ネット社会ですねー。
そんなネットという社会の中で、密かに「ライブハウス論」が盛り上がっています。
http://ugayaclipping.blog.so-net.ne.jp/2009-07-23-10
こちらの記事に、こういう記述がありました。
「…実もフタもなく言っちゃえば、日本の「ライブハウス」はミュージシャンからカネを取って経営しているってことさ~。おっとっと。「ミュージシャンから搾取している」なんて左翼チックなことは言いませんぜ旦那。/ミュージシャンにすりゃ、演奏すればするほどおカネが出て行くので、どんどんビンボーになるっちゅう仕組みですな。そんな環境でミュージシャンが育つわけないじゃん。あほらし。演奏すればするほど金銭も入るから「プロ」になっていくってもんじゃねーの? 当然、欧米じゃそう。国際水準で見りゃ、日本の「ライブハウス」ってのは奇形なのだよ」。
ネット社会が今みたいに広まる前までは、こういう話をどこかで聞くことはほとんどありませんでした。上の先輩から、時折愚痴として、ライブハウスはダメだ!という話をリアルに聞いてはいましたが、、、
ライブハウス側はもっとすべきことがあるだろう、という「警告」のような内容でした。
さらに、また、この記事を受けて、イイダケンイチさんという方がブログでさらに熱く述べておりました。
「お客さんを呼ぶ努力をしていないのは音楽家もお店も同等にあるはずです。ノルマ制というのは本来20人も呼べないとプロになれないよ!って基準です。この基準には高すぎるとか意見は色々あるのは僕も理解出来ます。そもそも1500×20×4バンドも売り上げようなんてドリンクしか売らない店には
都合が良すぎる金額です。1日で12万円も居酒屋で稼ごうと思ったらどんだけ枝豆売らなければいけないか?想像出来るでしょう。高い機材があるから仕方がないとか関係ないです出る方には。そんな物は150円の枝豆を5000円の器で出してるような物です。そういうのは「オーバースペック」って言います。普通の経営の視点で言えば過剰投資です。20人も呼べないバンドにそんな高い機材いりません。コーナンの投光器でも当てとけば良いんです」
引用元
http://ameblo.jp/kenichiiida/entry-11756732383.html
彼は、上の記事よりもややソフトに述べています。ただ、やはりライブハウス側の問題や課題については一定の理解を示しています。
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この二人の記事は、バンドをやっている人なら是非全部読んでもらいたいですね。はるか大昔、僕もライブハウスに出てた時に、結構なお金をいつも支払っていました。ライブハウスだけでなく、イベントの「主催者」もいて、その人たちにもたくさんのお金を支払っていました。たいした収入もなかったので、それはそれは大変でした。でも、そのことを疑問にさえ思っていませんでした。「そういう仕組みなんだー」くらいは考えていましたが、「お金がかかって仕方ないなぁ」、と思って、深く考えていませんでした。
でも、改めて考えてみると、不思議。ライブハウスって何だろう? そういうことを、ネット上で論じて、またそれに対して僕らも考える。いい時代といえばいい時代です。
そういうわけで、僕もこのライブハウス問題について考えてみます。
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ライブハウスを語る際に、まず注意しなければならないのは、日本の(典型的な)ライブハウスを「お店」と考え、バンドやファンを「客」と考えないで考える、ということです。
一般的に、例えば飲食店であれば、飲食店=お店、食べに来る人=お客さんという単純な図式が成り立ちます。上の記事でも、飲食店に例えた説明がありました。マック、吉野家…
が、しかし、飲食店も実際によく考えれば、実はそこには、二つの全く立場の異なる人がいます。オーナー(店舗所有者)と店主(店長)です。
飲食店を運営するとき、そのテナントを貸す側と借りる側が(ほぼ)必ず存在します。テナントの所有者がオーナーさん、そして、そのオーナーさんからテナントを借りてお店を運営するのが、店主さん(あるいは店長さん)です。
この三項関係で、ライブハウス問題を語らないと、変な方向に行ってしまいます。
●ライブハウス=テナントオーナーさん
●バンド=飲食店店主(店長)
●ファン=お客さん
このように考えば、とりあえずはすっきりとします。バンドマンは、オーナーさんであるライブハウスに、「場所を貸してくれ」、と頼むわけです。当然、借りるわけですから、お金を支払います。その額は、一バンドで、一日だいたい2万円から3万円くらい。ライブハウスを借り切るとすれば、10万~13万円くらいします。支払うのはバンドマンの方。なので、普通に考えれば、バンドマンはお客さんってことになります。が、上の図式で考えれば、テナントを借りる店主さんみたいなもので、ライブハウスとバンドは、店―客という単純な関係ではありません。
そう考えると、ライブハウス=オーナーさんは、必ずしもお客さんを呼ぶ必要はありません。お客さんを呼ぶのは、店主・店長さんです。オーナーさんに賃貸料を支払い、さらにお客さんを呼ぶ努力をしなければなりません。ラーメン屋さんで、店主が、オーナーさんに、「賃貸料を払ったんだから、客を呼んでくれ」、とはまず言わないでしょう。
そう考えると、やはり客を呼ぶのは、オーナーさんではなく、バンドのプレイヤーたちだ、ということにならないでしょうか。バンドマンは、ライブハウスという「箱」を借りて、チケット代という売上から、その箱代を支払う。飲食店に喩えるならば、そう考えるべきなのかな、と。もちろん、最初の段階で黒字になることはほぼない。最初から箱代を売上から100%まわせるバンドなんて、まずいないでしょう。徐々に、「常連さん」を増やしていくのです。
ただ、そうじゃないこともあります。
ライブハウス側がバンドを呼んで、そのバンドマンたちに出演料を支払う、というやり方です。上の記事でも、海外ではライブハウスが出演料を支払う、とありましたが、日本でもそういうやり方は実際に行われています。ただ、それは、バンドマン側に相当の力量や実力や価値がある場合です。また、ジャンルも限られてくるでしょう。アマチュアの無名のロックバンドだと、まず難しいと思われます。特定のジャンル、しかもそのジャンルで確固たるファン層がいる場合に限られます。ライブハウスやライブバー側からの「仕事の依頼」というのもあるにはあります。ただ、極めて限定的に。
ゆえに、売れないバンドマンたちは、やはりライブハウスに自腹覚悟で出演するしかなくなります。もちろん他にも、イベントやコンクールに出演する、ストリートライブを行う、インターネットで配信する、スタジオでライブっぽいことをする、といったライブハウスを回避する方法はいくらでもあります。ライブハウスだけがバンドの表現の場ではありません。
ただ、やっぱりロックミュージシャンなら、ライブをしっかりやれる場所でライブをやりたいものです。ライブハウスは、やはりバンドマンたちがライブをする専門の場所となっています。音響、機材、チケットのやり取り、照明、設営等、アマチュアバンドマンにとっては、最もライブがやりやすい場所です。町のお祭りや学園祭やイベントに出るのもいいですが、やはりライブハウスが一番バンドマンにはやりやすい場所なんだと思います。スタジオでやるのもいいですが、アンプから直の音になりますから、音の面での期待はできません。それに、店長さんやスタッフの方から助言もいただけますし、機材の使い方などいろいろと教えてもらうこともできます。
けれど、、、
ライブハウスがこのまま何も変わらなくてもいい、というわけでもありません。今、ライブハウスは本当に乱立しており、バンドマンからしても、いったいどこのライブハウスを信じて、どこのライブハウスを拠点にして頑張ればいいのか、途方に暮れます。たとえば千葉だけでも、LOOKにするのか、K's Dreamにするのか、ANGAにするのか、ZXにするのか、はたまたSTARNITEにするのか。悩みます(僕の中ではやっぱ千葉=ダンシングマザーですけど、、、(・_・;))。
都内となると、もうわけわからない。新しいライブハウスがどんどんできてますからね。僕的には、まずは新宿JAM、そして、目黒鹿鳴館、目黒ライブステーションがやっぱ安心できるというか、憧れられるというか、そういう感じです。池袋CYBERなんかも、V系的には欠かせないライブハウスなのかな、とも。新宿ロフトはまだ雲の上の存在。けど、今は他にも新しいライブハウスがいっぱいあって、どこにどう出りゃいいのか、途方に暮れるわけです。
しかも、そのライブハウスに出演したからといって、そこに自分たちを知らない、かつ自分たちの音楽を気に入ってくれそうな人が集まっているわけではありません。今の時代、ふらっとライブハウスに行く、という人はほとんどいません。それは上の二つの記事でも書いてあるとおりだと思います。
だから、やみくもにライブを数多くこなしていっても、「支払い」ばかりが増えていく一方で、「収入」はゼロのまま、という事態になってしまいます。
それを、ライブハウスのせいにするのも、また自分たちのせいにするのも、あるいは時代のせいにするのも、自由です。事実としては、ライブハウスはそういうシステムで動いているということ、そして、お金は現実的に必要であること、また、聴いてくれるお客さんはやはり自分たちで探さなければならないこと、しかし、そのお客さん自体が本当に少ないこと、です。
そのために、ビラを配りに、人気のあるバンドのライブ会場に行ったり、ライブハウスの前でビラを配ったり、雑誌やメディアで頑張って告知をしたり、ライブ前にストリートライブをしたり、と営業努力をしているわけです。かつてジルドレイ?だったかな、ジルドレイの渋谷公会堂のライブを見に行った時に、マスケラのメンバーがその付近でビラを配っている姿を拝見したことがあった記憶があります(多分、、、(・_・;)) そこでマスケラを知り、CD?(テープ?)を買った記憶があります。今でも、人気バンドのホールコンサートに行くと、そのコンサートの終了後に、フライヤーや無料音源を配布しているバンドマンを見かけます。ああいう努力ですよ。。。
バンドマンはプレイヤーですから、やはりラーメン屋店主と同様に、いいものをしっかりと作り、そして、お客さんを呼ぶ努力をして、経営面でもシビアになり、自分たちの貯蓄を切り崩して、やっていかなければならない部分は多々あります。ただ、ラーメン店はお店であり、ラーメン店主は職業です。バンドを職業として考えるなら、そういう努力をしてなんぼでしょう。
けれど、バンド活動は、文化活動でもあります。仕事を別にもって、趣味として、あるいは生きがいとしてバンドをやる、ということもあります。文化活動は、労働活動とは別のものです。文化活動を支える場としてライブハウスを考えるならば、やはり使用料は高すぎるようにも思います。お金持ちのメンバーが一人いれば、一回3万円のライブなど、たやすいものでしょう。けれど、3万円を趣味の音楽に毎月あてる、というのは現実的には難しい。サラリーマンの一か月分のお小遣いですよ。子どもがいたら、まずこんなお金、捻出できません。
今の時代、ビジネスとして音楽はもう成り立たないくらいに弱っています。職業としてミュージシャンを続けるのは、本当にごくわずか。そのごくわずかな人のためにライブハウスがあってよいのか。そういう「職業ミュージシャンのリクルート機能」として、ライブハウスがあってよいのか? 考えるべき時かもしれません。
もし、ですよ。しっかりとしたライブハウスがあって、「文化活動の場を提供する」、という理念があって、出演料が一バンド1万円で、チケットを一枚500円程度で販売できるなら、もっと人も気軽に来られるでしょうし、バンドマン側も人を誘いやすい。けど、それじゃ、ライブハウス経営は難しい。4バンドの対バンの通常ブッキングで考えると、ライブハウスの収益は4万円+ドリンク代ということになります。これじゃ、運営できない。。。
ライブハウスはビジネスであり、仕事としてやっています。バンドマンは職業として望む人もいれば、文化活動・余暇活動としてやりたい、という人もいます。でも、どちらにしても、「先立つお金」がどうしても必要です。しかし、そのお金とて、数年もすれば、使いきってしまうでしょう。CDを真面目に作ろうものなら、50万~100万はさっと消えていきます。自宅で録音して、MP3等でCD-Rに焼いて作れば、たいしたお金はかかりませんが、ちゃんとレコーディングをして、CDプレスをして、ジャケットを作って、包装して、、、となると、大変です。
文化活動としてバンドを真面目にきっちり続けたいならば、やはりかつてのクラシックの世界と同様、「パトロン」が必要なのかな、と今の僕は考えます。お金を出してくれる人、応援してくれる人、あるいはよき理解者。そういう人がいれば、お金の問題はクリアされます。が、そういうパトロンを見つけるのは至難の業。けど、それ以外に、なかなかこの問題を解決する術はなさそうに思います。
バンド活動は、とにかくお金がかかります。ランニングコストもバカになりません。スタジオ代だって決して安くはありません。機材を買おうと思えば、何十万とすぐに飛んでいきます。ライブハウス出演も上で述べたとおり。生活するだけでギリギリ、という人に、そんな贅沢な趣味を続けるのは極めて困難です。お金の問題は、バンド活動をする上で、切っても切れない問題なんだな、と改めて思わされます。
けど、最終的には、人から見て魅力的なバンドにすることが、最優先の課題でしょう。自分たちの満足を求めるなら、勝手にやればいい。でも、赤字にならずにバンド活動を続けたいなら、お客さん=ファンを作る努力を惜しまないでやる、ということに尽きるでしょう。ある程度の戦略も必要です。
まずは、「常連さん」を作ること。喜んで自分たちのライブを見に来てくれる「常連さん」。自分たちの音楽を好んで聴いてくれて、自分たちの歌を口ずさんでくれて、応援してくれる「コアな人」を一人でも多く作っていくこと。その努力を日々惜しまないこと、だと思います。
そのためにも、まずは自分たちの演奏力、表現力、説得力、魅力を磨いて、自他共に本当に納得できるバンドのかたちにすること。演奏力だけじゃない。どうライブで見せるか、どういうコンセプトでライブをやるか、聴いてくれる人が飽きないためにどういうアプローチでいくのか、等々。それ以上に、「ホンモノのバンド」を目指して、バンドメンバー間で討論して、意見を重ね合わせて、常に変化し続けること。
それは、仕事であれ、趣味であれ、同じことだと思います。あるいは、芸術であれ。「承認」も大事ですが、それ以上に、「本当にいいバンド」であれば、どのライブハウスに行ってもキラリと光ります。目立ちます。変に媚びなくても、人は集まってきます。どんなにすっからかんなライブハウスでも、自分たちを知らない人は一人はいます。その一人の心を動かせるかどうか。
その鍵は、やはり一言で「バンドの魅力」だと思います。
プロを目指すかどうかはその際、それほど問題ではありません。それよりもまず、バンドのクオリティー(技術だけじゃなくて、総合的に)を高めること。持ち時間30分(通常ブッキングのスタンダード)を、より高い次元の空間に変えること、そのクオリティーをどこでも出せるようにしておくこと。それしかないと思います。あとは、続けること。それって、学者の世界でも一緒。研究者にできることは、とにかく真実を追って、たとえそれを誰も評価しなくても、しっかり地道に研究を続けて、論文を書き続け、発表し続けるしかない。あとは、キャッチされるのを期待して、自分の研究を深化させていくのみ。人と同じことをやってもダメで、自分にしかできない研究を築くこと。
バンドもそう。芸術と学問はよく比較されます。どちらも、「真理の追究」です。そこから目をそらして、売れることや技術の向上ばかりを目指すと、変な方向に行きます。バンドマンなら、とにかくバンドのクオリティーを考えて、誰がどこで聴いても「カッコいいなぁ」と思えるバンド作りに尽力したいものです。
結論から言えば、それが好きだから。
それでいいんじゃないかな、と。
僕はバンドが好き。それだけです。