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「私の本棚2021.8.24」

2021-08-24 09:17:42 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

 『ビジネススクールで身に付ける「会計×戦略思考」』

                           (大津 広一著 日本経済新聞出版)

  • 『「会計」がわからなければ真の経営者になれない』とは(はじめに)

 著者は「会計がわからなければ真の経営者になれない」(稲盛和夫の実学―経営と会計)を引用し、紹介本著作の目的を「会計の数値と企業活動の往復をスムーズに行うための手法を解き明かすこと」と明確に示している。

 紹介本では、「会計の数値と企業活動の往復」のアプローチを、‟ビジネススクールで”と表題にあるように、インタラクティブに分かり易く解き明かしています。その一環としてIFARS決算書の分析の着眼点を事例と併せ示しており、興味深い内容です。IFARSの記述の背景には、企業数では上場企業全体の6%の226社にも拘らず、時価総額ベースでは4割を占める企業がIFARSを適用しており、更にはIFARSへの移行が積極的である事象があります。

 紹介本は、読者が普遍的な経営分析の基礎となる会計知識を身に付いていることを前提に、上記著作目的(「会計数値と企業活動の往復」)に至る道筋として次の3つの会計思考プロセスの大切さを強調します。1つ目は、数値を見て「なぜそうした数値なのか?」という「会計のWhy?」の追求。2つ目は、「So What?(そこから何が言えるのか?)」つまり、数値から見えた事象から経営の意味合いを導き出すこと。3つ目は、「How?」の問いかけで、最後は具体的なアクションプランの構築と問題解決に至ること。

 一方、他の会計本では見られない紹介本の特徴は、会計数値を読み解く「会計力」と「経営戦略・業界特性・事業環境等の企業活動を理解し考察する力」を「論理的思考」により結びつける「戦略思考」についての考察を示している点です。更には「論理的思考」にビジネス&マーケティング・フレームワークを使い「会計」と「経営」の関係性を示し「会計⇔経営・戦略思考」のあるべき形を提示している点です。

 それでは、「会計」と「経営」を結ぶ「戦略思考」について次項で見てみましょう。

  • 「会計」と「経営」を結ぶ“戦略思考”

【ポーターの「ファイブフォース」から「経営の外部環境」と「会計」を考える】

 紹介本は2012年10月に新日本製鉄と住友金属が新日鉄住金として合併した事例を材料として考察します。「ファイブフォース(五つの力)」それぞれに於ける競争環境・脅威が会計数値上にどの様に現れているかを検証し、両社が合併に至った筋道を辿り、背景にある経営戦略を読み解きます。

 私達はこの事例から何を学ぶべきでしょう。まず、自社の経営環境を「5つの力」の視点から検証し、経営の実態と会計数値の相互関係性を確認します(「会計のWhy?」+「So What?」)。その上で「5つの力」の中の脅威が高いと考える「力」をどう克服し、次なる成長に結びつけるかのアクションプランの構築と問題解決に向けた会計数値による計画を立てます(「How?」)。このアクションプランと会計数値計画(両者合わせた事業計画)をPDCAサイクルで回し課題達成に向けて行動します。

 この様に論理思考性の高い「5つの力」フレームワークに基づく経営・会計戦略に基づく企業活動を継続することで持続的成長を生み出すことが可能になります。

【ポーターの「バリューチェーン」から「経営内部環境」と「会計」を考える】

 経営の価値を創造する活動プロセスの連鎖をバリューチェーンと呼びます。紹介本では、ポーターが提唱する支援活動プロセスと主活動プロセスを、会計上のPLに影響があり経営戦略上も重要な、研究開発、製造、プロモーション・販売、販売チャネルの4プロセスに集約します。

 その上で、4つのプロセスそれぞれに於ける、戦略に応じた会計上の原価や販売管理費への影響を考察します。

 更に、4プロセスのそれぞれに関するSW分析(強み・弱みの分析)やVRIO分析(経済的価値<Value>、希少性<Rarity>、模倣可能性<Inimitability>、組織<Organization>の分析)による競争優位の源泉の探索を前提とし、その上で策定した戦略を会計数値による計画に反映し、結果を会計上のPLで検証し、戦略の見直しと再挑戦を行い、戦略のゴールを目指すサイクル思考を提唱します。

【コトラーの「マーケッティング」戦略のゴールは「会計上の『利益』」】

 紹介本は、コトラーなどが提唱するマーケティング・プロセス「R-STP-MM-I-C」をフレームワークとして使い、事業をSTP戦略・MM(マーケティング・ミックス)戦略から考察し会計上への反映を確認します。その上で,新たな事業計画を立案したうえで、実施(Implementation)、チェック・管理(Control)、見直し・リサーチ(Research)、次なる戦略の策定(R-STP-MM)へと進み、並行して戦略の進展状況をPLで検証し、戦略のゴールである「会計上の『利益』」の増強に向けたサイクルを回す戦略思考を提案します。

  • 何のための会計か(むすび)

 「会計データ」「経営・戦略状況」それぞれを単独で読み解く力も大切ですが、「会計データ」と「経営・戦略状況」を双方向に往復しながら深読みすることも大切です。

 双方向に往復しながら深読みすることで、「会計データ」から読み取る情報がより実践的、戦略的になります。また「経営・戦略状況」をより緻密に把握することが出来、ベンチマーキング等が可能になります。

 紹介本が提案する「会計の数値と企業活動の往復をスムーズに行うための手法」を参考に「会計×戦略思考」を取り入れませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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