Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

カフカの短編小説「父の気がかり」のオドラデクと新型コロナウィルス

突然ですが、、、

みなさんは、カフカの小説を読んだことがありますか?

『変身』はとっても有名な彼の小説ですね。

僕はカフカが大好きで、色々と彼の作品を(ほぼ)読んできました。

2004年頃、カフカの作品の中でもかなり独特な『父の気がかり』という短編小説と出会いました。

カフカの短編小説の中でも、最も短いもので、なんとなく気になったのを覚えています。

それを、自分で頑張って翻訳したんですよね…。当時の僕の訳なので、あれですけど、、、

改めて、目を通しました。


父の気がかり

ある人々は、「オドラデク」という言葉はスラブ語に由来している、という。彼らは、この事実に基づいて、この語の造りを検証しようとしている。だが、別の人々は、このオドラデクという語は、ドイツ語に由来していて、ただスラブ語に影響を受けているだけだ、と考えている。しかし、どちらの解釈もはっきりしておらず、当然ながら、どちらも正しく言い当てていないという印象さえうかがわせる。それというのも、とりわけ人は、この言葉の意味をこの二つの解釈から見出すことができないからである。

もし実際にオドラデクという名のコイツが存在しないなら、当然、誰もこんな研究に取り組んだりはしないだろう。コイツは、さしあたって、平べったくて、星のような形をしている糸巻きのように見えるのだが、実際のところ、糸でぐるぐる巻きにされているようにも見える。それどころか、単に古くてボロボロの糸くずが結び合ったもののようでもあるし、様々な種類や色の糸が相互に絡み合った糸くずのようでもある。ところが、ただの糸くずなのではなく、その星の中心から、小さな横向きの棒が突き出ているのだ。そして、この小さな棒には、もう一つの小さな棒が直角に組み合わされている。一方で、この二つ目の棒の助けを借り、他方で、放射状に広がった星の角の一つを使って、まるで二つの足のようにして、全体としてよくまとまっているオドラデクは、まっすぐに立つことができるのだ。

人々は、このヘンテコリンなものがかつては使える形をしていて、今は単に壊れてしまっているのだ、と信じたい気持ちになるかもしれない。しかし、それは事実ではないようである。少なくとも、それを示す手がかりがないのである。つまり、何か使えるようなものであることを示す糸口やその破損部分が見られないのである。全体としては、確かに無意味に見える。だが、それなりの仕方でまとまっている。ついでに、オドラデクの細かい所については、詳しく述べることができない。というのも、このオドラデクは、異常なほどよく動き、捕まえることができないからである。

コイツは、かわるがわる、屋根裏にいたり、階段にいたり、廊下にいたり、玄関にいたりする。ときどき、何ヶ月にもわたって、ヤツがみられないこともある。ヤツは完全に誰かの家に移住してしまっているからだ。だがヤツは必ず再びわれわれの家に戻ってくる。時折、人が扉を開き、ヤツが兆度階段の手すりにもたれかかっているとき、人はこいつに話しかけようとする気になる。もちろん、彼に難しい質問を出してはダメで、彼を子供のように扱うのである‐とても小さいのですぐにそのような気になるものであるが‐。「君の名前は何ていうの?」と、人はヤツに問う。ヤツは「オドラデク」と答える。「で、どこに住んでいるの?」と、人はヤツに問う。「とくに決まった家はないよ」と言って笑う。しかしその笑い声は、胃のない人間が出すような笑い声にすぎない。この笑い声は、落ち葉がカサカサと音を立てているように聞こえる。この笑い声と共に、たいていこの会話は終わる。ただし、こうした応答さえ、常にあるわけではない。しばしばヤツは、木のように長い間黙ってしまうのだ。ヤツは木のようにも見える。

無駄だと分かっているが、私は、ヤツに何が起こるのだろうと考えこんでしまう。そもそもコイツは死ぬのだろうか? 死ぬ者すべては、死ぬ前に、或る種の目標を持ってしまっているし、或る種の活動もしてしまっている。そして、そういう目標や活動に、身をすりへらしている。オドラデクの場合はそうではないのである。いつの日か、コイツは、私の子どもや私の子どもの子どもの足元で、糸くずを引きずりながら、階段を転げ落ちて、喚くのだろうか? オドラデクは絶対に誰かを害したりはしない。だが、ヤツが私よりもずっと長く生きるに違いないと思うと、私はいっそう辛く胸苦しいのである。

2004年、kei訳


これだけの「小説」です。

でも、どこか、印象的というか、なんというか。

オドラデクがいったい何なのか? 誰だったのか?

ずっと考えてきましたが、何度読んでもよく分からない(苦笑)

子どものような存在で、住む家はない。

「孤児」のような気もするけど、違う気もする…。

2020年。

世界は、新型コロナウィルス「COVID-19」の猛威にさらされています。

恐らく今日か明日には、「緊急事態宣言」の延長も告げられると思います。

先の見えない不安に、多くの人が晒され、そして、経済的な打撃も多くの人が受けています。

この新型コロナ騒動で最も怖いのは、そのウィルスの感染とそれによって引き起こされる症状ではありますが、それと同じくらい怖いのが、「群衆パニック」だと思います。群衆=人間集団のパニックとそれによる暴動など…。

群衆だけでなく、個人的なパニックも怖いです。ウィルスそれ自体の恐怖もありますが、それよりも経済的な困窮や自粛要請による経営的な打撃によってパニックになり、自殺や他殺、強盗や強奪などに向かってしまうこと、それもこの5月以降、最も恐れなければいけないことだと思います。

まずは、冷静になること。落ち着くこと。

それを促してくれるのが、文学だったり芸術だったりするかもしれません。

上の「父の気がかり」を読み直して、「これ、もしかしてウィルスのことかも?」とふと思ったのです。この小説の主人公は、ウィルスが見えていて、そのウィルスと対話をしていたのかも?、と。

そう、単純な話じゃないとは思いますが…(苦笑)。でも、ウィルスと思って読むと、「恐怖の対象」だったウィルスが、どこか「やんちゃな存在(生命と非生命の中間的存在)」に見えてきませんか?

生命誕生以前から存在したと思われる(非生物でありかつ生物的である)ウィルス。そのウィルスは、僕ら人類よりもきっと長く存在し続けるのでしょう。たとえ僕ら人間が全て消滅したところで、ウィルスはケタケタと笑いながら、この世界を(他の生物に付きまといながら)飛び跳ねていくのでしょう。

間違いなく、僕ら人類よりもタフに生き延びるヤツです。

オドラデクはまさにそういう存在として、描かれていました。「オドラデクは、異常なほどよく動き、捕まえることができない」、とされています。まさに、僕らは、新型コロナウィルスを捕まえることができません。もちろん学者がウィルスを分析して、DNA/RNA解析をして、その構造を示すことはできるでしょう。けれど、誰一人として、そのウィルスを捕まえて、踏み潰して、消すことなどできないのです。

マスクをすることで「感染」は防げるのかもしれませんが、それでもヤツは僕らの身近なところに、至るところに居るんです。どこからどう飛んでくるか分からないし、どこでどう僕らの体に付着するかもわからない。起きてから寝るまでの間、一度もマスクを外さず、一度も何にも触らず、一度も外部と接触しなければヤツと遭遇することはないかもしれませんが、そんなことをしていたら、ウィルス感染する前に死んでしまいます。

とすれば、僕ら自身が「ウィルス」の見方を変えるしかない。ウィルスをオドラデクだと思えばよい。オドラデクだと思えば、ウィルスが少しだけ自分たちの身近なものになる。

身近にはなるけれど、オドラデク=ウィルスを捕まえることはできない。

なんにせよ、ウィルスは、僕ら生物が誕生する以前から存在している驚異の存在だ。そして、ウィルスは、オドラデク同様、僕ら人類が絶滅してもなお、元気にこの世界を飛び跳ねるんだ。勝てるわけがないし、克服できるわけもない。

むしろ、人間こそがこの世の支配者だと思う僕ら自身の「傲慢さ」こそ、反省したほうがいいのではとさえ思えてきます。所詮、僕らは、ウィルスの「棲み家」でしかなかったんです。ウィルスの自己増殖の場でしかなかったんです。僕らは、ウィルスのために存在しているだけなんです。…というと、言い過ぎかもしれませんが…。

カフカがウィルスのことを示すためにこの小説を書いた、という話は出ていません。僕の勝手な妄想?です。

でも、これを読み直すと、まさにオドラデクってウィルスじゃないか!って思えたのです。

これから、僕は、新型コロナウィルスのことをオドラデクと呼びたいと思います。

もう手の上に転がっているかもしれないし、ドアノブにひっついているかもしれないし、テーブルの上に寝っ転がっているかもしれないし、髪の毛の中に隠れているかもしれない。

でも、どこにいるかなんて分からないし、分かったところで捕まえることもできないんです。

まさにオドラデクのようにね。

Fin.

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