Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

【物語】「悲しみ石」(Kummerstein)

現在、翻訳している本の中で紹介されているお話をご紹介♪ すごくいいお話なので、是非読んでいただけたら、と思います。

(なお、翻訳なので読みづらい箇所も多々あるかと思います。不明な点、奇妙なところなどありましたら、ご指摘いただけると幸いです!)

悲しみ石

 マテスがおじいちゃんとおばあちゃんの家に行くと、二人は、マッテスが悲しんでいることにすぐに気づいた。子どもというのは、じっと見ていれば分かるものだ。そういう子どもはうつむいていて、肩を落としている。こちらが何を質問しても、ただ「う~ん」、「あ~あ」というだけで、肩をブルブル震わせているのだ。マテスはまさにそういう子どもだった。 
 おじいちゃんもおばあちゃんもマテスがどうして悲しいのかを知っていたが、すぐにそのことに触れることはしなかった。その代わりに、おじいちゃんは、孫を釣りに連れて行った。おじいちゃんとマテスは小川のほとりに静かに腰を下した。おじいちゃんは次のような話をし始めた。  

 「わしが今のお前のように若かった頃の話じゃ。わしはカナダに住んでおった。カナダは分かるか? その頃にな、カナダには、あるヒグマの家族が住んでおったそうだ。父さんヒグマ、母さんヒグマ、それに、二匹の子どものヒグマがおったようじゃ。わしはその家族を実際に見ているわけではないんだが、よくその家族の話を聴いたもんだった。 
 そのヒグマの家族はな、夏になるといつもはるか北へ向かうんじゃ。食い物を求めてな。母さんヒグマはもともと南で暮らす方が好きだったのだが。けれど、父さんヒグマは、野生の生活ができて、自然の大地の残っている北に行こうとするんじゃな。父さんヒグマの夢は、極地クマになること、それから、アザラシをしとめることじゃった。母さんヒグマは、どこまででも父さんヒグマについて行った。だが、それは、二匹の子どもヒグマにはとてもたいへんなことだったんじゃ。 
 お前は、ヒグマとホッキョクグマが近い親戚同士だったということを知っておるか? ただし、カナダでは、ホッキョクグマとは言わず、極地グマと言うんじゃがな。父さんヒグマの毛は、とても明るくてフサフサしておった。寒さなんて、父さんヒグマにとては、なんてことないことじゃった。だが、彼らが雪の境界線にたどり着くと、母さんヒグマはこういったそうじゃ。「ここまでよ。これ以上先には行けない」、とな。 
 父さんヒグマは、もう自分たちは極地に着いたのだ、と考えた。そして、父さんヒグマはどんどん極地グマのようになっていき、海がこおるのをイライラしながら待っておったんじゃ。海がこおれば、父さんヒグマは、アザラシ狩りをしにグリーンランドまで行けるからじゃ。しかし、海がなかなかこおらないもんで、父さんヒグマはだんだん不機嫌になっていき、他のクマたちとケンカを始めてな、自分の子どもグマをひっぱたいたのじゃ。母さんヒグマはその間に入って、必死になって止めた。ようやく海の水がこおりついて、極地ヒグマはみんな、アザラシ狩りへと向かった。母さんヒグマと二匹の子どもヒグマだけは狩りに行かずに残った。 
 カナダの森はすてきだった。新鮮なブルーベリーがたくさんあった。母さんヒグマは息子の世話をよくやってくれた。妹はお兄ちゃんとよく遊んでくれた。なのに、お兄ちゃんヒグマはますます落ち込んでいったんじゃ。ときおり、お兄ちゃんヒグマは、後ろ足を曲げて、悲しそうに頭を左右に振った。左に右に。しまいには、母さんヒグマもまいってしまった。ずっと落ち込んでいるわが子を見つづけることは、そりゃあ簡単なことじゃない。ましてや、誰もその状況を変えられないとなると、それはそれはたまったもんじゃない。そういうわけで、母さんヒグマは、お兄ちゃんヒグマを中が空洞の石のところに連れて行ったのじゃ。そして、こう言ったそうじゃ。「さあ、ちょっとその石の上に腰かけてごらんなさい。そして、たくさん悲しみなさい。しばらくしたら、そこにある石を手にとって、その石を力いっぱい足で押してごらんなさい。もうこれ以上強く押せないと思ったら、ぱっと力を抜いてごらんなさい。そうすれば、お前の悲しみは消えてしまうよ。ずっと消えるわけじゃない。でもね、ちょっとの間だけど、悲しくなくなるのよ。けれどね、一日に一回だけしか、この石のところに来てはいけないし、一回だけしかこの石を押してはならないよ。いいかい」。 
 お兄ちゃんヒグマは、言われたように、言われたとおりにやった。悲しくなると、悲しみ石を押して、力を抜いた。すると、とても悲しい気持ちが消えてなくなったのじゃ。お兄ちゃんヒグマはおおいに喜んだ。 次の日、お兄ちゃんヒグマはまた悲しい気持ちになってきた。だが、お兄ちゃんヒグマは、しゃがみこんで、頭を左右に振ることはしなかった。そうではなく、夜がくるのを待ったのじゃ。夜になったら、お兄ちゃんヒグマは石のあるところへ向かった。石のところでしゃがんで、その小さな悲しみ石を力いっぱい足で押した。そして、しばらくして、足をはなした。すると、見てごらん。悲しみがどこかへ消えてしまったではないか。こうして、毎晩、お兄ちゃんヒグマは、悲しみが完全になくなるまで、悲しみ石を押しつづけたのじゃ」  

 この話はここで終わった。マテスはおじいちゃんに「人間にもそんな石があるの?」、とたずねた おじいちゃんは、「そりゃ、あるよ」、と答えた。おじいちゃんは太ったマスを釣り上げた。「わしがカナダにいた頃、その石はどんどん広まっていった。いや、待てよ。おじいちゃんも一つ持っていたかな」 
 おばあちゃんは、おじいちゃんが釣ってきた大きなマスをとても喜んだ。おばあちゃんが夕食の仕度をしているあいだ、おじいちゃんはマテスといっしょに屋根裏の部屋に行った。古い小箱の中には、色んなものが入っていた。そして、小さなクマの絵が描いてある平べったい小石も入っていた。「ここにあったぞ」、とおじいちゃんは言った。マテスは、その石を少し借りてもいいか、たずねた。おじいちゃんはその石を貸してあげた。「もしわしがまたその石が必要になったら、返しておくれ」 
 また、おじいちゃんはさらに小さな古いイスも見つけた。おじいちゃんはそのイスを下におろして、庭のヤナギの木の下に置いた。 
 食事の後、おじいちゃんとおばあちゃんは、窓の外を見た。マテスが小さなイスに座っているのを見つけた。彼の手には、悲しみ石がにぎってあった。おじいちゃんにははっきり分かった。父を北極でなくしてしまったお兄ちゃんヒグマのように、悲しみ石が今度はマテスも助けてくれる、ということを。

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