麒麟が引く車が内門の前で止まった。宮殿の方に通じる第一の門なのか、左右の門柱の前には脚にゲートルを巻いた衛士が一人ずつ立っていて、通行証を確認しながら徒歩の通行人を目で追っている。
津守の長のアカタリが車上から「お告げ鳥を送ったアカタリだ。建部の頭イトフ殿に会いに参る」
「伺っております。お通りください」
「お告げ鳥って何でしょうね」都賀里と於爾、於爾加美毘売が低い声で話している。
「伝書鳩のようなもんだろ」飛が龍二を見ながら小声で言った。
「後で説明するから、何の鳥か判ったらもらって帰ろう」龍二が都賀里達に告げた。
門を入り、麒麟車はゆるやかな坂を登った。道の左右には低い建物が並び人々の出入りがある。これらが役所なのだろうか。路の左側の一番奥の立派な建物の前で車が止まった。ここにも門番がいた。
「ここが建部です。イトフ殿に面会し、女王にお取次ぎ願いましょう」アカタリが車を降りながら神たちに言った。
スクナビの神が後を振り返り、久地たちに「それでは、ここで車を降りましょう」
健部の建物の玄関へ進むと扉が左右にスライドした。
「この辺はどこかで見た気がする。建物といい配置といい・・」龍二が独り言をつぶやいた。
玄関の中には屈強な衛士が一人いて我々に深くお辞儀をした。
「お待ちしておりました。頭の処にご案内いたします」
土足の処がちょっと違うか・・。また龍二がつぶやいた。
建物の奥に進み分厚い扉の前に来た。
案内してきた男が扉の前で「スクナビの神様ご一行が到着されました」と中に声をかけた。
扉がゆっくりと左右に滑って、部屋の中が見えた。
出迎えの男が「お待ちしておりました。お入りください」と言って一行に深々と頭を下げた。
正面の一段高い所に大き目の椅子が置かれていて、向かって右下段に机があった。
その机の後ろに恰幅の良い一人の男が起立して、こちらに一礼してから前に進み出てきた。
「スクナビの神、ようお越しになりました。歓迎いたします」
「イトフ殿、その節はお世話になりました。此度は・・」
「アカタリの告げ書でおよそのことは伺いました。お力になるつもりです」
建部の頭イトフはそう言いながら、後ろの上段の椅子の上後方に飾られている物を指差した。
「ツヌギリの太刀です。女王より吾れが拝領しました。テルタヘ女王がご臨席の際の玉座にお飾りしてあります。此度は使わせていただく所存です」
「と言いますと・・」
「アダシ国遠征にお供することを女王に願い出る所存です」
「イトフ殿、こちらは久地の尊とご一行、久地の尊は後継国より参られ下都国を助けし。今し吾れら神達の国に助力を頂いております。皆、吾れより一段とすぐれた剣使いたちです」
「イトフと申します。建部の頭を仰せつかっております。これを機にウマシ国の建部の再編を考えるために遠征に加わりたいと思います」
「それは一段と心強い。久地の尊如何か?」スクナビの神が久地たちを見ながら言った。
「神たちの国の人達を救うには願ってもないことです。アダシ国の事件を聴きおよび、隣国の本性が現れたことを見て取られたと思います。建部の編成とエダチの者たちの訓練には適任の者が同行しております。下都国は左母里の耶須良衣と美美長族の美美長比古と申します。耶須良衣は戦術に優れ、美美長比古は一団を率いて戦うを得意としております」
「そうですか、耶須良衣殿、美美長比古殿お力をお貸しください。この仙境ハバの均衡が崩れるときが来たようです。仙都アカルタエを守るためにも今のアダシ国の仙都アラタヘをこの目で見ておきたいのです。ワルサ王は女王の弟なるが故に吾れらにはアダシ国は禁足地なのです」
スクナビと久地がそれぞれの者をイトフに紹介し、宮殿への使いが戻るのを待った。
つづく
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