日本の法律はおよそ1900あるといわれています。国会の両院で審議され幾多の法案が法として成立し公布されていきますが、六法全書にかかれているような状態であるのは、制定されてから1度も改正されてない場合です。全面改正(旧法を廃し、新法を制定する)をするのでなければ、改正法は下記の表のような条文構成をとっています。溶け込み方式とも呼ばれ、見る人が見てもどこが改正されるのか、まったくわかりません。これをはじめて官報で見たときは、コンピュータープログラムのアップデート、現プログラムのどの位置のどの部分をどう書き換える(マージとかいいます)命令のかたまり、プログラミング言語そのものだと思いました。既存の法律を、別の法律で書き換えを命じる、そういう力関係にあるのでしょう。
労働基準法は昭和22年に制定公布され、その後幾多の「労働基準法の一部を改正する法律」という名の法律、または他の改正法の附則などに書かれているのを含めると、50はくだらないのでしょう。イメージで言うと昭和22年制定「労働基準法」+「労働基準法の一部改正する法律」+「労働基準法の一部を改正する法律」+「…」という約50個の法律を束ねた形が現行の労働基準法本来の姿です。六法全書で見かける現在形の「労働基準法」という法律文の状態ではありません。全書を編纂する出版社が、「一部改正法」が出るたびに、現在形の法律文を書き換えて次年の全書に掲載出版しているのが実情です。中には公布したが施行していない改正法を改正する「…法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」といったものも(あるいは他の改正法の1条項として組み込み)でてくる始末です。
甲乙法の一部を改正する法律 第1条 甲乙法(昭和 年法律第〇号)の一部を次のように改正する。 第〇条中「ABC」を「ADC」に改める。 第□条第1項中「BCD」を削る。
第n条を第n+1条とし、第n-1条の次に次の1条を加える。 第n条 ASD…。
第△条第m項を削り、第m+1項を第m項とする。
第◇条第1項中、「
」を「
」に改め、「
」を削る。(※)
第2条 …
附則 第1条 この法律は公布の日から施行する。ただし第2条の規定は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 |
※:ボックスは、条文中表形式を用いる場合の例示です。また、行頭の高さ(官報は縦書き)位置も変更関係をあらわす重要な要素ですが、下記対照表を含めここでは踏襲していません。
甲乙法(昭和 年法律第〇号)一部改正の新旧対照表の例
(参考:アンダーラインの引き方等、独自のルールがあるようです。)
改正後 | 改正前 |
第〇条 ADCEFG。 第□条 HIJ、KLM。 第n条 ASD…。 第n+1条 NOPQ。 第△条 RSTU。 (削る) m ZZZ。 第◇条 (以下略) |
第〇条 ABCEFG。 第□条 HIJ、BCDKLM。 (新設) 第n条 NOPQ。 第△条 RSTU。 m VWXY。 m+1 ZZZ。 第◇条 (以下略) |
最後に、昭和22年制定の労働基準法には、条番号はありますが、項番号はありません。行頭をさげて、あたらしい項をあらわしている形になります。六法全書の凡例と照らし合わせてみてください。
(2022年5月3日投稿、2023年11月18日編集)