Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

孤立したロスジェネ世代の絶望とどう向き合うか?-登戸の事件から-

今日の朝、ショッキングなニュースが全国に流れた。

40代~50代の男が、登戸で、児童ら18名を包丁で殺傷し、自らも自決した(死亡確認)。

40代半ばの僕としては、「他人事」とは思えない事件だった。

先日、朝日新聞一面の記事を真っ先に思い出した。

「就職氷河期の不運 挽回できぬまま」という記事だ。

「不安定雇用 社会全体のリスク」という言葉も出ている。

今回のこの事件は、まさにこの「社会のリスク」が表に出たものだった。

まだ、事件の全貌が明らかにされていないので、何とも言えないけれど、40代~50代の男が無差別(あるいは差別)のテロ的な事件を起こした、ということは間違いなさそうだ。

今の40代~50代の一部の人たちは、どんどん追いつめられていると僕も感じている。

仕事もない、結婚もしていない、子どももいない、将来も見えない、今も見えない…

生きることに絶望し、自暴自棄になっている人、その寸前にある人、

「引きこもり」という言葉も、僕らロスジェネ世代の「ジェネレーションワード」だと思う。

上の新聞記事の中に、印象的なコメントが出ていた。

「40歳というラインを過ぎ、人生の半分近く、何もしてこなかったと評価されているかのようです。将来、不安しかありません」

このコメントを受けて、記事では、次のように述べられている。

「彼のような経験は、同世代の中で極端なものではない。社会の中軸としての働きが期待される30代後半から40代で、派遣や契約社員などの不安定雇用を続ける人たちが増えている」

僕らロスジェネ世代は、第二次産業から第三次産業に移行する時期に就職時期を迎えている。「工場」は次々に世界に移っていき、「安定した受け皿」を失いつつある時代を生きた。(僕も、夢だった「中学校の先生」は、氷河期故に諦めた)

ロスジェネ世代は、「勝ち組」と「負け組」の「格差」も顕著だ。成功した人たちは、「金」も「結婚」も「高級住居」も全て手に入れている。他方で、成功できなかった人の生活は、「どん底」である。仕事がないから金がない。金がないから結婚できない。金も家庭もないから、実家(両親の下)で「パラサイト」している。

上のコメントで、「将来、不安しかない」という言葉があった。

今の40代~50代の人たちの一部に、「不安しかない」という心境を生きている人がいる。

しかし、ただの「不安」じゃない。お金(職場)もパートナーも子どもも何もなく、社会的に孤立し、絶望状態の不安な人たちだ。

朝日新聞は、12年前にもこの「ロスジェネ世代」の危機について警鐘を鳴らしていた。

「12年前の本誌連載『ロストジェネレーション』では、この世代の困難を社会全体で受け止める必要があると指摘した。だが有効な手は打たれず、ロスジェネは中年となった」

この「ロスジェネは中年となった」という言葉が、僕に突き刺さった。

若い時は、一人でもなんとかなるし、一人で生きていけると思えると思う。でも、40代に入ると、「一人で生きていけるんだろうか」と不安になってくる。身体的にも、精神的にも、弱くなってくる。非正規雇用でしか働いていない人は、正規雇用の道もとっくに断たれている(ように感じる)。

上の記事の結論(!?)はかなり絶望的だ。

「今まで放置されてきたロスジェネからは、もう手遅れだという悲鳴も漏れる」

もしもう手遅れだとするならば、「社会全体のリスク」は今後ますます高まると予想されるだろう。

孤立、孤独、不安、絶望、、、

未来に希望を描けなくなり、かつ社会的に孤立した人たちの怒りや嫉妬や不満は、外に向かうか、内に向かうかのどちらかだろう。外に向えば、「無差別(あるいは差別)殺人」へ、そして内に向えば、「自殺」へ、と。

更に考えると、そうした怒りや嫉妬や不満は、決して「自分より圧倒的に強い人」には向かわない。そうではなく、「自分より弱いのに、自分より幸せそうに見える人」に向かうのだ。これは、アドルノ的には、「迫害のパターン」であり、一つの構造なのだろう。

「あらゆる迫害の歴史において立証されているパターンとは、弱者に、とりわけ社会的に弱い立場にありながら同時に、正当にもあるいは不当にも、幸福だと思われている人々に、怒りが向かう」(アドルノ、『自律への教育』、p.128)

今回、被害にあった子どもたちは名門「カリタス小学校」の児童だった(詳しくはこちら)。かつて、関西の「池田小事件」でも、ターゲットになったのは、恵まれた家庭の子どもが多く通う(と想起される)小学校だった。

今後、日本でも、ゲーテッドタウン(富裕層の人々しか立ち入れないコミュニティー)が広まるかもしれない。否、広まっていくだろう。「勝ち組」は勝ち組のコミュニティーを、そして、「負け組」はその外部での生活を、と。(いいとは思わないけど、不可避だろうな、と)

こういう問題を語る時に、「小泉+竹中」に象徴される「新自由主義的な政策」に怒りの矛先を向けることが多い。けれど、問題の本質は、そこにあるとは僕には思えない。もっと大きな問題、すなわち「戦後のいびつな人口形態」があると思う。団塊世代は、まだ貧しく、成長しかない時代に、人材不足の中、「モーレツ」に働くことができた。その団塊世代の子ども世代=ロスジェネ世代の人たちは、「労働力過多、成長ストップ」の時代を生きた。契約社員や非正規雇用が増えるのも不可避だった。

戦争の傷跡は、ここでもやはり残っているのだと思う。それくらい、戦争というのは、長い長い傷跡を残すのだ。

今後、戦後すぐに生まれた団塊世代が大量に「後期高齢化」を迎える。2040年頃には、3人に1人が65歳以上(75歳以上というデータも!)となると言われている。更に、今でも、「生涯未婚率」はぐんぐん上昇していて、男性においては25%ほど、つまり4人に1人は、50歳まで一度も結婚しない(その多くは生涯未婚の)人生を生きることになる。(女性は15%ほど)

こうした中で、具体的にどうしたらよいか。

一つは、まず、リスクの高い人の雇用状況を改善することだ。安定した収入があれば、リスクはぐっと減る。同時に、「ベーシックインカムは男性の責任」という固定観念も壊していく必要がある。今後、所得が倍増するということは考えにくい。男女が共に稼ぐこと、場合によっては、女性が経済的な基盤を受け持つこともよし、という空気を作る必要がある。

二つは、工場に変わる「コミュニケーションに依拠しない職場」を増やすことだ。無差別殺人をするような人は、コミュニケーション上の問題を抱えているケースが多い。どんな仕事でもいいから、コミュニケーションスキルを求めない職場を創発できるかどうか。そして、その仕事が安定的に継続することを目指す必要がある。例えば、コンビニ店員よりも、コンビニ弁当を工場で作る人の賃金を上げる、みたいな。

三つは、もっと「人は一人では生きていけない」ということを常識化させることだ。人は、誰かを求めれば、必ず誰かがそれに応えてくれる。親や周囲が「クズ」だったとしても、その外部には、必ず「応えてくれる人」がいる。世の中、「捨てる神あれば拾う神あり」で、自分を拾ってくれる人は必ずいる。親以外に応えてくれる人をどれだけ見つけられるかどうか。その中に、伴侶となる人が現れ、その人と結婚すれば、その人は「孤独」も回避できるし、「責任」も負うことになる。

今日の事件の犯人(死亡)がどういう人生を歩んできたのかはこれから明らかになるだろう。もしかしたら、上で述べたことには全然該当しないかもしれない。「お金持ちで、結婚していて、子どももいて、マイホームもある」という男性かもしれない。でも、逆に、つまり僕が指摘するように、「職業不安定で、独身で、子どももいなくて、孤独+貧困」という男性かもしれない。

いずれにしても、40代~50代への支援やその支援を支える制度設計は喫緊の課題だと思う。

それは、彼らのためだけではなく、今の社会を生きる僕ら全体のためでもある。(そもそも、社会福祉には、「慈善事業」だけでなく、「治安維持」という意味も併せ持っている)

待ったなし、だ。。。

***

【追記】

犯人は、想像を絶する過去をもっていた。

幼少期に親が離婚。その後、現在に至るまで、伯父と伯母の下で生活する。学校では、「死んでやる」と連呼。

学校を出た後はずっと「引きこもり」。50過ぎまでずっと「引きこもり」…。

伯父・伯母も川崎市に相談を繰り返ししていたとも。祖父母との会話もなし。

改めて「離婚家庭の子どもの援助」の必要性を痛感する。

(でも、世間の関心はとてもとても薄い…)

そして、彼は自決した…。

 

また、「引きこもり」の議論が繰り返されるのだろうか。斎藤環さんなどを呼んで…。

コメント一覧

kei
今井寿は音色の魔術師さん

コメントありがとうございます。HNからして、「お仲間さん」ですね!! 今井さんは永遠の憧れのギタリストです!!

「無敵の人」って聞いたことがあります。まさに「無敵の人問題」だと思いました。これからもっともっと「無敵の人」が出てくるだろうな、とも。

最後の「弱すぎると「無敵の人」になるなんて人って矛盾してて本当にいとおしいですよね」という言葉に、感動しました。さすがはB-Tファンの方ですね(苦笑) 僕もそう思います。無敵の人も、少し変わるだけで、面白い人、稀有の人になれる気がするんですよね。紙一重といいますか、、、これからもよろしくお願いいたします。

omachiさん

不思議な(?)コメントありがとうございます。ネット小説から学ぶことも多々ありそうですね。歴史ももっと勉強しなければと思う今日この頃です。
omachi
お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。
今井寿は音色の魔術師
「無敵の人」っていう単語をご存知ですか?

https://dic.nicovideo.jp/t/a/%E7%84%A1%E6%95%B5%E3%81%AE%E4%BA%BA

2ちゃんねるを作ったひろゆき氏が10年前から警笛を鳴らしていたネットスラングなんですが、ケイさんの今回の本文ととても本質をついていると思いました。

こんな事を書いている途中でも、さいたま市で刃物振り回し男を警官が銃殺、岡山市でも刃物振り回し男が出ました。

何も失うものが無い人って、ヒデじゃあないですけど本当に「なんでもありってこと」のマイナスの部分を極めますよね。

俺もロスジェネ世代の人間として、氷河期の人間として
同世代の学生時代の仲間達とのやりとりで本当にその後の人生が
千差万別、跳梁跋扈してるのを体感してます。
俺は幸いな事に最愛な嫁も子供もいますが
あの氷河期を勝ち抜けるのは本当に運も実力もタイミングも必要なんですよね。
自分以外の何かが
たまたまが作用しなかったら無理だった。

統計的に考えても、これからもロスジェネ世代の「無敵の人」はどんどん増えますね。

政治家がこれに気づいて対策を
根本の「愛情飢餓感」とは?の対策を考えて欲しい。
ケイさんの提示した打開策も参考にして欲しいです。


弱すぎると「無敵の人」になるなんて
人って矛盾してて本当にいとおしいですよね。
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