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朝から暑い一日だった。
早めに帰り仕度をして、母とさよならした後、品川駅へ向かった。
ママ友の一人が4月から家族の転勤で東京に来ている。
最後の日に時間を作ってもらっていた。
品川駅は広すぎて分からなくなってしまうかもしれない、
二人の危惧から、分かりやすい場所を選んだ。
新幹線改札口の前にあるカフェで喉を潤す。
コーヒーを飲みながら、有効に仕事が出来るようにと
選んだ本を読んでいると、ほどなく彼女が現れた。
彼女とは何年振りだろうか。
子供同士が親友だったから、一緒に良く出かけたりした。
引っ越ししてしまってからはあまり逢えなかった。
それでも何年かに1度、実家に帰って来る時に逢えたし、
メールなどもしているから、あまり逢っていなかった気がしない。
他の友達の事や、勿論娘の事、彼氏が出来た事なども話して聞かせる。
彼女は眼を細めて聞き入っていた。
そして、彼女の娘さんの事を少し聞く。
下の娘さんは最近彼氏と別れたらしい。
「でももう大丈夫みたい」と彼女は言う。
「若いから切り替え早いのね」
そして、上の娘さんは
「亡くなってもう10年になったのよ」と言った。
そんなに経ったんだと、月日の経過を追って行く。
彼女の娘「げんちゃん」は19歳の時に交通事故で亡くなった。
春から引越しした「げんちゃん」がお盆休みに帰省していた時の出来事だった。
友達の車の助手席に乗っていて、シートベルトもしていたろうに、
見つかった時は弾き飛ばされて、道路に倒れていた。
即死だった。
「げんちゃん」の祖母は看護師で、
お通夜で集まった人たちに、
「即死だったので、全く痛みを感じることがなく亡くなったので、
それがせめてもの慰めです」そう言って
涙の私たちを慰めようとした。
でも私たちは、母親の彼女を抱きしめて、ただただ泣いた。
泣くしかなかった。
運転していた高校の同級生も、同乗していた子も二人とも重症で
どうしてこんな事故が起きたのか、覚えていなかった。
みんな、可愛かった「げんちゃん」を思って泣いた。
そして、突然いなくなった我が子にすがる彼女を思って泣いた。
お葬式の後、彼女と逢う事は極端に減ってしまった。
どのようにして超えてきたのかは分からない。
時々、メールしたし、逢いにも行った。
月日が流れ、
「げんちゃん」のことを何気なく話せる日が
ようやっと来たような気がする。
「結婚式には招待するからね」とまだ決まってもいない先の事を言う。
「嬉しい、絶対行くから しだちゃんに言っといてね」
本当に久しぶりで楽しかった。
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親友だった私の娘「しだ」は、彼女の娘「げんちゃん」のことを
「1日も忘れる事はない」と言っていた。
今もそうに違いない。
そして、彼女も忘れる事のない日々を過ごしている。
親友だった私の娘に自分の娘の歳を重ねているのだろうか。
その私の娘は26日に29歳になった。
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