りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“ジェイ・スペンサー” ―全13場―

2012年09月05日 16時21分28秒 | 未発表脚本

   〈 主な登場人物 〉

 

    ジェイ・スペンサー  ・・・  雑誌社の専属カメラマン。

 

    キャロル・タナー  ・・・  雑誌社の新入社員。

    (ジェシー)

 

    ロバート・パウエル  ・・・  ジェイの同僚。

 

    ルチア  ・・・  村娘。

 

    ジョテファ  ・・・  ルチアの兄。

 

    スティーブ  ・・・  ジェシーの弟。

 

 

    その他。

 

 

 

― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪

 

 

        ――――― 第 1 場 ―――――

 

        音楽で幕が上がる。と、ある町の風景。

        ポーズを取る男女、楽し気に歌い踊る。

        その中央には、幸せそうに微笑み踊る

        ジェシーの顔が見える。と、一発の銃声

        が響き渡り、一瞬にして辺りは人々の

        悲鳴が木霊する殺伐とした雰囲気に

        包まれる。

        さっきまで陽気に歌い踊っていた男女

        は、今はただ逃げ惑うだけ。

        ジェシー、その中央で呆然と人々を

        見回し、その表情は恐怖に震えている。

        その時、再び銃声が轟き、辺りは一瞬

        静寂が漂う。

        ジェシー、硬直した表情で去る。

        (それはジェシーの死を意味していた。)

        カーテン閉まる。

    

        下手スポットに、手に花束を持ったジェイ、

        浮かび上がり歌う。

 

        “心に染みる青い空は

        何故か懐かしい・・・

        頬を過ぎる青い風は

        何故か愛おしい・・・

        たった一つの願いの為に

        人は皆 命を賭けるのだろうか・・・

        青い空を残す為に・・・

        青い風が香る為に・・・

        愛しい者を守る為に・・・”

 

        辺りに静かな鐘の音が響き渡り、

        フェード・インする。と、舞台上は

        丘の上のジェシーの墓地になっている。

        ジェイ、その鐘の音に導かれるように

        小高い丘の上に建てられている十字架

        の前に、ゆっくりと進み寄って、暫くそれ

        を見詰めると、思い出したように手に

        持っていた花束を、そっとその前に捧げる。

        その時、背後に人の気配を感じて振り向く。

        と、そこに花束を持ったジェシーの母(グロリア)、

        グロリアの肩を抱くようにジェシーの父(ウィリ

        アムス)、一寸下がって、ジェシーの弟(スティ

        ーブ)、上手より登場。立っている。

 

  ウィリアムス「君も来てくれたのか・・・」

  ジェイ「お久しぶりです・・・」

 

        グロリア、歩み寄って十字架の前に

        花束を置く。

 

  グロリア「あの娘も喜んでますわ・・・ジェイが忘れずに来てくれ

       ること・・・。」

  ジェイ「当たり前です!!今日は・・・(そっと握り拳を握る。)」

  ウィリアムス「ジェシーが亡くなって、丁度3年目だ・・・。早いも

         のだな・・・。」

  グロリア「ええ・・・」

  ウィリアムス「どうだね?仕事はちゃんと続けているのかね?」

  ジェイ「・・・はい・・・」

  ウィリアムス「それはよかった・・・。昨日、ロバート君も来てくれ

         てね・・・。」

  ジェイ「ロバートが・・・」

  ウィリアムス「君達がいつまでもジェシーのことを忘れないでい

         てくれるのは嬉しいよ・・・。しかし・・・こんなことを

         言うのは何だが・・・君は少し縛られ過ぎてるんじゃ

         ないかね・・・」

  グロリア「あなた・・・」

  ウィリアムス「いや・・・何もジェシーのことを忘れてくれと言って

         いる訳ではない・・・。君はもうそろそろ、自分の為

         を考えて歩いて行くべきだと思うんだ・・・。」

  ジェイ「しかし僕は!!」

  ウィリアムス「あれは事故だったんだよ、ジェイ・・・」

  ジェイ「あの時・・・彼女を助けられなかったのは、僕の責任で

      す・・・」

  ウィリアムス「昨日、ロバートから君の様子を聞かされてね。

         このままではいけないと思ったんだ・・・。」

  グロリア「ジェシーも屹度、心配していると思うわ・・・。あの娘

       は本当に心からあなたのことを愛していたから・・・。

       だから、あなたの幸せは誰よりもジェシーが望んで

       いることよ・・・。」

  ジェイ「あの時・・・僕がジェシーに、忘れたネガを取りに行か

      せたりしなければ・・・ジェシーが暴動に巻き込まれる

      ことはなかった・・・。」

  ウィリアムス「ジェイ・・・(ジェイに近寄り、肩に手を掛ける。)

         ジェシーのことを今でも思ってくれているなら、君

         は君自身のことを考えて歩いて行くんだ・・・。」

  グロリア「それがジェシーの願いよ・・・。」

 

        ウィリアムス、グロリアの肩を抱いて、ゆっくり

        上手へ去る。スティーブ、ジェイに近寄りながら。

 

  スティーブ「兄さん・・・」

  ジェイ「スティーブ・・・」

  スティーブ「僕に今でも“兄さん”と呼ばせてくれてありがとう

        ・・・」 

  ジェイ「当たり前じゃないか・・・。学校にはちゃんと行ってるの

      か?」

  スティーブ「うん、勿論だよ・・・。兄さんは・・・」

  ジェイ「ん・・・?」

  スティーブ「兄さん・・・本当にいつまでも姉さんの面影に縛られ

        てちゃいけないよ!!兄さんには兄さんの人生があ

        るんだから!!」

  ジェイ「少し会わないうちに、随分生意気なことを言うようになっ

      たじゃないか。」

  スティーブ「僕だっていつまでも高校生の餓鬼じゃないよ!あれ

        からもう3年も経つんだ・・・。」

  ジェイ「そうだったな。(笑う。)」

  スティーブ「・・・兄さんは、会社では殆ど笑わないそうだね・・・。

        おまけにパートナーも持たない一匹狼だって・・・」

  ジェイ「ロバートだな!あいつ余計なことを・・・」

  スティーブ「ロバートさんも兄さんのこと心配してるんだよ、とっ

        ても・・・。皆同じなんだ。姉さんの面影に縛られたま

        ま、兄さんが駄目になっちゃうんじゃないかって・・・」

  ジェイ「俺はそんなに弱い人間じゃないよ。ただパートナーは、

      ジェシー以外いらない!!仕事でも・・・私生活でも・・・」

  スティーブ「兄さん・・・」

 

        暗転。カーテン閉まる。

 

        ――――― 第 2 場 ―――――

        下手よりロバート、歌いながら登場。

        上手方へ。

 

        “恋なんてするものじゃない

        必ずいつかは消えてなくなる思いなら

        最初から期待を持たせて

        思わせぶりな態度を取るなら

        一人がいい!一人でいい!

        相手なんてもういらない

        恋をしたと勘違いする歳でもないだろう・・・

        心から愛せる人と思った訳でもない筈だ・・・

        一人がいい!一人でいい!

        恋なんて煩わしいだけ”

 

        カーテン開く。と、公園。

        暖かい陽光の中、走り回る子ども達、

        幸せそうに語らう恋人達が、其々

        思い思いに時を過ごしている。

        中央に、アイスクリームパーラーが

        あり、売り子らしい娘が後ろ向きで

        客の相手をしている。

        ロバート、ゆっくりそれらに目を遣りながら

        歩いていると、上手よりロバートを呼ぶ声

        と共に、サラ登場。

 

  サラ「ロバート!!(手を振りながら、ロバートに走り寄る。)」

  ロバート「またおまえかよ・・・(少しうんざりしたように。)」

  サラ「まぁ、それはないでしょ!!彼女に向かって!!」

  ロバート「誰が彼女なんだよ!!サラ・・・俺達お互いに納得し

       て別れたばかりじゃないか・・・。」

  サラ「あら、そうだったかしら?そう言われればそんな話しを

     聞いたような・・・でもあれはお互いに納得した訳じゃない

     わ!!あなたが一方的に言い出したんですもの。私は

     了解した訳じゃないわ!!(ロバートの腕に纏わり付く。)」

  ロバート「頼むよ、サラ・・・。俺達、このまま付き合ってても、

       何のメリットもないんだ。それどころか・・・」

  サラ「(ロバートの言葉を遮るように。)いいの!!私は恋愛に

     メリットなんて求めなから!!・・・それとも・・・誰か好きな

     人・・・できた・・・?」

  ロバート「いいや!!もう俺は当分誰とも付き合う気はないよ

       。」

  サラ「ふうん・・・じゃあフリーな訳だ・・・。私がもう一度アタック

     してもいいってことよね!」

  ロバート「それは・・・」

  サラ「確かにね・・・最近の私は嫌な女だったわ。あなたに結婚

     を迫ったりして・・・」

  ロバート「いや・・・」

  サラ「でも私、あなたのこと諦めないから!」

  ロバート「けど、俺は君の気持ちに応えられない・・・」

  サラ「分かってるわよ!(近くを通る子どもが、手にしているア

     イスクリームを見て、回りを見る。)ねぇ、ロバート!私も

     アイスクリーム食べたいなぁ・・・!」

  ロバート「サラ!!(怒ったように。)」

  サラ「買ってくれたら今日はこのまま大人しく帰るわ!」

  ロバート「(溜め息を吐いて。)OK・・・約束だぞ!(アイスクリ

       ームパーラーの方へ歩いて行く。)」

  サラ「チョコミントね!!(近くのベンチへ腰を下ろし、鞄から

     コンパクトを取り出し、髪を直している。)」

  ロバート「(独り言のように。)仕方ないなぁ・・・何で俺が・・・。

       あの・・・チョコミント一つ・・・(ポケットから小銭を出し

       て、掌で数える。)」

  売り子「はい!(一時置いて。)お待たせしました!」

 

        売り子はジェシーに瓜二つの娘、キャロル・タナー。

        振り向いてロバートにアイスクリームを差し出して

        微笑む。

        ロバート、お金を渡そうと手を出したまま、

        ただ驚いて硬直したままキャロルを見詰める。

 

  キャロル「(不思議そうにロバートを見詰めて。)あの・・・」

  ロバート「・・・ジェシー・・・」

  キャロル「え・・・?」

  

  ロバート心の声「(首を振って、キャロルから顔を背ける。)嘘だ

           ・・・嘘だ・・・ジェシーが生きてる筈ないじゃない

           か・・・でも・・・じゃあ一体・・・」

 

  キャロル「(ロバートの後ろから覗き込むように。)あの・・・融け

       ちゃいますよ?」

  ロバート「(ハッとして振り返り、キャロルを見詰める。)・・・あ・・・

       そうだね・・・」

  サラ「(立ち上がってロバートに催促する。)ロバート!!早く!

     !」

  ロバート「(サラを見て慌てて。)ああ!!今、行く!!(再びキャ

       ロルを見詰めながら、お金を渡してアイスクリームを

       受け取る。)・・・ありがとう・・・」

 

        ロバート、早足でサラの所へ戻り、アイスクリーム

        を手渡す。

 

  サラ「あの売り子がどうかしたの?(不思議そうに、ロバートの

     肩越しにパーラーの方を見ようとする。)」

  ロバート「(思わず、その方を隠すように体を動かして。)別に

       何もないさ!!さぁ、約束だ!!今日は大人しく帰った

       帰った!!(サラの背中を軽く押す。)」

  サラ「(怪訝そうにロバートを見詰めるが、何か思い付いたよう

     に意地悪そうな顔付をして。)嘘!!(ロバートを押し退け

     て、キャロルの方を見る。)・・・ジェシー・・・(呆然とキャロ

     ルに近寄りながら。)」

  ロバート「(溜め息を吐いて。)サラ・・・ジェシーにそっくりだろ?

       俺も驚いて・・・」

  サラ「(ロバートの言葉は耳に入っていないように。)ジェシーよ

     ・・・ジェシー!!(キャロルに駆け寄る。)あなた生きてた

     の!?」

  ロバート「サラ!!(慌ててサラに駆け寄り遮る。)」

  サラ「ロバート!!ジェシーよ!!(興奮して。)」

  キャロル「あの・・・(呆然と2人を見詰める。)」

  ロバート「(キャロルに。)ごめん!!君があんまり僕らの知り

       合いの女性に似てるもんだから・・・。気にしないで!!

       (サラを無理矢理に引っ張って行く。)サラ!!彼女は

       ジェシーじゃない!!」

  サラ「だって・・・」

 

        キャロル、暫く呆っとロバート達の方を見ているが、

        同じ売り子で妹のヘレンが側へ来ると、アイス

        クリームの販売を続ける。

 

  ヘレン「姉さん、どうしたの?」

  キャロル「(ヘレンに気づいて。)ヘレン・・・ううん、何でもないわ

       !」

  ヘレン「そう?」

 

        ロバート、サラ、カーテン前へ。(カーテン閉まる。)

 

  サラ「もう驚きね!!全くジェシーとそっくりじゃない!!あんな

     に似てるなんて・・・(思いたったように。)そうだ!!ジェイ

     に知らせなきゃ!!ね!!ロバート!!」

  ロバート「サラ!!ジェイにはまだ言うんじゃない!!俺に考え

       があるんだ・・・。ジェイを立ち直らせることが出来るか

       も知れない・・・。」

  サラ「ロバート・・・(ロバートを見詰める。)」

 

        音楽でフェード・アウト。

 

 

 

 

 

 

   ――――― “ジェイ・スペンサー” 2へつづく ―――――

 

 

 

 

 

 

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