赤ちゃんポストをめぐって、また新たに不可解な事件があったようだ。
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伯父、赤ちゃんポストに預けたおいへの遺産着服
読売新聞 8月9日(火)3時3分配信
熊本市の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に2007年に預けられた男児の伯父(49)が、男児を預ける前後に、男児が受け取ることになっていた母親の生命保険金など約6000万円を着服したとして、業務上横領容疑で埼玉県警から書類送検されていたことが8日、わかった。
赤ちゃんポストは、貧困などの事情で親が育てられない乳児を緊急避難的に預かるための施設。伯父は男児を預ける前、男児の未成年後見人になっていたが、着服した金をギャンブルにつぎ込み、全国を転々としたと話しているという。
捜査関係者によると、男児の母親は交通事故で死亡し、男児に身寄りがなかったことから、母親の実兄である伯父が裁判所により男児の未成年後見人に選任され、財産管理などを担当するようになった。
しかし、伯父は男児名義などの複数の口座に振り込まれた母親の生命保険金や事故保険金などを07年に引き出し、男児を赤ちゃんポストに預けて行方不明になった。伯父と連絡がとれなくなったことから、裁判所は後見人を解任。男児の行方もわからなくなっていたため、新しく男児の後見人に選任された弁護士が埼玉県警に相談していた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110808-00001152-yom-soci
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おそらく、このショッキングな事件に、また赤ちゃんポストへの風当たりは冷たくなるだろう。「匿名で乳幼児を預けることのできる場所」である赤ちゃんポストは、ある種、どのようにでも使われる可能性があるわけで、こういう事件が起きないという保障はない。
また、見せかけだけの「匿名性」であれば、(つまり親側にビデオカメラなどを向ければ)形だけの「匿名性」となり、実質的に赤ちゃんポストの機能が失われてしまう。「総監視社会」が良しとされる時代のなかで、いわばそれと全く逆行する「匿名施設」は、非難されることはあっても、肯定されることはまずないだろう。
で、この事件だが、なぜ伯父が判明したのか。なぜ、母親の生命保険金など約6000万円を着服した伯父が逮捕されるに至ったのか。そのプロセスはどうだったのか。なぜ匿名性が守られず、伯父の逮捕となってしまったのか。(赤ちゃんポストは犯罪を助長する施設ではないし、犯罪者を突きとめる場所でもない!!断じて!!)
この事件の背後に、「母子家庭」があるように思う。母が亡くなった時に、引き取り手がおらず、母の実兄が後見人になっている。父がいない家庭だったと思われる。で、母の兄はギャンブルに保険金をつぎ込んでいる。いわゆるまともな兄なら、妹の子どもを捨て、ギャンブルに保険金をつぎ込むことはなかっただろう。ここから、母親が「緊急下の女性」だったことが窺える。
そういう意味では、赤ちゃん(?)である男児の保護はうまく機能していたともいえなくもない。そんな伯父に育てられる子どもの方が心配だし、また、その伯父自身も、誰にも相談できなかったり、困っていたかもしれない。ひょっとしたら、子どもを殺していたかもしれない。虐待されていたかもしれない。そういう意味では、この男児は救われた、ともいえなくもない。
今回の事件で考えるべきことは、
①なぜ匿名性は守られなかったのか。(これは極めて深刻な問題!)
②この事件は、赤ちゃんポストを批判するための事件ではなく、むしろ赤ちゃんポストが必要な家族像を映しだすものではなかったか、
という点だと思う。
●追記●
朝日新聞によると、「男は今年5月に愛知県警に出頭し、『東日本大震災で苦しんでいる人がいるのに、自分はこんなことをしていていいのか』と話していたという」とのこと。
つまり、上の伯父は、自ら出頭し、問題が発覚した、ということだった。
ということで、①の問題は、解決。決して赤ちゃんポストの匿名性が第三者(ないしは設置者)によって打ち破られたわけではなかった、ということになる。
②の問題は、今後も考えていくべき問題と思われる。
ネット情報だけだとダメだな。ちゃんと新聞を読まないと。ネットの情報だけだと、「なんて酷い事件だ」→「それを助長する赤ちゃんポストはけしからん」、となってしまう。うん。新聞をしっかり読もう。
この数か月の間で、僕自身の赤ちゃんポストの見方も変わってきた。何をどう語らねばならないのか。今回の記事から、色々と学べそうな気がする。
赤ちゃんポストを基礎づける原理や思想に、もっともっとアクセスしていかねば、、、