さぶちゃんは、言わずと知れた東京のラーメンの超名店である。さぶちゃんは、伊峡、喜楽、春木屋、栄屋ミルクホール、共楽、集来軒、満来など、東京を代表する老舗の名店の一つであり、チャーハン+ラーメンのセットメニューを初めて出したお店として有名。
それよりなにより、僕が生まれて初めて(中学生の時に)「行列のラーメン屋さん」を直に見たお店であり、ラーメンの不思議現象(行列現象)を初めて目のあたりにしたお店だ。僕のラーメンライフの「原風景」ともいえるラーメン屋さんがさぶちゃんだ。(僕の思い出話はこちら)
店主の三郎さんは、とても印象的なお方で、雰囲気たっぷりの職人気質の人だ。神保町という地でラーメンを作り続けて42年。超ベテランの現役ラーメン店主だ。見た目は結構恐いんだけど、話すととても穏やかでユーモアのある方だ。常連さんとの会話を聞いていると、お人柄のよさを直に感じることができる。前回同様、僕が「写真を撮ってもいいですか?」、と尋ねると、「ああ、いいよ。でもちょっと待って。チャーハンと一緒に撮りなよ(笑顔)」、と言ってくれる。
さて、さぶちゃん。今回は、夜7時過ぎに行ってみたのだが、なんとなんと行列はなく、すぐに席に着くことができた。「信じられな~い」、と心の中で叫んだ。さぶちゃんこと、三郎さんは相変わらずな感じで、お元気そうだった。おじちゃんTシャツがなんかいいなぁ~(ぽっ) 閉店間際とあってか、ちょっとお疲れのご様子?!だった。
今回は、半ちゃんラーメン(690円;650円から40円up)を注文!
まずはラーメン。器にタレや調味料(化学調味料も!)を入れて、ネギを入れて、キッチン下にあるスープ鍋の奥底からまず半分くらいスープを器に注ぐ。そして、スープの表面の方のスープを再び注ぐ。そして、もう一度スープを注いで、麺を入れて、味付けメンマと自家製チャーシューをトッピングして完成! 作る過程を見るだけでも面白い。
そして、大きなフライパンに作ってあるチャーハンを熱して、ラーメンの後すぐに出してくれた。どちらも美味しいそう。半ちゃんラーメンはこの二つが揃って初めて、完成なのだ!
ラーメンは、やはり文句なしに美味しいラーメンだった。都内の老舗ラーメン屋さんのラーメンなんだけど、いわゆる「昔ながらの東京ラーメン」とは全然違うスープなのだ。今の時代でも完璧に通用する味わいのスープで、お世辞抜きで美味しく感じる。生姜の味が結構前に出ているが、昆布や鰹節なども使っており、武骨さの中に繊細さが隠されているラーメンなのだ。
どれだけラーメンを食べようとも、やはりさぶちゃんは美味いし、味も強烈。甘みとしょっぱさが美味く合わさっていて、絶妙なハーモニーを奏でている。いかんせん、スープの黄金色が素晴らしい。黄金色のスープで、ほどよくしょっぱくて、あっさりしていて、そしてパンチがある。
麺も素敵すぎる。僕が一番大好きなゆるく縮れた細麺。こういう麺がやっぱラーメンの麺だよな~♪ スープとの相性も抜群。素敵。
さぶちゃんのメンマも格別に美味しい。甘く煮込んでいて、とても食べやすいし、印象に残る味。チャーシューは、今回ラッキーで、超ぶっとかった。ちょっと硬くてパサパサしているけど、これぞ、ラーメン屋のチャーシューの王道ど真ん中!とも言えて、満足。
で、半チャーハン。もともと僕はチャーハン大好き男だったので、チャーハンを食べるだけで幸せになれる。こちらのチャーハンは、味濃い目で、パサパサしていて、具もシンプル。思わず、「生きててよかった」と思ってしまったチャーハンでした。まさにラーメン屋さんのチャーハンのお手本であり、「男のチャーハン」の雛形である!
いわゆる戦後のラーメン屋さん第一世代のさぶちゃん。最近、身近な人の「死」を目のあたりにしていて、いつまでも人間は当たり前に存在するわけではない、ということを思い知った。老舗のラーメン屋さんも、いつまでもそのままあるわけではない。作り手が人間である以上、ラーメンの味も永遠ではない。新しいお店ばかりに目を向けて、老舗のラーメンに目がいかないと、気付いたときには、本当に素晴らしいラーメンを食べないまま、終わってしまっている、ということになりかねない。
もっともっと老舗のお店の味を、今体験しておきたい。特に戦後第一世代の味は、しっかりと体感しておきたい。ラーメンクラシックス(古典)を知らずして、ラーメンを語ることなかれ!ってことで。
最後に、故武内さんの言葉を引用しておこう。
昭和十三年、神田に生まれた主人・木下三郎氏は生粋の江戸っ子。ラーメンももちろん醤油一本。ラーメンを残した客を怒ることもしばしばある。もとは洋食屋のコックだったが、昭和四二年に自分の愛称を屋号にして、神田でラーメン店をはじめた。私は厨房内でたばこを吸うオヤジは生理的にも衛生的にも許せないのだが、忙しい合間に一服するさぶちゃんだけはなぜか許せるのである(『何回もいきたくなるラーメン店100』、p.45)