【2022年11月30日に書いた記事です】
学生時代からずっと影響を受けてきた宮台真司先生。
その宮台先生切りつけられた、というニュースが飛び込んできた。
その後、「重傷」だけれど、「命に別状はない」と聴き、少しほっとした。
盟友の神保さんのツイートでも、そのことが伝えられた。
宮台さんは先程、手術が無事終わり、今ご家族が面会しています。たくさん縫わなければならず4時間の大変な手術だったようですが、今は意識もあり、ご家族とは普通に会話をされています。#宮台真司 https://t.co/wCHBY9zLfM
— 神保哲生 (@tjimbo) November 29, 2022
4時間の大変な手術だったそうで…。
これまでたくさん驚かせてきてくれた宮台先生だけど、こんな風に驚かされることは想定していなかった。
…いや、、、
宮台先生の発言は、社会的なインパクトが大きいので、いつかこういうことも起こるかも?という心配はずっとあったようにも思う。
20年くらい前かな。どこかの媒体で「大学に数々のクレームが来ているが、(当時の)学長(?)が火消ししてくれている」と話していた(と記憶している)。宮台先生の言葉に憎悪する人は昔も今も変わらずにいたし、いる。
ただ、この数年の間は、本当に分かりやすい口調で、現代社会を(それこそ言葉のナイフで)徹底的に切り込んでいた。ネットの影響も絶大だった。「クズ」「ウヨブタ」「クソフェミ」「感情の劣化」「言葉の自動機械」「損得マシン」「ピティエ」「法の奴隷」などなど、【宮台用語】といわれる言葉で、一切の忖度なく、このクソな社会を切りつけていた。
言うならば、「宮台ブーム」が来ていた。
その(先生の口調の)分かりやすさ故に、その言葉を(その真意を理解せずに)真に受ける人もたくさんいたと思う。宮台先生は「社会学者」であり、アカデミアの世界の言葉をベースにしている。だから、話す言葉にも、含意が多分にあった。ただ、同時に、一般人の啓蒙(?)という視点も忘れずに、いや、その一般世界こそ大事にしていたと思う。彼もよく「生活世界」という言葉を口にしていた。だから、アカデミアの世界と生活世界の双方をよく理解していないと、分からない話がほとんどなのだ。
けれど、生活世界の人たちは、アカデミアの世界の言葉を知らない人たちだ。アカデミアの世界の訓練も受けていない。だから、宮台先生の「用語」を、自分自身の文脈で理解(=誤解)し、勝手に腹を立てる、という状況がずっとあった。(僕自身も同じように、勝手に誤解されて、言葉を捻じ曲げられて、大変な目にあってきた…。宮台先生ほどじゃないにせよ)。
…
今回のこの宮台先生の事件の後、すぐに思い浮かんだのが安倍元首相だった。
この2022年、安倍さんと宮台先生の二人が残忍な事件に巻き込まれた。
「日本の保守」のシンボルとなった安倍さんと、欧州左派「フランクフルト学派」の流れを汲む宮台先生(というと、宮台先生に「違う!」と言われそうだけど…)。
このお二人が「ターゲット」になり、どちらも突然襲われた、ということはいったい何を意味しているのか。
2022年というこの1年が、とんでもない1年になった、ということだけは間違いない。
トップクラスの政治家と、トップクラスの学者の両者が、突然犯罪に巻き込まれたのだから。
これが、今の沈没した日本の悲惨な現状なんだ。
もう、未来も希望もなく、気力もなく、絶望的な空気に支配されたこの国の惨状なんだ。
「終わりなき日常」を生きることもできず、かといって「アカデミアの世界」に入ることもできず、「未来への希望がまったく微塵も感じられないこの国に絶望した人たち」が、どんどん増えている。
かつての「テロリスト」とは違う、新しいタイプの「ならず者」「Rouge」、つまり「デスパレードたち」。(どう言っていいか分からないけど、政治思想的ではないテロリスト的な人たちのこと)。
今回、宮台先生を刺した人がどんな人かは分からないが、おそらく…、そこまで思想的・イデオロギー的な怨念からの犯行ではないのでは、と直感的に思っている(もしかしたらそうかもしれないけど…)。
安倍さんを射殺した「山上徹也」に似たタイプというと言い過ぎかもしれないけれど、同じような考えをもつ人ではないか、と疑ってしまう。
この辺のことは、きっと宮台先生ご自身が色々と(当事者として?)語ってくれることと思う。
ただ、もしかしたら今回の事件で、表舞台からは退くかもしれない。ロビー活動も控えるようになるかもしれない。「仲間」を「家族」を大事にすることを説く宮台先生故に、通俗的な一般社会から姿を消す可能性もなくはない。それでも、きっと「本」や「論文」というかたちでは語り続けてくれるはず。彼には、「語る言葉」とは別の「書く言葉」がある。
それこそ90年代から宮台先生の「言説」を追ってきた僕としては、彼の「書く言葉」こそ欲しているし、彼の「ロゴス」の力に惹かれ続けてきた。
だから、どういうかたちであれ、宮台先生は今回のことを誰よりも克明に語ってくれると思う。安倍さんが射殺された年に、自分自身も命が狙われるなんていう「経験」は、誰にでもできる経験ではない。こんな経験をし、そして(命を奪われずに)それを語ることのできる人間なんて、100年、いや200年に1人でるかどうかの次元だと思う。
***
宮台先生の言葉に影響を受け続けてきた僕としては、先生のご回復・ご快復をお祈りするだけです。
実際にお会いしたことはないけれど、会ってきた人よりも多大な影響を受けていることは間違いないんです。勝手に影響されているだけだけど、それもまた「学び」なんです。
それこそ、ルソーやフロイトやフロムやアドルノやハーバーマスやホネットと同じ次元で、、、。
そして、お元気になられた宮台先生がいったいこの「2022年」をどう語るのかを絶対に聴きたいです。
安倍さんが射殺され、そして、宮台先生が切りつけられる、という二つの衝撃に僕はもう眩暈がしてきます。
この国は本当に本当に壊れてしまったんだ、と。
誰が壊したんだ?
それは、きっと僕であり、あなたであり、そして日本に生きる僕らみんななのだろう。
そんな壊れた日本で、どう生き抜くか。
これもまた、宮台先生が問い続けてきたテーマでもあったと思います。
この本が宮台先生との邂逅かな。学生時代に読みました。
同じく、この本を読んで、宮台先生の世界に引き込まれました。
…
先ほど、神保さんがこの件についての動画コメントを公開しました。
…
ずっと思ってた。
「出る杭は打たれるが、出過ぎる杭は打たれない」って。
今は違う。もう違う。
「出る杭も、出過ぎる杭も、全部打たれるんだ」って。
だから、そういう人はもっともっと安全面で注意しなければなりませんね。
ホリエモンも同じようなことを言っています。
大学の先生はホント、いる場所が分かってしまうんですよね…💦
【追記、2023年2月1日】
この日、容疑者が死亡していたというニュースが出ました。
東京都立大学教授の宮台真司さんが男に襲撃された事件で、公開手配されていた人物とみられる40代くらいの男が死亡していたことがわかりました。/去年11月29日東京・八王子市の東京都立大学南大沢キャンパスで、社会学者の宮台真司さん(63)が男に刃物で襲撃され重傷を負いました。/警視庁は公開手配を行い、逃げた男を追っていました。/その後の捜査関係者への取材で公開手配されていた人物とみられる40代くらいの男が神奈川県内で死亡していたことがわかりました。/男は去年12月の公開手配の直後に自殺したとみられています。/警視庁は今後、容疑が固まり次第、容疑者死亡のまま殺人未遂容疑で書類送検する方針です。(引用元はこちら)
なぜこの今での発表だったが分かりませんが、容疑者の自殺ということのようです。
一部で、「他殺ではないか」「組織的犯行ではないか」「暗殺されたか」「裏バイトによるものではないか」といった憶測が飛び交いましたが、これを読む限り、個人的な犯行だったと思われます。
(その背景は徐々に明らかになるそうです)
そうなると、やはり深刻な「『無敵の人』問題」につながりそうです。孤立し、社会から隔絶され、絶望した人が「無敵の人」となって、いわばテロ的な犯行を行う、という安倍元首相刺殺事件ともかかわってきそうです。
しかも、今回もまた40代ということで、僕ら世代(?)の犯行でした。この20年、この国がどれだけこの国の人々を無視してきたか。この国の人々を放置してきたか。愛も誠もないこの日本という国で、どれだけの人が絶望していることか。「自己責任」の名の下で、どれだけの人が生きることに失望したことか。
これは、他人事ではありません。
僕らもいつ、どこで、どう「無敵の人」に襲われるか分からないからです。これは「治安維持」の問題にもなります。このままこの国が、この国に生きる人たちを無視し続ければ、ないがしろにし続けるならば、もっとそういう無敵の人が増えていきます。
これは政治だけの問題でもないです。教育の問題でもあります。「よく生きること」「よく生きるための学び」を子どもに与えていなかったから、こういう惨事が繰り返させれるんです。(これが、メディアや教育によって作られた「ネトウヨ系」の人の犯行だとしたら、まさに教育的な問題になるはずです)
すべての人が受けることになる公教育をより豊かにして、すべての人がよりよく生きる術を学ぶことでしか、この問題をクリアすることはできません。
人は、どうしたら絶望せず、絶望しそうになった時に何をどうすればいいのかを知る(学ぶ)必要があります。誰かに頼ること、誰かに相談すること(そのために「話すこと」を学ぶこと)、誰も頼れないときに、助けとなるものを探し出す能力、スキル等…。
どうしようもない怒りや不満や怨恨を誰か他者に向けるのではなく、それらの感情や衝動を克服するための知恵や術を知っておくこと。それを学ぶことが、本来の公教育の基本の基本なはずです。
気に入らない人がいるから殺す、という短絡的な考えをしないための知性や思考力を鍛えることが、すべての教育の基礎とならなければいけないんです。
この二つの問題から僕らが考えなきゃいけない課題がはっきりと示されているように思います。
…
宮台先生のコメントも出ています。
宮台真司氏襲撃犯死亡の報を受けて
【追記2】
その後、このような報道がありました。
捜査1課によると、男は相模原市南区の41歳で、同課は名前を明らかにしていない。昨年12月17日に自宅から約300メートル離れた別宅で首をつっているのを母親が見つけた。遺書があったが、宮台さんの事件に関する記載はなかった。宮台さんは同課に対し、この男について「心当たりはない」と説明したという。/男は両親と3人暮らしで、同課が家族を聴取したところ、宮台さんの事件が公開捜査となった昨年12月12日ごろから男に食事がのどを通らないなどの異変がみられたという。自宅からおのが見つかっており、同課は凶器として使われた可能性があるとみて調べる。(引用元はこちら)
他の報道と合わせると、41歳で、無職で、引きこもりがちだった、と。この男がどんな思想をもっていたのか、どんな理由で犯行に及んだのかはまだ公表されていません。
これらの報道を踏まえると、とても悲しい41歳の男の犯行だったことが見えてきます。まだ「無敵の人」かは分からないけれど、とても寂しく孤独な男だったのかな、と思えてきます。
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