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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

海上自衛隊の伊藤弘総監は防衛費増額について「もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちにはなれない」と述べたのは至言。そしてこれは文民統制違反の問題にはならない。

2022年07月07日 | 日本国憲法の先進性

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 海上自衛隊呉地方総監部伊藤弘総監が、記者会見で記者からの

「参院選で、防衛費をGDP(国内総生産)比で2%まで増やすことも念頭にするとの議論がある。現場から見て、防衛予算の現状や2%という議論をどう考えるか。」

という質問に見事な回答をしたという毎日新聞の記事は私も見て、非常に感心しました。

 旧日本軍の時代から呉というのは海軍の本拠地でしたから、海上自衛隊の呉総監部の総監というのは上位の幹部です。

 まず、伊藤総監はこの質問に対して

「今、5兆円超の予算をいただいている防衛省として、それが倍になるということを、個人的な感想ですけれども、もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、私個人としては全くそういう気持ちにはなれません」

として、個人的な見解と断りつつ、防衛費倍増は全く喜べないと言いました。

 

 そしてその理由として社会保障が足りていないという事を上げたのが画期的です。

「というのは、社会保障費にお金が必要であるという傾向に全く歯止めがかかっていないわけです。

 どこの省庁も予算を欲しがっている中にあって、我々が新たに特別扱いを受けられるほどに日本の経済状態ってどうなんだろう、良くなっているのだろうかということを一国民としての感想ですが、思います。」

 さらに、岸田政権が右派の安倍氏や高市氏や佐藤正久氏に押されて、何に防衛費が必要かもさておいて、とにかくGDP2%と二倍増を目指していることについて

「大事なのは、何を我々自身が必要としているか、ということをしっかりと積み上げる。整理して国民に提示していくということなんだろうなと思います。」

と言い切ったのもお見事でした。

 

 お見事でしたが、こんなことを言ってしまったら伊藤総監は自衛隊にいられなくなるのではないかと思っていたら、今日のkojitakenの日記さんによると、むしろ、リベラル左派から伊藤氏の発言が文民統制に反するという批判が起こっているようで、kojitakenさん自身も

「「そもそもの前提」として「文民統制上問題がある」ことは最初に言っておかなければならない。」

とおっしゃっています。

文民統制に反する海上自衛隊・伊藤弘の発言は問題だが、それよりももっと大きな問題は文民統制の能力を失った岸田文雄ら自民党が「防衛費増額」なる荒唐無稽かつ有害無益な公約を掲げたことだ

 しかし、これは誤解であろうと思います。

たとえ自衛官の真っ当な言論でも、平和主義の観点からは、文民統制についても一言言っておくべきだというリベラル左派の慎重な姿勢の意図はよくわかる。

 

 

 さて、憲法学の泰斗である故芦部信義教授の「憲法第5版」によると、文民統制とは

「軍事権を議会に責任を負う大臣(文民)によってコントロールし、軍の独走を抑止する原理」

とあり、内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならないという66条2項が挙げられています。

 シビリアンコントロールという考え方は近代憲法の原理原則の一つですが第二次世界大戦前の日本においては、文民統制の思想はありませんでした。

 大日本帝国憲法(明治憲法)では、陸・海軍の統帥権(11条)、軍隊の編制(12条)、宣戦・講和(13条)、戒厳(14条)の権限は天皇に属していて、これについては、帝国議会も内閣も関与できないという天皇大権がありました。

 このことが、軍閥、軍国主義の形成を生み、1931年(昭和6)の満州事変から敗戦に至るまでの悲惨なアジア太平洋戦争を産んだという事から規定されたのが文民統制の規定です。

こういう人間が跋扈しているからこその伊藤発言。

 

 

 

 そうしてみると、日本国憲法における文民統制は、単に武官は文官に服従するということではなく、武官が独善的に暴走して軍国主義に再び走らないということを制度趣旨にしています。

 最近で言うとこの文民統制の制度から問題になるのは、安倍政権時代だった2020年2月4日の記者向け説明会で防衛省陸上幕僚監部が作成し、陸上自衛隊の取り組みを紹介する資料で

「予想される新たな戦いの様相」

として、反戦デモや報道をあげていた事例です。

 さらに、陸上自衛隊トップの陸上幕僚長だった湯浅悟郎氏が2019年10月と2020年1月の偕行社での講演で、「グレーゾーン事態」の事例として、やはりこの「反戦デモ」や「報道」を挙げる資料を示していたことがわかりました。

 こういう自衛隊という日本の「軍部」が防衛省の中で独走して、戦争反対をもとめる言論を弾圧するような行為がまさに文民統制違反です。

【第2の田母神俊雄閣下誕生】陸上自衛隊トップの湯浅悟郎陸上幕僚長が、旧陸軍出身者との親睦組織「偕行社」での講演で、反戦デモや報道をテロやサイバー攻撃と同じく危険と述べ、防衛省もそれを了解していた。

 

 

 この点、今回の伊藤総監の発言は、社会保障などの観点から防衛費だけが倍増などということでいいのかと、むしろ文民である岸田政権と防衛省の軍事独走にストップをかけたもので、これは文民統制の趣旨に鑑みれば、文民統制違反の問題には全くならないと言えるでしょう。

 kojitakenさんがおっしゃるように

「武官である伊藤弘の方が、かえって常識的な観点から政府・自民党の暴走(この暴走ぶりにおいてはネットの主流はより過激だ)を抑えようとしたのが今回の発言だ。

 この倒錯ぶりこそもっとも強く批判されなければならない。

 文民の集団であるはずの自民党が、武官さえも非現実的だと指摘せざるを得ない荒唐無稽な公約を掲げてしまったことに問題の核心がある。参院選でこんな政党(自民党)に投票してはならないことは、あまりにも当たり前だ。」

というのがこの問題の核心です。

 リベラル左派は「文民統制の問題はあるが」と前置きしなくても、この伊藤総監の発言を全面的に擁護して差し支えないというのが私の見解です。

 

元自衛隊員のこういう国会議員がいるから文民統制は大事。ちなみに、現在の憲法学会では文民とは「自衛官でないもの」と解されているので、元自衛官が大臣になるのは憲法上も相当問題。

佐藤正久自民党外交部会長が、北海道に日米の中距離ミサイルを置くことを米ネオコン研究所CSISで提案。ロシアの攻撃目標になるのは必定!「反撃能力」=敵基地攻撃能力を具体化することがいかに危険かは明白だ。

 

 

これに対して、天皇の政治的行為の禁止は、これは護憲的であればいいとか平和的は発言であればいいというものではなく、内容に関わらない絶対的禁止です。

なぜなら憲法が

第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

として天皇の政治的行為を禁止している趣旨は、この記事でも触れた天皇大権が戦争を招いた反省から、国民主権原理の例外である象徴天皇制における天皇の権能を極力抑えることにあるからです。

ですので一部のリベラルの人が、平成天皇や今の天皇が平和的だと見える発言や行動をすると拍手するのは非常に危険です。

それは政治が天皇の個性や人物次第でまた壟断されることになりかねないからです。

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「社会保障費も必要、特別扱い受けられるのか」海自総監の発言概要

記者からの質問に答える海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監=広島県呉市の呉地方総監部で2022年7月4日午後3時24分、岩本一希撮影

 海上自衛隊呉地方総監部(広島県呉市)の伊藤弘総監は4日、参院選で防衛費増額が争点になっていることについて記者会見で問われ、「(増額を)もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちにはなれない」などと述べた。【岩本一希】

伊藤弘総監の発言(概要)

記者 参院選で、防衛費をGDP(国内総生産)比で2%まで増やすことも念頭にするとの議論がある。現場から見て、防衛予算の現状や2%という議論をどう考えるか。

伊藤総監 今、5兆円超の予算をいただいている防衛省として、それが倍になるということを、個人的な感想ですけれども、もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、私個人としては全くそういう気持ちにはなれません。というのは、社会保障費にお金が必要であるという傾向に全く歯止めがかかっていないわけです。どこの省庁も予算を欲しがっている中にあって、我々が新たに特別扱いを受けられるほどに日本の経済状態ってどうなんだろう、良くなっているのだろうかということを一国民としての感想ですが、思います。

 そして大事なのは、何を我々自身が必要としているか、ということをしっかりと積み上げる。整理して国民に提示していくということなんだろうなと思います。

 ロシアによるウクライナ侵略、これでミサイルや砲弾といった弾の数、それを十分持っておかないといけないという議論がしきりとなされていますよね。一方で、それに勝るとも劣らぬくらい重要な船、飛行機、潜水艦、これらを維持・整備していくということの重要性。通常艦艇も潜水艦も、実は塩の水につかっているんですよね。海水という。放っておくと基本、さびちゃうんです。航空機もたくさん持っています。固定翼もヘリコプターも。一般的な飛行機に比べると非常に低空を飛びます。海面すれすれを飛んでいる。基地に帰ると機体を洗っているんですね。そうやって塩水を落とすことによって、整備を少しでも楽にしようとしています。放っておくと、どんどん悪くなっていく。

 極論ですけど、ミサイルや大砲の弾をたくさん仮に買ったとしても、それを撃つプラットフォームである船の手入れを怠ったら海の上に出て行けない。

 目を引かれる装備とか技術とかいろいろあるんですけれど、もっと地に足を着いたメンテナンスですとかロジスティクス、ここにももっと注目をしてほしい。その辺に対する国民、一般の理解をいただけたらなというふうに思っています。

 

 

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1 コメント

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Unknown (まさか、と思った人)
2022-07-08 09:48:02
「一人の身勝手な行動で部隊が全滅する。」

こんな思想が通底している組織の上の方までたどり着いた人が、公式の場でどんな事を言うとどうなるかを考えないで発言するものでしょうか、という疑問が湧いてきました。
それは、彼の立ち振舞、特に、今後の処遇を知ることができれば、ある程度、発言の真意が図れるかもしれないかな、
もしかしたら、自衛隊という組織の狙いも測れるかもしれないと思いました。

自衛隊はいつでも日本を、日本国民を思い守る組織であると理解を得れば、日本国民としてはこんなに頼もしいことはないですし、自衛隊としてもその立場は盤石となり得るのでしょうかねえ。
また、そんな組織の一員になれることは大変な名誉であるなどと考える若者が今よりも現れるかもしれない、なのかな。
そんなことが脳裏を過ると、もしや、注目が集まっている今こその言葉なのかな、日本の為、自衛隊のためと一身投げ出し、奉公最後の置き土産なのかな、とも思えてしまいました。

「ここ(陸自、それとも自衛隊のこと?)は、何があっても、決して仲間を見放さない。」

これは、テッパチ第一話のラストシーンを飾ったセリフなんですが、
海自の伊藤総監には、この後、どのような未来が待ち受けているんでしょうかね。
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