KYは、「空気」と「読む(読めない人)」のイニシャルをとったものである。基本的な使い方としては、名詞形と命令形の二種ある。名詞で使うと、「空気を読めない人」という意味になり、命令形で使用すると、「空気読め」となる。ネットでは、「空気嫁」と表記されたり、「空気嫁ない」と表記されたりもする。
この言葉を聴くと、いわゆる日本人の「間を読む」、「世間を読む」という日本人の伝統的なメンタリティーを思い出す。先日、北野武がある番組で、「いじめの根本には日本人文化の問題が潜んでいるように思う」と述べていたが、それともリンクする。KYな人間(空気の読めない人間)は、やはりいじめの対象となりやすいし、「出る杭は打たれる」の論理に従い、打たれたり、叩かれたりされやすい。
とある高校の先生のお話。「最近の生徒たちは、とにかく空気を読むことに必死。こっちから見ていてかわいそうに思うくらいに、みんな必死に空気を読もうとしている。特に女子生徒に多くみられる。人と違うことをすることを極度に恐れている。だから、個性はホントに出にくい。集団心理ってやつですかね」、とのこと。
この話は、僕もホントに共感してしまう。僕もいまどきの若者に接することが多いのだが、実に健気に「周りの空気を読む」。時にはそれは恐ろしいほどで、うっかりすると僕までも、読まれて、飲み込まれてしまうほどだ。例えば、僕がある学生を怒る。そうすると、自分の行いの正当性を主張する前に、すぐに謝罪してしまう。謝罪といっても、心からの反省ではない。「とりあえずこの場では謝った方が無難だろう。謝ることが今自分には求められているのだ」、という風に、自分の内面から言葉を発するのではなく、「外部からの要請」をその空気から読み取り、行動を起こすのである。
「日本人には自分がない」と言ってしまえばそれまでだが、事態はそれほど単純ではない。木村敏は、この大テーマについて、『人と人との間』という本で事細かに論じている。日本人は、欧米人に比べて、「協調性」が強く、メランコリーに陥りやすい「メランコリー親和性」を根本的にもっている、と木村は指摘している(木村、pp.21-79)
メランコリー親和型の人は、「日常生活の面でも、仕事の面でも、対人関係の面でも、秩序を重んじ、几帳面で義務感と責任感が強く、特に他人に対して非常に気をつかう」(pp.24-25)、といった特徴をもっている。この説明の最後の「他人に対して非常に気をつかう」、というのは、まさに、KYの裏返しではないだろうか。「僕らはみんな他人に非常に気をつかっているのに、どうして、お前はみんなに対して非常に気をつかわないのか?!」、と。日本人は、空気を読んでいる間はなんてことないが、空気を読まない人に対しては、恐ろしいほどに冷酷である。極端な話、相手をどん底まで貶めてゆく。こどものいじめとそれによる自殺の問題も、こうした日本人の精神構造にまで遡らなければ、きっと解決の糸口は見つからないだろう。このKYの問題は、子どもの問題というよりもむしろ、われわれ日本人全員の問題なのかもしれない。
だが、僕的には、KYを解釈しなおすことで、KYをポジティブに評価することもできると思う。日本人は、空気(人と人との間合い)を読むことに長けている。では、「KY」を少しもじって、「世界の空気を読む」と理解してみよう。そうすると、ものすごく良い意味に聞こえてきやしないか?! KYを強制するのであれば、是非「世界の空気を読む」を強制してもらいたいのだ。身内や狭い友人間の空気ではなく、広い世界の空気を。世界の流れや情勢や来たる出来事を。日本人は、木村が指摘するように、義理のない人(直接関係のない人)に対しては驚くほど無関心であり、冷淡であるようだ。だが、直接関係のない人であっても、同じ世界・空間を生きるパートナー(間接的知人と言ってもいいかも)だ。ちょっと視点を変えて、「世界の空気」に目を向けると、自分がいかに世界を知っていないか、が分かると思う。世界でなくてもいい。「日本の空気」でもいいのだ。日本の空気の中に「般若信経」の要素はどのように入り込んでいるのか。これ一つとっても、きっと誰も説明できないだろう。いみじくも、「空気」の「空」は般若信経の超重要キーワードの一つである。「ないことはないもの」である空こそ、日本人にとって一番身近な「核心」のような気がしてならないのだ。
せっかく空気を読むなら、『世界の空気をもっと読もう!(略してSKY!)』。いかがでしょうか?
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