Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

KY(空気読め)と日本人

このところ、流行っている言葉の一つに、【KY】というのがある。このKYは、インターネット用語の一つであり、ネット世界から飛び出した現代用語と考えてよい。この言葉の背後には、日本人の心理構造というか、日本人のアイデンティティーみたいなものが潜んでいるように思えてならない。

KYは、「空気」と「読む(読めない人)」のイニシャルをとったものである。基本的な使い方としては、名詞形と命令形の二種ある。名詞で使うと、「空気を読めない人」という意味になり、命令形で使用すると、「空気読め」となる。ネットでは、「空気嫁」と表記されたり、「空気嫁ない」と表記されたりもする。

この言葉を聴くと、いわゆる日本人の「間を読む」、「世間を読む」という日本人の伝統的なメンタリティーを思い出す。先日、北野武がある番組で、「いじめの根本には日本人文化の問題が潜んでいるように思う」と述べていたが、それともリンクする。KYな人間(空気の読めない人間)は、やはりいじめの対象となりやすいし、「出る杭は打たれる」の論理に従い、打たれたり、叩かれたりされやすい。

とある高校の先生のお話。「最近の生徒たちは、とにかく空気を読むことに必死。こっちから見ていてかわいそうに思うくらいに、みんな必死に空気を読もうとしている。特に女子生徒に多くみられる。人と違うことをすることを極度に恐れている。だから、個性はホントに出にくい。集団心理ってやつですかね」、とのこと。

この話は、僕もホントに共感してしまう。僕もいまどきの若者に接することが多いのだが、実に健気に「周りの空気を読む」。時にはそれは恐ろしいほどで、うっかりすると僕までも、読まれて、飲み込まれてしまうほどだ。例えば、僕がある学生を怒る。そうすると、自分の行いの正当性を主張する前に、すぐに謝罪してしまう。謝罪といっても、心からの反省ではない。「とりあえずこの場では謝った方が無難だろう。謝ることが今自分には求められているのだ」、という風に、自分の内面から言葉を発するのではなく、「外部からの要請」をその空気から読み取り、行動を起こすのである。

「日本人には自分がない」と言ってしまえばそれまでだが、事態はそれほど単純ではない。木村敏は、この大テーマについて、『人と人との間』という本で事細かに論じている。日本人は、欧米人に比べて、「協調性」が強く、メランコリーに陥りやすい「メランコリー親和性」を根本的にもっている、と木村は指摘している(木村、pp.21-79)

メランコリー親和型の人は、「日常生活の面でも、仕事の面でも、対人関係の面でも、秩序を重んじ、几帳面で義務感と責任感が強く、特に他人に対して非常に気をつかう」(pp.24-25)、といった特徴をもっている。この説明の最後の「他人に対して非常に気をつかう」、というのは、まさに、KYの裏返しではないだろうか。「僕らはみんな他人に非常に気をつかっているのに、どうして、お前はみんなに対して非常に気をつかわないのか?!」、と。日本人は、空気を読んでいる間はなんてことないが、空気を読まない人に対しては、恐ろしいほどに冷酷である。極端な話、相手をどん底まで貶めてゆく。こどものいじめとそれによる自殺の問題も、こうした日本人の精神構造にまで遡らなければ、きっと解決の糸口は見つからないだろう。このKYの問題は、子どもの問題というよりもむしろ、われわれ日本人全員の問題なのかもしれない。

だが、僕的には、KYを解釈しなおすことで、KYをポジティブに評価することもできると思う。日本人は、空気(人と人との間合い)を読むことに長けている。では、「KY」を少しもじって、「世界の空気を読む」と理解してみよう。そうすると、ものすごく良い意味に聞こえてきやしないか?! KYを強制するのであれば、是非「世界の空気を読む」を強制してもらいたいのだ。身内や狭い友人間の空気ではなく、広い世界の空気を。世界の流れや情勢や来たる出来事を。日本人は、木村が指摘するように、義理のない人(直接関係のない人)に対しては驚くほど無関心であり、冷淡であるようだ。だが、直接関係のない人であっても、同じ世界・空間を生きるパートナー(間接的知人と言ってもいいかも)だ。ちょっと視点を変えて、「世界の空気」に目を向けると、自分がいかに世界を知っていないか、が分かると思う。世界でなくてもいい。「日本の空気」でもいいのだ。日本の空気の中に「般若信経」の要素はどのように入り込んでいるのか。これ一つとっても、きっと誰も説明できないだろう。いみじくも、「空気」の「空」は般若信経の超重要キーワードの一つである。「ないことはないもの」である空こそ、日本人にとって一番身近な「核心」のような気がしてならないのだ。

せっかく空気を読むなら、『世界の空気をもっと読もう!(略してSKY!)』。いかがでしょうか?

コメント一覧

kei
あやさん

精神病系好きでしたか?!僕もかつてはまってました。加藤さんの本は学生時代けっこう読みました。分かりやすいですよね。

山田詠美さんは、昔の彼女が大好きでした(笑)よく読まされましたよ~ かなりエキサイティングなお話が多いですよね。

千原ジュニアは知りませんでした。「14歳」ってタイトル、気になりますね~~

僕は、最近だと、鷲田清一さんの「待つということ」って本が大ヒットでした。最近は小説はあまり読まなくなってしまっていまして・・・(溜息)
あや
最近あんまりですけど、昔は精神病系すきでした。

でも突き詰めて、自分も一緒に闇にもっていかれてしまいます(笑)病はやめました(^_^;)

加藤諦三の「自立と孤独の心理学」

心理学系は自分とか、他人を許せるようになる気がしてたまに読みます。



小説も読みます☆

山田詠美「僕は勉強ができない」

これ良かったですよ!斜めな真っ直ぐさというか…すきです(^-^)



芸人、千原ジュニア

「14歳」

別にこの人が好きだったからとか、コントが面白かったとかではないんですけど、多感な人なんだなぁと、読んでて不意にドキッとさせられる、そんなかんじでした。



Keiさんもおすすめあったらよろしくです☆
kei
あやさん

検討違いどころか、どんぴしゃですよ!!僕的にはすごく貴重なコメントでした。相手を傷つけたくない、自分も傷つきたくない、これって、僕も含めヤングアダルトの顕著な兆候のような気がします。「やさしさの精神病理」?!

本、結構読まれているんですね!!!是非また何かオススメの本とかあったら教えてください。僕も、読むのは、もう日課です。何かを聴くか、何かを読むか、その繰り返しの日々です!!
あや
お返事ありがとうございます。

検討ちがいなこと書いたかなぁ?って思ってました(^_^;)



思うことって、目に見えないからこそ、興味あります。

「蹴りたい背中」

話題になった時読みました~(^o^)/



本読むの好きです☆



Keiさん夜行性ですね(笑)

kei
あやさん

こんばんわ(ただいま真夜中3時です♪)

すごく貴重なお話ありがとうございます。すっごいリアルで読みふけってしまいましたよ。。「映像」、「全部きまっている」っていうのが、すごく胸に突き刺さりました。

僕は、自我が目覚めたころから、ホント好き勝手やってきて、KYな人でした。多分、あやさんがおっしゃるように、幼児体験が大きかったんだと思います。うちの家族は、とにかく話好きな家でした。きっと無意識ながらに、自由に発言させてもらえていたんだと思います。

だから、今の若者を見ると、こっちの胸が苦しくなるくらいに、気を使っているのが分かるんです。「そんなに気を使わなくてもいいのに・・・」って思う。「嫌われたくない?」、「ホントに嫌われたことあるの?」って問いたくなる。

でも、それが日本人だ!と言われてしまうと、その通りなんですよね。異常なまでに他者に気を使う。互いに、互いを気遣い合う。だから、気遣いをしない相手には容赦ない。

どこに突破口があるんでしょうね。「蹴りたい背中」って読んだことありますか??

春日武彦氏の本は数冊読みました。「ロマンティック~」は、早速アマゾンで注文しました!ご紹介、ありがとうございます!!!
あや
コメント書きたくなりました。おじゃまします。

幼児体験も大きいのかなぁと思います。



絶対的なものがあって、空気を読まないといけない環境だったか、はっきり主張しあうことを認められた環境だったか。



幼稚園から小学生くらいまでのあたしは、自分が求められている行動が、自然と映画のように頭の中でくっきり映像が上映されてました。



全部決まっている。

それをそのままする、すると上映どうりの相手のリアクション。



「つぎはあたしの台詞…」

何もかもが決まっていた。全て予定どうり。

「こうしたい」より

「こうしたほうがいい」



言葉より、顔色と声のトーンに隠れたメッセージ。



いつも言われていた

「もう寝なさい」

は、

「ゆっくりおやすみなさい」

だったのか

「邪魔だから、うるさくしないで」

だったか。



映像は打ち消して、勇気をもって、そこからでて、意見も言えるようになれたけど、

相手を傷つけてしまうかもしれないと思うと怖くて、

でも自分が傷つくのも疲れて、

そこまでして強くならないと生きていけないなら、生きていかなくてもいいと思ったりもしました。



ひとつのことから二つ読み取ったり、想像できたり、気を配れるようになれたり、共感できたり…

いまは良かったかなと思います。



Keiさん、春日武彦の「ロマンティックな狂気は存在するか」

なかなか面白かったので、気が向いたら読んでみてください☆

kei
tessai2005さま

コメントありがとうございました!!宇宙の空気を読もう(UKY)、これこそ、究極の究極かもしれませんね。SKY⇒UKY、この移行の問題も、面白いテーマだと思いました! 世界認識から宇宙認識、、何か大きな問題が潜んでいるような気がしてならなくなってきました。
tessai2005
UKY
http://blogs.yahoo.co.jp/tessai2005
このキジは大傑作ですね。心から共感します。でも、どうせなら、万有・宇宙の空気を読もう。――UKYというのは、いかがでしょうか?
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「哲学と思想と人間学」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事