傘で顔は見えなかったが、香織の姿を映し出した時、
何故だろうか、心地よく包まれているような気がした。
「できた、描けた、よっしゃー」
最終授業をボイコットして、アルバイトの店へと向かった。
店長に頼み込んで、店裏の工具などを借りた。
使った事ない機具でも、使ってる姿を見てたから、大体わかる。
これだけは、哲也一人で作りたかった。
香織は一つのチャンスをくれたんだと思った。
ワクワクしながら、失敗しながら、指にけがをしながら、
「失敗は成功の元だ」
と小言をいいながら、一人、アクセサリー作りに没頭した。
今日は金曜日、明日は土曜日、香織が来る日だ。
きっと必ず来ると思いながら、夜を明かした。
何度失敗した事か、店長に叱られるかと思ったが、
店長は特に何も言わず、だいぶ費やしたなって言われただけだった。
「眠い、眠い、眠い」
朝、午前:9時、店員さん達によって店が開かれた。
哲也がデザインしたものは、金銀メッキのユリの花をかたどった、
制作日とイニシャルを刻んだ2連リング(from-T)であった。
哲也は小さい時から、
ユリの花を観て香りを嗅いでいたせいか、とても好きな花だった。
ぼんやりしていると、
陽の灯を背にした、香織がこっちへ向かってくる気がしてきた。
店の入り口に目を向けると、香織の姿があった。
香織は、他の店員さんにも挨拶を交わしながら、
哲也のいる方を向いて真っすぐに歩いて来る。
香織は、哲也の正面に立ち、
「哲也、できたんでしょ、それとも飲みすぎたの?」
「え? なんで?」
「顔色悪いし、眠そうだし、瞼重そうだし」
「ん・・・」
哲也は、こんな綺麗な人と出逢えていたんだと、
香織の微笑みは天使のように、輝きさえ覚えた。
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