とあるところで、知った詩です。
これをちょっと妄想的に、文章にしてみました。
***
もっと速く走れるようになりたい。そして、第一位を取ってみたい。ずっとそう思ってきた。いつも第一位の子は嬉しそうに飛び跳ねる。第二位の子も第三位の子も嬉しそうな顔をする。でも、私は違う。いつも、最下位か、よくてビリから二番目。みんなの視線は、第一位の子に集まる。私を見る目はひとつもない。たとえあったにしても、冷たいまなざしか、見下すような痛い視線ばかりだ。少しでも速く走れるように、と母とジョギングをしたこともあった。でも、私には、速く走ることは無理なのだ。どう考えても、鹿やチーターのように速く走ることはできない。ずっとそのことで苦しんできた。できることなら、足をちょん切って、車椅子の生活ができたらどんなに幸せなことか。
放課後、誰もいない教室の片隅で、水槽を見つめていた。私は魚を見るのが大好きだ。生まれ変わったら、魚になりたいとずっと思っている。魚を見ているだけで幸せな気持ちになる。まわりからは奇妙な目で見られるが、そういう目で見られることにはとっくに慣れている。どうせ私のことなんか、そういう目でしか見ないんだ。誰も。水槽をじっと見ていたら、一匹だけ、とろとろと泳ぐ魚がいた。けがでもしているのではないだろうか。目を凝らしてじっと見る。でも、どこも悪くはなさそうだ。時折、威勢よく尾を振るわせる。私と同じように、とろいのかもしれない。のろのろと泳ぐその魚を自分に重ね合わせた。
「走るのがおそい私は泳ぐのが苦手な魚と話してみたい」
この魚はどんな気持ちで、この水槽の世界を生きているのだろう。やはり、私と同じように、他の魚に冷たい目で見られているのだろうか。それとも、我関せずで、わが道を歩んでいるのだろうか。もし私が魚の言葉が話せたなら、このとろとろ泳ぐ魚と語ってみたいと思った。どんな気持ちでこの水槽の中にいるのだろう。私と同じように悩んでいるのかな。いや、でも、もしかしたらそんなこと考えていないかもしれない。あるいは、何か別の得意なことがあって、そのおかげで、他の魚から尊敬されているかもしれない。この魚は、泳ぐこと以外に何ができるのだろう。・・・私はどうなんだろう? 私は速く走ることができない。でも、他に何かできることがあるかもしれない。何があるんだろう。私には何ができるんだろう。
水槽の中のこの魚が、ほんの一瞬だけ、私に対して微笑みかけたように見えた。