最近、この数年で学生たちが変わった気がしている。
学生たちみんなが、疲れ切っている。
90分の講義に耐えられる学生が少なくなってきた。
前々から90分の講義に耐えられる学生自体、そんなに多くはなかったけれど、今はもうそのほとんどが耐えられなくなってきている(ように見える)。
(僕の講義は、あの手この手を使って、できるだけ面白く、適度に笑いを入れながら、かつ単なる形式的な「アクティブラーニング」にならないように留意している。話が上手?な僕でこのザマなのだから、世の中の真面目な大学の先生の講義となると、本当に大変だろうと案ずる)
では、学生たちは「不真面目」になったのか、といえば、そうではない。話していると、真面目で、いい子たちばかりなのだ。ただ、皆が疲れ切っている。
その理由はシンプルで、「バイト」で疲れ切っているのだ。皆、アルバイトをしているので、月~金まで勉強して(その夜はバイトをして)、土日もバイトなのだ。休む日はない。しかも、その半分くらいは、「ブラック化」しているので、常に「ハラスメント」も受けている(ようだ)。「金曜日に入れないなら、辞めていいよ」、「土日に学校の行事がある? ふざけるな。こっちは土日にバイトが必要なんだ。土日に出られないならクビにするぞ」…。
親たちも、学生のバイトに頼っている。「学費は自分で払ってね」、「学費は出すけど、生活費は全部自分でお願いね」、といった問題だけじゃない。「学費も自分で払って、その上で、家にお金を入れて」と要求してくる親もいる。もう、そういう学生を見ると、ホンキで涙しか出てこない。
今となっては、もはや、「学生なのだから、バイトなんてすんな!」、と教員は口を裂けても言えなくなっている。「自分の遊ぶ金欲しさ」であれば、「それを我慢しろ」と言えるものの、「家にお金を入れている」、「学費を自分で払っている」と言われると、もう、こっちは何も言えなくなる。
だから、アルバイトを考慮せずに、教育活動を行うことはできなくなった。
そして、90分の講義も、今やほぼ成立しなくなった。学生たちは疲労し切っている。
ある(最近の)卒業生が言っていた。
「私、社会人になって、ようやく地獄から解放された気がしました。今の方がずっと時間があるんです。夜に働かなくていいんです。土日のどっちかは休みなんです。学生の時は、土日もありませんでした。社会人は大変というけど、違いますね。学生は大変です。っていうか、学生時代は地獄でした」
ネット記事だが、気になる記事があった。
借金883万円……カラダを売って大学進学?“女子大生風俗嬢”大量参入の背景とは
この記事の中で、中村淳彦さんというライターさんの話が出ていて、それが興味深かった。
…あくまでも自身の個人的見解であるが、と断った上で中村氏は、その大学を卒業することでバリバリ稼げて、速やかに奨学金を返済できる見込みがないのならば、安易に大学に進学すべきではない。学費が安い通信制の大学を選択することも視野に入れて、現実的に自分の進路を熟考すべきだと訴えている。
これは、僕が前々から主張してきたことと一致する。
僕は、ずっと、「高校を卒業した後、横並びで、高等教育機関に進学するべきではない」、と書いてきたし、主張してきた。18歳の段階で、一度、幼稚園から続く横並びのシステムを壊す必要があると、真面目に考えている。
欧州のシステムを知ったから、というのもあるが、日本の高等教育システムは、「学校化」され過ぎている。異国の目線で見れば、恐ろしい風景がそこに広がっている。
高等教育機関であっても、「友達ごっこ」が繰り返され、「いじめ」まで起こっている。教授陣の「講義」を真面目に聴かないのは、それこそ80年代頃から変わっていないが、それだけでなく、高校の延長線的な雰囲気に満ち溢れている。
誰も、みんな、「自分の判断」で、高等教育機関に進学しているというよりは、「まわり」に振り回され、流されるかたちで、(学費を払う余裕もないのに)進学してしまっては、苦しんでいる。
そして、残るのは、(高等教育機関の学生寄せに利用される)(使えない)「資格」「免許」と、膨大な奨学金の借金、という結末。上の記事にもあるけど、日本学生支援機構の奨学金は、ホントに後の「足かせ」となる。(僕もまだ、実は返済しきっていない)
毎月、今も銀行口座から日本学生支援機構の引き落としが行われ続けている。
笑えない…。
どうしたらいいのか。
まずは、高校の進路指導の先生たちの力が必要となると僕は思う。
学生の(家庭の)所得状況を把握して、経済的に厳しい生徒たちには、無理に「進学」を薦めない、ということを徹底させていくべきであろう。もちろん「進学したい」という情熱のない学生も、安易に「進学」を薦めないこと。
理由は簡単で、「無駄な借金ができるだけだから」。
もちろんホンキで勉強したくて、心底高等教育を受けたいと思っている人であれば、奨学金の借金は無駄ではないだろうし、それだけのパワーがあれば、忙しくても、学びを深めることはできる。事実、僕のまわりにも、そういう学生はパラパラといる。
でも、ほとんどの学生たちには、そんな(学びへの)モチベーションはない。それは今も昔も同じ。一部の優秀な大学以外では、ほとんどの学生にモチベーションなどない。せいぜい、資格や免許へのモチベーション程度だ。
だけど、社会人を経て、自分のお金で進学してきた学生たちは違う。高いモチベーションと、自分で稼いできたという自負に支えられており、学びへの意欲も半端ない。僕も今、そういう学生と顔を突き合わせているが、本当に学ぶ意欲に溢れている。年齢も他の学生と違うということもあり、小娘たちの「群れ」に巻き込まれることもない。
そういう学生を知っているからこそ、18歳で、何百万もかけて、何のモチベーションもなく進学してくる学生がpityに思えてならないのだ。だけど、僕が言ってからじゃ遅すぎるわけで。。。
高校の進路指導の先生が今後の決め手となってくるのは間違いない。
色々なことを総合して、「今、この生徒に、何百万も負担をかけて、進学を薦めるべきかどうか」を判断してもらいたい。それは、親も同様で、無理に「今」、子どもを進学させる必要はなにもない。むしろ、自分たちの経済事情をよく説明して、「のちのちに進学することも意味がある」、ということを伝えてほしい。
無論、なにも、「行くな」というわけではない。「今、行かなくても、後に行くチャンスはいくらでもある」、ということを丁寧に説明してもらいたいのだ。上の記事にもあるが、「通信制の大学」もある。それに、実際に、18歳で進学するメリットなんて、全くもってないのだから。「学問の世界」は、22~23歳頃から面白くなってくると思うし、それこそ40歳になった今、ようやく「学問の世界」の「味」が分かってきた気がしている。
高等教育機関に無理に進学しなければ、18歳でできる非正規雇用の仕事であっても、自宅にいれば、月に5万円は貯金できるだろう。年に60万円は貯金できる。それを5年続ければ、300万円の貯金ができる。それでも、その若者は、23歳である。全然、遅くない年齢だ。きっとこの5年の間に、「働く厳しさ」も学び、また「学びへの渇望」も生まれるだろう。
300万円の貯金を切り崩しながら、無理なくアルバイトをほどほどに入れながら、高等教育機関の教育を真面目に受ければ、それなりに時間を確保することはできるだろうし、学びに集中することもできる。無駄にはならない。
まず、こういうことを高校の先生や、高校生の親たちがしっかり認識して、「高等教育の始まりは18歳に限定されるものではない」、ということを自覚してもらいたいと願う。
きっと、お子様の高校生たちは、「いやだいやだ。友達のAちゃんも●×大学に進学するし、あたしも、●×大に行きた~い」、と泣き叫ぶかもしれない。
この時に、親は自身の家庭事情を恥じる必要はない。日本はそもそも狂った国で、高等教育機関の学費が尋常じゃなく高い。それに、バブルはとっくにはじけ、「中流階級」は激減している。メディアが作る「貧困」に踊らされる必要もない。なぜなら、70年頃までは、高校に進学する生徒自体、多くはなかっただから。大学の設立ラッシュは80年以降で、今みたいに、アホみたいに大学進学するようになったのは「最近」の事に過ぎない。
わずか50年前に戻れば、ほとんどが中卒、高卒ばかりの人間だった。それで何の問題もなかった。
真面目に考えれば、高校の勉強だって、かなりハイレベルなことをやっている。高校の勉強をしっかりマスターしていれば、この世の中で生きていくために必要なことはほぼ学んでいるはずなのだ。高校の教科書を今一度、開いてみてほしい。大人が読んでも、うなるほどに難しいことが書いてあるはずだ。
「かたち」だけを与え過ぎてはいけない。
高校だって、3年で卒業する必要もないのだから。僕は4年かけて高校を卒業したが、それでも足りなかった(苦笑)。
実は、、、
焦っているのは、子どもの方ではなく、親や教師の方なのかもしれない。
僕が願うのは、「無理に、18歳で高等教育機関に進学しなくていいからね。いくらでも方法はあるからね。バイトがしたいなら、数年バイトだけでお金をちゃんと貯めてね。親を責めないでね。貧困を恥ずかしく思わないでね。でも、抜け出すために、頭はフルに働かせてね。まだまだ人生は長いのだから…」、ということかな。
近年、肌で学生たちの貧困を感じる。
でも、進学してからでは、もう何も言えないのだ。高い入学金も支払ってしまっている。
だから、高校までの段階で、なんとか手を打ってもらいたいと願うのである。