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『「経営12カ条」-経営者として貫くべきこと-』(稲盛和夫著 日本経済新聞出版)
- 「経営12カ条」の基本は「人間として何が正しいのか」(はじめに)
著者は2022年8月24日、90歳の人生を全うされました。紹介本の著者直筆の‟まえがき” には2022年8月とあり、本書は著者の遺言ともいえます。
この12カ条は、自社京セラに止まらず、JALの再生においても十分その力を発揮しました。また、「盛和塾」を通じて多くの企業経営者に有意義なインパクトをもたらし、更には、日本の企業経営の経営力強化のための貴重な提言として、末永く記憶に留められるでしょう。
著者は、『「人間として何が正しいのか」を基本とする「経営12カ条」は、業種や企業規模、国境や文化・言語の違いを超えて通じる』と強調しています。
この著者の言葉から、ピーター・ドラッカーの次の言葉を想起します。『「マネジメント」は物事を正しく(効率的に)行うことであり、「リーダーシップ」は正しい事をすることである』。つまり経営者としての命運は、“「正義・大義」を「魂」のレベルに於いても持てているか(稲盛流の基本)”に掛っているのではと思います。
次項では12カ条をご紹介しながら、他の著名経営理論との親和性を確認し、稲盛流の理解を深めると共に、対比する経営理論の理解を、併せ、深めてみたいと思います。
- 「経営12カ条」を読み解くと共に他の著名経営理論との親和性を確認する
【第1条:事業目的、意義を明確にする。第2条:具体的目標を創る。】
京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追及すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。2010年2月1日JAL再建の会長就任後、経営幹部が作り上げた経営理念は「全社員の物心両面の幸福を追求すること」に、「お客さまに最高のサービスを提供します」「企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します」を加えたものでした。
いずれの経営理念も「全社員の幸福」の次に、「世のため、人のため」という考えを持って来ています。あえて二つに分けて、「全社員の幸福」の優先を明らかにしているのです。これが稲盛流です。つまり、従業員の心からの共感を勝ち取れる「公明正大な事業の目的・意義は何か」との問いからスタートしているのです。自身の創業時の経験則から来るものであり、外から見たカッコよさは微塵もないのです。
その考えは「第2条:具体的目標を創る-立てた目標は常に社員と共有する-」にも現れています。それは、「社員の力を結集できる夢溢れる具体的目標」「末端の従業員まで計画を立てる時から参画している目標」「高い山に登れる準備(フィロソフィー〈経営哲学〉)と考え方を共有できる集団が持つ目標」などです。これも貴重な提言です。
ここから想起されるのが、ジム・コリンズの考えです。ジム・コリンズはビジョンの構成を、ポピュラーな“ミッション・ビジョン・バリュー”に変え“ビジョン”1本にし、“ビジョン”を“コアバリュー”(時代を超える会社の指針となる原則、会社を導く哲学)、“パーパス”(100年間に亘って会社の指針となる、組織が存在する根本的な理由)、“BHAG〈注1〉”の3つにしました。
“コアバリュー”には「全社員の幸福」、“パーパス”には「世のため、人のため」、“BHAG”には「社員の力を結集できる夢溢れる具体的目標」がぴったりとはまります。稲盛流がコリンズ流と親和性が高いことが分かると共に、コリンズ流をより身近に理解できます。
〈注1〉‟BHAG” とは(詳細は下記URLをご覧ください。)
Big Hairy Audacious Goalsの略。Hairyは、身の毛もよだつ、の意。Audaciousは、大胆な、の意。日本語では‟社運を賭けた大胆な目標” とされる。
http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20220322visionallycompany2.pdf
【第3条:強烈な願望を心に抱く-潜在意識に透徹するほどの強く持続する願望-】
物事を成就するには「何としても達成したい」という願望をどれくらい強く持てるかがカギです。加えて、顕在意識を越えて、潜在意識に透徹するほどの強く持続する願望を持つことです。潜在意識の効果は常に顕在意識に反映することです。
潜在意識はどのように醸成されるのでしょう。一つは衝撃的な印象を経験すること、二つ目は繰り返し積み重ねることです。
ここで想起されるのが、再登場ですが、ジム・コリンズの考えです。
『雨の日も風の日も、何十年も、1日20マイル(32キロ)を歩き続けることによって無秩序の中に秩序が、不確実の中に一貫性が生まれる。‟継続的” 一貫性により“ANDの才能(二項対立ORではなく、二面性ANDと捉える思考)”が生まれる。短期的パフォーマンスと(AND)長期的成功を同時に実現する規律である』とする“20マイルの行進〈注2〉”の考えに「繰り返し積み重ねることにより醸成される潜在意識」がぴったりはまります。
〈注2‟は(下記URL「スライド8、6」をご覧ください。)
http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20220322visionallycompany1.pdf
【稲盛流と他の著名経営理論との親和性を味わい、経営力の一層の強化を!】
上述において、「経営12カ条」とピーター・ドラッカー及びジム・コリンズ理論との親和性を示させて頂きました。「経営12カ条」そのものも十分価値がありますが、他の著名経営理論との親和性を見つけることで、稲盛流の理解を深めると共に、対比した著名経営理論をより深く理解できます。
皆さんの頭の中の著名経営理論と稲盛流を対比し、親和性を確認すると共に、両者の考え方の理解を深め経営力を強化しましょう。
- 経営12カ条を知識に止めずに、「見識」に、更には「胆識」に(むすび)
「経営12カ条」を知識レベルに留める限り経営にとって全く意味がありません。本当に経営力を高めようと思うならば、知識を信念にまで高めた「見識」を持ち、更に、「見識」に胆力つまり勇気が加わった「胆識」が備わって、初めて、いかなる障害をも越えて、目指す方向に経営の舵を取ることが出来ます。(「第9条『勇気をもって事に当たる』」より)
「経営12カ条」を知識に止めずに「見識」に、さらには「胆識」に高めて、初めて経営者としての力を発揮できるとの著者の提言は貴重ですね。簡単ではありませんが肝に銘じておきたいですね。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
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