTドコモ)★
・MARUHA NICHIRO CORPORATION(マルハニチロ)
・TANITA INDUSTRIES CORP.
・DAIKIN LIMITED
・SUNTORY PROPERTIES LIMITED
・Fast Retailing Co., Ltd.(ファーストリテーリング、ユニクロ)★
・Rakuten Strategic Partners, Inc. ★
・JAL HOLDINGS LIMITED ★
・ORIX FUND NO. 9(オリックス)★
・KONAMI CORPORATION LIMITED(コナミ)
・LOTTE GROUP LIMITED(ロッテ)
・TOKYO KOBETSU SHIDO GAKUIN(東京個別指導学院)
・Mitsubishi Group Corporation(三菱)★
・SUMITOMO METAL INDUSTRIES LTD(住友金属工業)★
・AEON ASIA LIMITED(イオン)
・SATO TEC. CORPORATION(サトウテック)★
・Sony Corporation(ソニー)★
・NIKKEI S.A.
・NOMURA INVESTMENTS LTD.
・Nissan Holdings Ltd
・SOJITZ CORPORATION(双日)
・FUJI ELECTRIC (FA ASIA) CO., LTD.
・Dream Incubator ★
・WING GLORY LIMITED(三井物産の子会社)
・CANON CORPORATION
・SEGA INTERNATIONAL LTD.
・NEC HOLDING LTD.
・TORAY PROPERTIES LTD.(東レ)
・MITSUI SOKO CO., LTD.
・SETOUCHI MARINE CO. LTD.
・SAKURA KYODO LAW OFFICES
・KASHIWAGI INTERNATIONAL LAW OFFICE
・TOKAI DENPUN CO., LTD.(東海澱粉)
・TOKAI SEA PRO CO., LTD.(東海シープロ)
・SANKYO TECHNOLOGY CO., LTD.
・TEPCO LIMITED
・TEPCO INVESTMENTS LTD.
(順不同、随時更新中)
source: ICIJ
image by: Shutterstock
パナマ文書 名前挙がった企業や経営者は
5月10日 19時31分 NHK
「パナマ文書」に記載された法人21万社余りについて、実質的な所有者などの名前が公表され、中には日本人とみられる個人や日本企業もありました。名前の挙がった企業や経営者の見解をまとめました。
公表されたパナマ文書のデータでは、大手通信会社ソフトバンクグループの関連会社がイギリス領バージン諸島の企業に出資していたと記載されていますが、孫正義社長は「事業目的の企業への少額出資で、すでに売却済みだ」と説明しました。
ソ フトバンクグループによりますと、グループ内の2つの企業が、平成12年と平成19年にそれぞれ別の中国の企業が現地に設立した会社に2億円と6000万 円、出資したということです。しかし、いずれも事業が軌道に乗らず、すでに保有していた株式を売却し、撤退したということです。
ソフトバンクグ ループの孫社長は10日に開かれた決算発表の記者会見で、「どちらもソフトバンクが設立した企業ではなく、事業目的の企業への少額出資だ」と説明しまし た。そのうえで、いわゆるタックスヘイブンとされる地域への企業の設立が課税逃れではないかという指摘が出ていることについて、「議論があるところだが、 われわれは世界的な競争の中で事業を行っていて、今後、世界的なルールの変更があればそれに従っていく」と述べました。
「パ ナマ文書」に記載されていたとして名前が公表された法人のうち、大手商社の丸紅は、「確認中だ」としながらも、イギリス領バージン諸島の法人に出資してい ると記載されていることについて、「中国本土で銅線の生産を手がける台湾メーカーと取り引きを行った際に、小規模の出資を求められたもので、租税回避が目 的ではない」と話しています。
國分文也社長は記者会見で、「報道を受けて、タックスヘイブンに登録されている関連会社などを洗い出して調査をして いるところだ。数十社が対象として出ているが、今のところ違法性は全くないし、租税回避を目的にして会社を設立することはない」と述べ、適切に対応してい るという考えを示しました。
そのうえで國分社長は、「タックスヘイブンでは会社を設立する手続きが簡易なことや、パナマやシンガポールなど金融や商品の取 り引きの中心ということもあるので、コンプライアンス上の問題や違法性がないという確認は当然したうえで、ビジネス上の判断から今後もそういう場所に拠点 を置くことは否定しない」と述べました。
一方、同じ法人への出資などで名前が記載されている伊藤忠商事は、「文書にどのような内容が載っ ているのか確認中だが、出資は事業を進めるうえで行ったもので、租税回避が目的ではない。海外の取引先から求められるなどして、タックスヘイブンと呼ばれ る国や地域にある法人に出資をすることはあるが、いずれも日本の税制に従って納税するなど、適切に対応している」と話しています。
また、 三井物産によりますと、公表されたデータの中に、過去に海外にある子会社がバージン諸島の法人に出資したケースが記載されているということですが、「中国 本土で港湾ターミナルを運営する事業に参加する際に出資したもので、租税回避が目的ではないし、すでに法人は清算されている」と話しています。
公表されたパナマ文書のデータでは、楽天の三木谷浩史社長の氏名もイギリス領バージン諸島の会社に出資していたと記載されています。
楽天は三木谷社長の話として、「今から20年以上前、楽天を設立する前に、知人からの紹介を受けておよそ80万円を投資会社に出資したが、その会社の事業は失敗に終わり、結局、一部のお金しか戻ってこなかった」と説明しています。
そのうえで「租税回避を目的とした投資ではなく、やましいことはない。利益が出たら日本の税制にのっとって税金は払うので、問題はないと考えている」と説明しています。
大 手警備会社「セコム」の創業者の1人で最高顧問の飯田亮氏は、バージン諸島の法人に関連して名前が記載されています。これについてセコムの広報は「日本の 税務当局から求められた必要な情報を随時開示しており、合法的に処理されていると聞いています」とコメントしています。
また、神戸市に本 社があるコーヒーメーカー、「UCCグループ」のCEO=最高経営責任者、上島豪太氏もバージン諸島の法人の株主として記載されています。これについて上 島氏は会社の広報を通じて、ビジネスのための出資を行ったと説明したうえで、「日本の税務当局から求められた情報は随時開示し合法的に納税しています。租 税回避が目的ではありません」とするコメントを出しました。
一方、パナマ文書には、今はなくなったIT企業「ライブドア」もバージン諸島の会社の株主として記載されています。
平 成17年12月に公表された有価証券報告書や旧ライブドアの関係者によりますと、当時、ライブドアは中南米でインターネット広告の事業を行う会社を平成 17年9月におよそ12億円で買収していて、会社の登記をバージン諸島で行っていました。ライブドア関係者は「租税回避という目的ではなく、安定した法整 備や手続きのスムーズさなどを考えバージン諸島に登記したはずだ」と話しています。
菅義偉官房長官は10日の記者会見で、タックスヘイブン(租税回避地)に関する「パナマ文書」に記載された企業・個人名が公表されたことについて、「課税当局はあらゆる機会を通じて情報収集を図り、問題のある取引と認められれば税務調査を行う」と強調した。
政府は10日、英国政府主催で12日にロンドンで開かれる「腐敗対策サミット」に、柴山昌彦首相補佐官を派遣すると発表。菅長官は「国際的な課税逃れやマネーロンダリング(資金洗浄)などの腐敗・汚職行為は、大きな問題として取り上げる」と語った。
(時事通信 2016/05/10-19:07)
逃げる富、揺らぐ税の信頼 パナマ文書が問う
- 2016/4/30 3:30
- 日本経済新聞 電子版
世界の著名人らの税逃れを暴いた「パナマ文書」が国際社会を揺さぶっている。マネーと企業が世界を行き交うグローバル時代の税のあり方が今、問われる。
「顧客が動揺している。手を組もう」。東京都千代田区の弁護士事務所に米ニューヨークの大手法律事務所から電話が入った。4月のパナマ文書発覚以降、氏名公表を心配した富裕層からの問い合わせがやまない。節税を得意とする事務所が連携し、「脱パナマ」の節税網に顧客を取り込もうとしている。
パナマの法律事務所モサック・フォンセカの内部資料には約400人の日本人も含まれると報じられた。
■逃れ続ける「旅人」
「日本は稼いだ人間が損をする」。高山透氏(仮名、51)は2年前から日本、香港、マレーシアを渡り歩いている。短期滞在を繰り返し所得税を逃れるためだ。税への不満はこんな「永遠の旅人」まで生んだ。
相続などに悩む多くの事業オーナーらはタックスヘイブン(租税回避地)を使った節税に走る。マレーシアのラブアン島にはアジアなどから流れ込む富裕層のマネーが急拡大している。相続税がゼロのためだ。
同じく相続税がない香港。日系資本も入るある富裕層向け銀行は預かり資産が10万ドル(約1100万円)からと低めだ。回避地に法人名義で口座を開いて運用するケースが多く、実態は霧に覆われている。
資金の国外流出が止まらない背景には、日本で富裕層増税が続いたこともある。所得税は最高税率が45%に上がり高年収サラリーマンは控除縮小で税の重みがぐっと増した。相続税は経済協力開発機構(OECD)加盟国でもっとも高い。
1990年代以降、税制改革は「底面積」にあたる課税ベースを広げる一方、所得や資産の税率を下げて個人の成功を後押しするのが世界の潮流とされてきた。
■「出国税」で対抗
現実には日本でも財政悪化と格差拡大への批判を受けて政治が高所得者の税金を増やし、富裕層は国境を越えた節税で対抗した。
税務当局もあの手この手だ。国税庁は5千万円超の海外財産を持つ人に報告を義務付ける国外財産調書を2014年1月から導入。資産家が海外移住する際に一定以上の株式含み益に所得税をかける出国税も始めた。
捕捉には限界もある。「4億~5億円の無申告財産を海外に持っている男性に修正申告を勧めたら二度と来なかった」。国税庁OBの税理士(57)は苦笑いする。海外資産の申告数は14年分が前年比47%増の8184人。財産総額は3兆1千億円強と2割強増えたが、「実感より1桁少ない」と別の国税庁OB。
節税自体は違法ではない。だが消費増税などで負担が増す中で、富裕層だけが特権を行使しているとみなされれば国民にしらけムードが広がり、税制の基盤である信頼が失われる。違法な脱税に近い「灰色取引」の温床となり資金洗浄などの犯罪も誘発しかねない。
クレディ・スイス証券によると純資産100万ドル(約1億1000万円)を超える富裕層は日本に212万人で世界3位だ。「国ごとの税率の違いを突く富裕層の動きは止まらない」(税理士法人、山田&パートナーズの川田剛顧問)。当局と富裕層らのいたちごっこは続く。
倫理と透明性に疑いの目(パナマ文書が問う)
節税・脱税、善悪の境界は
- 2016/5/1 8:58 日本経済新聞
「不公平だ!」。4月半ば、ロンドンの英首相官邸前はキャメロン首相辞任を求める数百人のデモ参加者であふれた。亡父がパナマにつくった投資信託で首相が300万円ほど利益を上げたとパナマ文書をきっかけに明らかになった。税逃れ対策を訴えてきたキャメロン氏だけに英国民の怒りも大きい。潔白を証明しようと政治家による納税や所得の開示ラッシュだ。
パナマ文書が突きつけた論点の一つは政治と倫理だ。増税や社会保障カットを強いる政治リーダーの税逃れは格差拡大にいら立つ世論に火を付けた。アイスランドのグンロイグソン首相はタックスヘイブン(租税回避地)を使った自国銀行への投資が判明し、即辞任した。
インドネシアのメディアは4月25日、ジョコ政権の有力閣僚が文書に含まれると報じた。新興・途上国で公金流用や汚職と結びついた税逃れが発覚すれば、各地で政治混乱のパンドラの箱があくかもしれない。
国境をまたぐ税逃れは1934年の「ヴェスティ兄弟事件」がはしりとされる。英国の食肉業者だった兄弟がアルゼンチン政府高官と売り上げを海外に移す課税回避にいそしんだ。当時の国際連盟は「国際的な経済活動で税収が確保できなくなる」と危機感を表した。
はるかに複雑になった現代の税逃れは二重三重に国境を越え、ぶ厚いベールに覆われる。「節税は一種の知的ゲーム」(中央大学の森信茂樹教授)。パナマ文書には、中国に進出する日本企業が中国当局の経営介入を防いだり、日本籍であることを隠したりといった狙いで回避地に新会社を設立したケースも含まれる。富裕層が回避地の会社に名義を貸しただけの例もあり一刀両断にできない。
世界の銀行の回避地向け投融資も5年で3割弱増え、2015年末に2.4兆ドル(約250兆円)に達した。「ファンド創設手続きの簡便さ」(野村総合研究所の大崎貞和氏)から、個人投資家などの資金が投資信託を通じて流れ込んでいるためだ。
だが、多くの取引が形式的には合法でも、「脱税」と紙一重のケースもある。違法性を問うモノサシもぶれやすく、「当局が悪質だと認定すれば脱税扱いになる」。国際税務専門のベテラン税理士は、税逃れの善悪を巡る線引きは極めて曖昧だと指摘する。
キーワードは課税の透明性だ。税がよりどころとする納得感を高めるには、まず租税回避の実態解明を進め、富裕層に自制を促す努力が欠かせない。
税が他国に「浸食」されている米欧などの当局も、世論の怒りを「追い風」にしようと必死だ。複数の国で活動する人や企業の課税情報を数年内に各国で共有し、税逃れに歯止めをかける案を新興国にも迫っている。
だが、租税回避地であるシンガポールなどが参加しない枠組みがあり、インドやトルコなども欧米主導に強く反発しており溝は深い。
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は5月前半にパナマ文書の全容を公表する。税の透明性と公平さをどう担保するのか。この問いかけに対する解を見いだすきっかけになるだろうか。
パナマ文書が問う(下)減税競争、行き着く先は 進まぬ改革、企業見切り
- 2016/5/2付
- 日本経済新聞 朝刊
米欧などの先進国で国家や政治が企業経営への批判を強めている。
頓挫した統合計画
「我々は実際に富や仕事をつくりだしている。口だけの人間とは違う」。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のイメルト会長は4月、米有力紙に寄稿した。米国を代表する経営者に「口だけの人間」と批判されたのは、民主党のサンダース上院議員。米大統領選でクリントン前国務長官と党候補の指名を争い、民主社会主義者を自称する。
同陣営がつくった「税逃れ10社リスト」はボーイングやファイザーなどと並んでGEを名指し。「2013年までの6年間に339億ドル(約3兆6000億円)超の利益を米国内で稼いだのに、法人税の実効税率はマイナス9%」と指摘した。サンダース氏は「米国の雇用を奪い、税金も払っていない」と批判した。
4月上旬、米製薬大手のファイザーとアイルランド同業のアラガンは世界最大の製薬会社をつくる統合計画を白紙撤回した。「国に標的にされた」とアラガンの首脳。同社の本拠地で税率の低いアイルランドに本社を移す計画は、米政府の規制強化で阻止された。
米ゴールドマン・サックスによると様々な節税策の効果で、米主要企業の15年の実効税率は29%と法定の約40%を下回った。税率40%を超えるカリフォルニア州に本社を置くアップルも15年は26%と低い。
法人税収の4年分
米国の多国籍企業が海外に蓄えた2兆ドルは米法人税収入の約4年分。活動実態に見合った税金を母国に支払わず、節税策を駆使して海外に利益を蓄えている。こんな米国民の怒りはパナマ文書で増幅された。
企業にも言い分はある。米国は法人税の実効税率が先進国で最も高い約40%。連邦法人税率を35%から28%にするオバマ大統領の公約は実現のメドが立たない。一方で利益の最大化を求める株主の圧力は強い。「時代遅れで複雑な税制のおかげで不利な競争環境にある」(イメルト氏)
タックスヘイブン(租税回避地)は主に法人税の負担比率が20%未満の国・地域をさす。大手会計事務所によると、調査可能な146カ国・地域のうち15年は40弱あった。アイルランドはその一つ。法人税率は12.5%と欧州屈指の低さだ。15年の法人税収は前年比で5割近く増えた。
米議会調査局によると法人・個人の課税逃れによって、米国が失う税金は1年で約1000億ドルに上る。オバマ政権も海外留保資金への課税強化など対抗策に躍起だ。しかし本来はどの国も法人税引き下げなどを通じて立地競争力を高めるのが王道で、改革が遅れれば国に見切りをつける企業は増える。安倍政権も16年度から法人実効税率を29%台に引き下げるが、経済界は満足していない。
租税回避地の小国から超大国までが生き残りをかけた減税競争はどこまでいくのか。欧州連合(EU)では法人税の最低税率を域内で共通にする案も浮上。現実味は乏しいが、税逃れへの究極の一手ではある。国の徴税権に一定の歯止めをかけ、共通の税制に近づける。こんな姿を「夢想」と言い切れなくなったところに税逃れ問題の根深さがある。
上杉素直、高見浩輔、黄田和宏、飛田臨太郎、河浪武史、川瀬智浄、植松正史、稲井創一が担当しました。
G20会合で見えた
個人課税の3つの論点
5月10日に公表が予定されているパナマ文書に関してマスコミの報道が日に日に大きくなっている。しかしその内容には疑問を抱くものもある。とりわけ、わが国の税制についての理解が十分でない報道も多く見受けられる。
そこで、以下、筆者が疑問に感じたことを中心に、さらには先週ワシントンDCで開催されたG20会合(20か国財務大臣・中央銀行総裁会議)の声明文も解読しながら、個人課税を念頭において3つの論点について述べてみたい。
第1の論点は、「すべて法にのっとっており合法である」という(一部政治家などの)認識は間違いということである。確かに、パナマなどタックスヘイブンに資金を預けたり会社を設立したりすることは、当事国ではもちろんのこと、日本でも合法である。
しかし、問題はその先である。連載第112回で述べたように、わが国は全世界課税方式といって、日本居住者が全世界で得た所得に対して課税し、二重課税については申告の段階で調整する方式をとっている。
したがって、日本居住者は、タックスヘイブンを含めた国外で所得を得れば、日本の税務当局へ申告しなければならない義務がある。これが適正に納税されていなければ、それは税をごまかした(脱税)ということになる。
もう1つ、わが国にはタックスヘイブン対策税制が導入されている。出資金額などの50%超が、内国法人や日本居住者によって直接・間接に保有されているタックスヘイブンに所在する会社について、その会社の株式などを5%以上保有する法人や居住者は、その会社に留保した金額を日本の当局に申告する義務がある。個人の場合、雑所得として申告することになる。
もっとも、この規定には例外がある。実際に日本の法人や居住者が、タックスヘイブンにつくった会社を「管理支配」しているなど適用除外基準を満たせば、この規定は適用されない。たとえば、本人自身が現地に赴き役員としての職務執行を行うなど、実際の活動をしていればセーフとなるのである。タックスヘイブン対策税制は、ここまで確認されて初めて発動されるので、今回個人の名前が出た場合、事実関係を精査する必要がある。
つまり、タックスヘイブンに送金し会社をつくることは合法だが、その後の税務処理がきちんと行われていなければ、「脱税」に問われるということである。
G20会合で合意された
自動情的報交換の仕組みづくり
第2の論点は、わが国の税務当局はどうやってその情報を掴むのかという点である。
これを可能にするのは、タックスヘイブン国も含む各国の「自動的情報交換」である。日本居住者がタックスヘイブンを含む外国に口座を開設すれば、その情報(口座残高、利子、配当など)が自動的にわが国の税務当局に送られてくる仕組みを構築することである。
これについては、2017年までに55ヵ国・地域が交換を始めることにすでに合意がなされている。わが国は1年遅れて2018年までに交換すべく、国内法などの整備を行ったところである。米国は、これには参加していない。そこで、この問題の背後には米国政府がいるのではないか、米国の都合のいいように情報を操っているのではないか、という見方がある。
しかし、米国は2015年からFATCA(外国口座コンプライアンス法)という、より厳しい自動的情報交換を実施しており、この問題への対処は最も進んでいるというのが筆者の認識である。これにより、96ヵ国・地域が自動的情報交換の対象になるわけだが、実はパナマはこの中に入っていない。その他に、ナウル、バーレーン、バヌアツも自動的情報交換に参加していない。
だが、4月16日、17日、米国ワシントンDCで開催されたG20会合の声明文には、「自動的情報交換に係る基準を2017年又は2018年までに実施することにコミットしていない全ての関係する国に対して……コミットすること及び多国間条約に署名することを求める」としている。その上で、「7月会合までに税の透明性に関する非協力的地域を特定するための客観的基準をつくることを指示する」となっており、あらゆるタックスヘイブンについて、自動益情報交換を迫ることとなる。それをモニターするメカニズムも構築される。
これを受けてすでにパナマは、自動的情報交換に参加するとしている。その他の国・地域も参加せざるを得ないだろう。そうなれば、基本的に逃げ場はなくなると考えてよい。
3つ目の論点は、そうは言っても、実際に日本の税務当局にそこまで調査できるのか、という疑問である。確かに日本の税務職員の数は限られており、税務調査権限は一般的に国境を越えて他国には及ばないので、そこは困難が伴う。現実に、オリンパス事件のケースで、オリンパスから粉飾を手助けした者への報酬資金の流れを見ると、香港、シンガポール、ルクセンブルクの3ヵ国の銀行口座・金融機関が使われている。
タックスヘイブンの金の流れを追うということは、「玉ねぎの皮をむく」ような仕事であり、マトリョーシカの中に入っている最も小さな人形を探し当てる作業である。その過程で多くの国家主権の壁にぶち当たることになる。麻薬・汚職・脱税の犯罪の色が濃くなるほど、調査・捜査は難しくなる。
実質的所有者情報の交換が
今後のキーワードに
そこでこの点について、今回のG20会合で話し合われ、大きな進展が見られた。声明には、「特に法人及び法的取極めの実質的所有者(beneficial ownership of legal persons and legal arrangements)情報に関し、金融の透明性及び全ての国・地域による透明性に関する基準の効果的な実施に付した高い優先性を再確認する」と書かれているのである。
重要な点は「実質的所有者」情報の透明性を求めていること、つまりマトリョーシカのなかの小さな人形の正体を開示することである。これは脱税だけではなく、「腐敗、租税回避、テロ資金供与、マネーロンダリングの目的で悪用されることを防止するため」とされている。
今後は「権限ある当局間の国際的な実質的所有者情報の交換」がキーワードとなり、それに向けての作業が開始される。「実質的所有者情報」については、これまではアンタッチャブルであっただけに、今回これが合意されたということは、いかにこの問題が深刻かということの危機感の表れでもある。わが国でも、マネロンや麻薬・暴力団のマネーなどの観点から、金融庁・法務省、警察との連携・協力が必要となろう。
G20のコミュニケは、財務省のホームページから入手できるので、興味のある方はぜひご一読を。
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申告が不正であれば、それを摘発して、罰則で刑罰を課すなり、修正申告をさせることしかありませんが、行政にその力量があるかどうか、です。
私を含めて一般人は、税務申告を誤魔化すことは出来ないです。 節税は、出来ます。 申告の手引を観ながら、税務署等に相談しながら、申告書を書くのです。
富裕層は、御自分ではされません。 税理士なり、公認会計士に、お任せですから。 勢い、税額が少ない申告法を選ばれるでしょう。
此処でも、富裕層なり、大企業に媚びる業種、士業の方々が居られる訳です。
古より、地獄の沙汰も金次第、と云いますが、それを許していれば、国家の秩序、箍が緩みます。 ことは、金の問題では無い訳ですが、安倍一派にその認識があるかどうか、が問題でしょう。
「10兆円」
超えの税収が上がるとか。
それを敢えてやらないというのは、いつの間にか税収が潤沢になりすぎて困っている、ということだろう。
バンザーイ!
何でも出来るぞ、財源を気にせずに。
もう、我々日本国民は貧困から完全に離脱したのだ!
逆進性の強い消費税は、スッパリ廃止。
奨学金は給付制、いや、いっそ大学授業料を無償化してしまえ。
国民に、ベーシック・インカムを。
そうすれば、生活保護制度は縮小もしくは廃止していい。
もう、みんな日本が大好き、愛国心に燃えるね。
返礼競争激化に対して、三豊市長のように、あくまでもふるさとを思う寄附であるから、お礼も心ばかりの特産フルーツとか広報パンフなどでいい、というもっともな主張もあるし(いま若干豪華になってる)、神石高原町のように犬猫処分ゼロを目指す取り組みに充てていたところもあり、良いことにつなげる工夫は幾らでもできるだろうに。
【超必見】バラいろダンディ・Dr苫米地氏「パナマ文書は脱税!電通・東電・JALを取り上げない日本のメディアはジャーナリズム失格!日本の政治家います!」 //
動画あり(約8分)。
長谷川豊に口を挟ませず、自作のフリップを掲げて説明しまくる。
予めタックスヘイブン利用者の使いそうな言い訳を封じる。
すごい!
「保守速」見てみる。バカウヨどもも、
「これはパヨクの陰謀だ!」
なんて、さすがに言っていない。苫米地スゲエ、要拡散、だそうである。
少しは賢くなるのか?
タックスヘイブン利用者に対する怒りのコメントが、400越えて寄せられていた www
日本のマスコミに頼られていては、願いは叶えられませんよ。 BBCには、実名で載っています。
「昨年1年で約1兆ドル(約110兆円)が中国外に流出し、外貨準備高をすり減らした。
この動きは、中国の経済全体を不安定にさせる可能性がある。
そして中国指導層の親族も、海外で資産を貯めているのだ。
元職と現職を含めて少なくとも7人の国家指導者が、「モサック・フォンセカ」が設立したオフショア会社と関わりがあった。7人には、習近平国家主席のほか2人の最高幹部が含まれている。」
【パナマ文書】中国資産の密やかな流出 党幹部の親族も BBC 2016年04月7日
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35984040
安倍首相の側近である加藤勝信「1億総活躍社会」担当相・拉致問題担当相の妻の姉でもあり、れっきとした公人です。
本人は否定しているようですが、これを「調査しない」と言う政府はロシア・中国並みの隠蔽体質ということです。
京葉さんて国際主義者だったんですね。
日本じゃない外国の指導者の腐敗ぶりに先ず関心が行くというのは素晴らしいことですね。
けどね、中国の国民のためを思って指導層の腐敗を憤ることも大事だけど、keiさんも仰るように自国の富裕層や指導層に問題は無いのかどうかを気にすることも大事だと思います。
それは何より我々国民の利益に直結することだからです。
いくら外国のことに問題があるとしても、我々はその国の主権者ではない以上どうしょうもないのですが、日本国の問題は主権者たる国民の努力によって解決出来るかも知れないのです。
日本国の指導層や富裕層の税金逃れを是正出来れば、税収が増えて国民の利益となるのです。
もとより租税回避の国際的な取り組みのためには外国の動向も視野に入れるのは当然なことだと思います。