歴史に、「もし」はない。
それでも、「もし」を考えてしまうのが、ロゴスをもった人間だ。
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Visual系の世界においても、「もしかしたら…」というバンドは少なくない。
もしGLAYの前に、MASCHERAがデビューしていたら?
もしDIE IN CRIESが大ブレイクしていたら…
もしかしたら、あのバンドも売れていたのでは?
もしかしたら、あのバンドはダメだったかも!?
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今回ご紹介するTinker Bellは、「もしかしたら」のバンドの一つだった。
バンド名にまず、華があった。
Tinker Bell
ですよ。
カッコよくないですか?!
妖精ですよね。
バンドって、ある種、バンド名で決まっちゃうようなもので…
売れてるバンドの名前はそれも個性的でカッコいい。
最初、LUNACYって聴いた時、なんだなんだ!?って思いましたし、
黒夢やLA'rc en cielも、バンド名に華がありました。
Tinker Bellも、当時、とても印象的なバンド名で、輝いていました。
メンバーはこんな感じでした。
ボーカルの名前は、MADOKA。
男性ですよ(苦笑)
MADOKAを名前にするかー!?って驚いた記憶もあります。
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An Evanescent Peaceful Sleepは、3曲+1曲入りのミニアルバムでした。
1998年の作品で、当時のヴィジュアル系の世界観や雰囲気がぎゅっと詰まっています。
Tinker Bellは、MADOKAの甘いVOICEとわりとテクニカルなツインギターが特徴的。
この作品に限っては、初期ラクリマ・クリスティ、デビュー時のラルクに似た感じかな。若干、SHAZNAみたいな感じも…
今のヴィジュアル系とは全くもって全然違うのが、なんか不思議…。
①のHIDE and SEEKは、「かくれんぼ」がテーマとなった妖艶でメロウな曲。妖しさと暗さがどーんと押し寄せてくる感じで、空前のヴィジュアル系ブームの最中のバンドだったことが窺い知れます。ギターのリフは、若干初期MASCHERAみたいな感じで、面白いです。ラクリマ×マスケラ×LUNACYって感じ!?
②のこもれびは、ラクリマというよりは、当時のラルクに似た感じの曲です。イントロのギターだけだと、ラルクの曲か!?って思うほど。ただ、こういう曲は、ボーカルの歌唱力や表現力がめちゃめちゃ問われるので、若干、表現しきれてない気もしなくもない。当時のラルクも得意としていたボサノバ調の楽曲で、リムショットが印象的。
③のWinding Staircaseは、イントロからして、なんとも妖しげ。今井さんが弾きそうなノイジーなギターに、SUGIZOが弾きそうな退廃的なリフが乗っかります。このイントロ、覚えてるなぁ。曲自体は、デカダン系というか、ポジパン系で、暗いです(苦笑)。でも、この曲も若干ボサノバのリズムを取り入れていますね。サビは、まさに90年代王道のヴィジュアル系ソングに大変化します。ギターの音が今と全然違うんだなぁ。クリアな音も歪んだ音も、今と全然違う。弾き方も違いますね。ゴリゴリのリフは一切ありません。
一応、クレジット上は、この三曲のみの収録なのですが、、、
当時のヴィジュアル系バンドって、「シークレットトラック」をCDにしけこませて、ファンを驚かせ、楽しんでいました。色んなやり方がありましたよね。CDをコンポに入れると、3曲なはずなのに、99曲になっていたり。あるいは、10曲入りのアルバムの10曲目の曲が終わっても、終わらない。で、10分くらい過ぎたら、突然曲が始まる、みたいな。
今のヴィジュアル系バンドのCDには、そういうのってないんじゃないかな!? 「おお!」がない。
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この3曲入りのアルバムは、3曲目が終わった後、すぐに4曲目が再生されます。
それが、タイトルでもある④An Evanescent Peaceful Sleepでした。この曲、大好きだったなぁ。打ち込みのダークな曲に、切ないアコギが不気味に鳴り響く。美しさと儚さと退廃感が半端ない「どんより系」の曲になっていました。今のヴィジュアル系バンドに比べると、音圧こそ弱いものの、はるかに雰囲気やイメージを大事にしていた気がします。
速い曲や重い曲に関しては、今の方がずっとスピーディーでヘビーになっています。けど、雰囲気や退廃感や妖しさや妖艶さ、つまり、「イメージ感」でいうと、90年代の方がはるかに優れていたように思います。当時のラルクも、そういう「雰囲気」を全面に押し出すバンドだったし、初期のラクリマもそうでした。
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この作品は、なかなか入手困難だと思いますが、是非一度聴いてもらいたいなぁ。
特に今、ヴィジュアル系バンドをやっている人には、聴いてもらいたい。
多分、色んな「ヒント」が隠れているんじゃないかな!?
「手詰まり感」を感じたら、「過去にさかのぼる」。
今に囚われていないで、歴史的地平に手を伸ばしてみる。
そうすることで、「地平の融合」が起こり、新たなやり方が見つかるかも!?
そうやって、人類は発展してきたんですよね。解釈学的には(苦笑)。
この作品は、過去と現在の間の「溝」がはっきりと見えて、勉強になりそうです。